PROFILE: GRe4N BOYZ
監督:岸善幸 × 脚本:宮藤官九郎 × 主演:菅田将暉による映画「サンセット・サンライズ」は、新型コロナのパンデミックに世の中が揺れた2020年の東北を舞台にした物語だ。大企業に勤める晋作(菅田将暉)は、リモートワークになったことをきっかけに東京から三陸の街に引っ越してきて大好きな釣り三昧の日々。そこで出会った地元の人々と触れ合うことで晋作は大きく変わっていく。コロナや東日本大震災などさまざまな問題を盛り込みながら、笑いと涙に満ちた人間ドラマに仕上がった本作。そのインスパイア・ソングを手掛けたのは、24年にGReeeeNから改名したGRe4N BOYZ(グリーンボーイズ)だ。大学時代を福島で過ごしたということもあり、映画から受けた印象だけではなく、東北で暮らす人の思いも反映させたというインスパイア・ソング「シオン」はどのようにして生まれたのか。メンバーのHIDEとnaviに話を聞いた。
——「シオン」は主題歌ではなくインスパイア・ソングということですが、どんな風に曲を作り上げていったのでしょうか。
HIDE:これまでインスパイア・ソングというのはやったことがなかったので、自分の中にどういう感情が生まれるのかを意識しながらまずは映画を観させていただきました。主題歌を書く時もそうなんですけど、事前に映画に関する情報は何も入れずに、初めて観た時に感じたことを大切にして曲を作ろうと思ったんです。
——映画を観てどう思われました?
HIDE:脚本が宮藤官九郎さんということもあって、笑いの要素もたくさんありますし、楽しく観られる映画だと思う反面、とても繊細な部分も描かれていました。その両方の部分を曲に反映させつつ、自分たちが東北で過ごしていた時のことや、震災直後に現地に入った時のことを思い出しながら曲にしていこうと思いました。
——naviさんは映画にはどんな感想を持たれました?
navi:いろんなテーマが重なっていて、それに対して登場人物の一人一人がそれぞれの立場で向き合っている姿が印象的でしたね。あと、映画の舞台になった三陸に親戚がいるんですけど、映画が現地の雰囲気をすごく捉えていることに驚きました。出てくる人たちの方言もすごくリアルで親近感を感じました。特に中村雅俊さんの方言のイントネーションが本物過ぎて。中村さんが地元の方だというのを後で知って「だからか!」と思いました。
——方言やイントネーションは大切ですよね。その土地の文化でもありますし。
navi:あと、コロナが広まっていった時の地方の小さな町の雰囲気もリアルに描かれていました。(コロナが広まっている)東京から人が来て大ごとになる感じとか、確かにそうだったよなって。当時、帰省する時は気を付けていましたが、しっかり検査して帰省したとしても目に見えない恐怖というのは拭い去れないので、地元では外から来る人を警戒していたんだろうなって改めて思いました。そういう距離感も映画ではうまく表現されていましたね。
HIDE:あと、地元のおいしいものがいろいろ出てくるのも良いですね。映画の後半に出てくる「芋煮会」は僕らもよくやっていたんです。友達と「芋煮会しようか」って。バーベキューとかお花見みたいなものなんですけど、友達と集まって一緒に芋を煮て食べるんです。
——映画では人間関係が煮詰まった時に芋煮会を開いて、そこで晋作が気持ちをさらけ出します。きっと、そういう雰囲気になる会なんですね。
HIDE:自然の中で仲間と鍋を囲むことで自分の心が裸になれるというか。だから、晋作の感情が爆発してしまうのも分かる。あそこは映画を観ていてシビれる展開でしたね。
「癒やしを必要な人に、癒やしが届く曲になれば良いな」
——インスパイア・ソングの「シオン」は、そんな風に強い感情が溢れ出すような曲ですね。いろんな要素、いろんな感情が詰まった映画でしたが、曲を作る時には映画のどんなところに焦点を当てたのでしょうか。
HIDE:自分たちが作った曲が映画を見た方にとっての何かになってほしい、と思った時に、この作品にはいろんな要素があるけれど、一番大きな要素は「癒やし」じゃないかと思ったんです。いま、癒やしを必要な人に癒やしが届く曲になれば良いな、と思いました。
navi:どんなメロディーや曲調にしたら映画の雰囲気に合うのかな、と考えながら映画を観させてもらったんですけど、いろんな要素がある映画なのでどんな曲でも合いそうだったんですよね。明るい曲にもできたし、もっとバラードっぽくもできた。でも、最終的に癒やしをテーマしたことでこの曲が生まれたんです。
HIDE:その一方で、癒やしに限らず、映画を観た方が必要としているものを届けられる曲にしたいとも思ったんです。そして、映画全体が醸し出している雰囲気みたいなものが曲になったらどんな風になるんだろう?と考えながらギターを弾いている時にメロディーが降りてきました。
——まず、メロディーが生まれたんですね。
HIDE:僕らの曲はいつもメロディーが先なんです。今回は「この映画を観て良かった。この曲を聴いて良かった」と思ってほしい相手を想像して、その人に向けて歌詞を考えました。
——「あなた」に語りかける歌詞になっていますね。季節が歌詞のモチーフになっているようにも思えたのですが。
HIDE:気が付いたらそうなっていた、という感じですね。設計図的なものはなく、自然に出てきた言葉をつなげて歌詞にしました。
——naviさんはHIDEさんが書いた歌詞について、どう思われました?
navi:季節を巡りつつ、最後に「私は生きていく」という強い意志を出すところが印象的でしたね。
HIDE:震災が起こってから、今も前に進めない方がたくさんいらっしゃると思うんですよ。でも、動けなくても今ある命を惜しみなく使っている。そういう気がしたんですよね。
——晋作が想いを寄せる百香(井上真央)も、震災以降に動けなくなった女性でしたね。「シオン」という曲名はどこから取られたのでしょうか。
HIDE:曲のタイトルを決めるのはいつも一番最後なんです。できた曲を聴いたり、歌詞を読んだりして、この曲は何を言っているんだろう?と考えて曲名を考えるんですけど、そこでたどり着いたのが「シオン」でした。シオン(紫苑)の花言葉が「追憶」で、それが映画や曲にも合っていると思ったんです。でも、「この曲名の意味は追憶です」と言い切りたくはなくて。ただ、「シオン」という言葉の響きがすてきだな、と思っていただいてもいいですし、曲を聴かれる方それぞれが好きなように感じてくれたら良いな、と思います。
——東日本大震災で傷ついた人々を、映画の題材として取り上げるのはとてもデリケートなことです。お二人は震災も体験し、HIDEさんは震災直後に歯科医師として現地に入られたりもされましたが、映画で描かれた震災が人々に与えた影響についてどう思われました?
HIDE:この映画で伝えたいのは、東北は時間はかかりながらもちゃんと前向いていますよっていうことだと思うんですよ。そういうことが映画をご覧になった方に伝わるのは素晴らしいし、そういう作品に参加できたのはありがたかったですね。
——晋作と衝突していた地元住民のケン(竹原ピストル)が、芋煮会で晋作に向かって「俺たちのことを見ててくれたらいいんだ」と言うのを聞いて、そういう想いもあるのか、と思いました。被災地で暮らす人々に対して、どんなふうに接していいのか分からない自分にとって心に響く言葉でした。
navi:僕も今、そのセリフを思い出していたんです。地元の人たちの意見はいろいろあると思うんですけど、「見ててくれたらいい」というのは、とてもバランスが取れた良い答えというか、あのセリフを聞いて「そうだよな」ってすごく納得しました。
GRe4N BOYZとしての新たなスタート
——昨年、GReeeeNはGRe4N BOYZとして再出発して新作アルバムもリリースされました。グループ名を変えたことで、音楽に対する向き合い方に変化は生まれました?
HIDE:急に何かが大きく変わったりはしないんですけど、名前が変わるというのは大きなことだというのは実感しました。新しいグループ名を認知していただくのがすごく大変で。でも、僕らのことや僕らの音楽を信じてライブに来ていただいたり、作品を聴いてくださったりしてる方たちが、こんなにもたくさんいてくださるんだということを知ることができた。そういう人々に対して恩返しをするというか、これから一緒に成長していけたら良いな、と思ってます。
navi:名前を変えてもついて来てくれるファンの方には本当に感謝してます。あと、GReeeeNだった時は、メンバーの間で「GReeeeNってこうだよね」ってなんとなく意識していることがあったんです。でも、GRe4N BOYZになってからは、そういうことは意識せずにいろんなことに挑戦するようになりました。そのおかげで音楽の幅が広がった気がするんですよね。
——晋作が三陸で暮らすようになって新しい人生を歩み始めたことと、GReeeeNがGRe4N BOYZとして再出発したことは重なるところがあるような気がします。
HIDE:そうですね。晋作は新しい価値観に触れて、今までとは違ったものを素敵だと思えるようになった。今の自分たちはそういう状態に近い気がします。これまで僕たちの音楽を聴いてくれていた人たちにとっても、そうだと思うんですよ。GRe4N BOYZの音楽に触れて、新しい魅力を感じてくれるとうれしいですね。
navi:晋作が前向きな姿勢で新しい価値観に向き合っているところにも共感していて。いま、僕たちもフレッシュな気持ちで音楽に向き合っていて、これからいろんなことに出会えそうだなって今すごくワクワクしているんです。
■映画「サンセット・サンライズ」
出演:菅田将暉
井上真央
竹原ピストル 山本浩司 好井まさお 藤間爽子 茅島みずき
白川和子 ビートきよし 半海一晃 宮崎吐夢 少路勇介 松尾貴史
三宅健 池脇千鶴 小日向文世 / 中村雅俊
脚本:宮藤官九郎
監督:岸善幸
原作:楡周平「サンセット・サンライズ」(講談社文庫)
音楽:網守将平
歌唱:⻘葉市子
企画・プロデュース:佐藤順子
制作プロダクション:テレビマンユニオン
配給:ワーナー・ブラザース映画
©︎楡周平/講談社 ©︎2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
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