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藤原季節が語る「俳優という仕事」 「演じているときだけ本当の自分をさらけ出せる」

PROFILE: 藤原季節/俳優

PROFILE: (ふじわら・きせつ)1993年1月18日生まれ、北海道出身。小劇場での活動を経て2013年から俳優としてのキャリアをスタート。20年には、主演を務めた「佐々木、イン、マイマイン」がスマッシュヒットを記録し、「his」とあわせて同年の第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。翌年には第13回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞するなど、デビュー以降、映画のみならずドラマ、舞台など幅広く活動を続けている。その他の近作として、映画「空白」(21)、「わたし達はおとな」(22)、「少女は卒業しない」(23)、「辰巳」(24)など。現在、映画「東京ランドマーク」(林知亜季監督)が全国順次公開中。

巨大生物が大量に発生して、ホテルから出られなくなった12人の人々。そこで繰り広げられるドラマを描いた映画「あるいは、ユートピア」は東京国際映画祭Amazon Prime Videoテイクワン賞受賞の取り組みの一環として、Amazon MGM Studiosによって製作された。新進気鋭の監督、金允洙(キム・ユンス)のもと、渋川清彦、渡辺真起子、吉岡睦雄、原日出子、大場みなみ、麿赤兒など、個性豊かなキャストが集結した。そこで主人公の牧雄一郎を演じたのは藤原季節。3週間にわたってキャスト全員が同じホテルに宿泊して撮影を行うという現場で、藤原はどのように役に向き合ったのか。演じているときだけ本当の自分をさらけ出せる、という藤原に、映画のこと、そして、演じることについて話を聞いた。

「脚本をどれだけ深く読解できるか」

——本作はホテルを舞台にした密室劇のようなところがありますが、実際にホテルを借り切って撮影が行われたそうですね。

藤原季節(以下、藤原):そうです。全部のシーンが同じホテルで撮影されて、キャストやスタッフはそのホテルに宿泊しました。キャストは3週間くらい泊まって、スタッフさんはもっと長かったんじゃないでしょうか。そんなふうに関係者全員が同じホテルに長期間滞在して撮影するのは珍しいと思いますね。

——3週間も! それだけ一緒にいたら、映画の登場人物たちと同じように連帯感が生まれそうですね。

藤原:連帯感はかなりありましたね。キャストもスタッフも一緒にご飯を食べていましたし、キャストの原日出子さんが手料理を振る舞ってくださったり。ご飯を食べた後も、気が付いたらみんなで一緒に歌を歌ったり、本当に“ユートピア”みたいでした。日が経つにつれて、どんどん外の世界から隔離されたような感覚になっていきました。

——朝から夜まで一緒ということは、脚本の読み合わせやリハーサルは念入りにやられたんですか?

藤原:繰り返し念入りにやりました。カメラが回った瞬間に表出してくる生の感情が良いっていうのも分かるんですけど、そこで何を大切にしなきゃいけないかは脚本の中に書かれていると思っていて。脚本をどれだけ深く読解できるかっていうのが一番大切なことだと僕は思っています。その作業を自分一人じゃなくて、ほかのキャストや監督とできるのは、僕にとってめちゃくちゃありがたいことでしたね。本読みでディスカッションをして準備を重ねておいて、現場に入った時に生の感情で初めて勝負するようにしていました。

——脚本を読むときに大切にしていることはありますか?

藤原:まず、最初は観客として読みます。子供が初めてお話を読んでるときのような純粋な気持ちで読むことを意識していますが、それ以外だと、いろんな人間になりきって声を出してみたりもしていますね。

——例えばどんな感じで?

藤原:いろんな映画で役者が演じている登場人物になって読んでみたりするんです。例えばアル・パチーノさんとか森山未來さんが演じているようにやってみたり、とか。そうすることで、何か新しい視点が見つからないか探ってみたりしています。

——そういうことができるのは、日頃、映画や舞台を通じて役者の演技をシビアに見てるってことですよね。

藤原:というよりは、もともとモノマネが大好きなんです。「ジョーカー」を演じているホアキン・フェニックスとか、役者さんの台詞の言い回しとかを真似して脚本を読んでみる。そこで発見したものを演技に取り入れたりもしています。

——今回、個性的な共演者が多かったのでかなり刺激を受けられたのでは?

藤原:もう、刺激しかなかったですね。これだけの映画人の方々に囲まれてお芝居をさせていただけるというのは夢のような時間で。毎晩、渋川清彦さんや渡辺真起子さんと映画の話をたくさんして本当幸せでしたね。

——渋川さんとの共演シーンはヒリヒリしました。

藤原:渋川さんと演技していると、ロックが頭の中に流れるんですよ。これが不思議で。あるシーンで共演したときは、「フィッシュストーリー」という映画に出てくる「逆鱗」っていうバンドの曲が頭の中に流れて。なんでだろう?と思って部屋に戻って「フィッシュストーリー」のことを調べたら、なんと逆鱗でドラムを叩いているのが渋川さんだったんです(笑)。それを知って、めっちゃ興奮しました。記憶の点と点がバン!ってつながって、めちゃくちゃヒリヒリする瞬間でしたね。

何者かを演じることで仮面を取ることができる

——驚きですね! 今回の物語は極限状態に置かれた人々を描いていますが、ホテルで展開していく人間関係をどんなふうに思われました?

藤原:こういうどこかに閉じ込められるドラマって、登場人物たちがどんどん追い詰められて、殺し合いが起こったりすることが多いじゃないですか。狂気に走っていくというか。でも、この物語では牧雄一郎が秩序を提案して、争いなく生きていこうとする。そして、自分たちがいる世界を良くしようとしているうちに、破滅に向かっている外の世界のことにだんだん無関心になっていく。そういうところが今っぽいと思いました。

——みんな社会でうまくやっていけなかった人たちだから、相手を押しのけようとする悪意は持っていない。だからこそ、奇妙な共同生活が成り立つのかもしれませんね。

藤原:そうですね。ホテルに残された人たちって、今まで生きていた世界が嫌で仕方なくホテルに来た人ばかりじゃないですか。でも、謎の巨大生物が発生したことによって、自分が関わった社会や自分の知り合いとの関係が途切れてしまう。そこで彼らは自分自身に立ち戻って、自分が何のために生きているのか、何がしたかったのかを改めて考えて生きることを選択する。そういうところはピュアだと思いますね。

——そんな中で牧は小説を書き始めます。

藤原:世界が終わるかもしれない。食料がいつかは尽きることが分かっているのに小説を書く。欲望の一番深いところに「物語を書きたい!」という気持ちがあるのが、めちゃくちゃ素敵だと思いました。じゃあ、自分が同じ状況にいたら、一人芝居を始めるのかなって考えたりしますよね。みんなこれまで苦しい思いをして生きてきたから、リセットできる機会を得た時に自分がなりたいものになろうとする。前向きに未来に向き合おうとするんでしょうね。それが素晴らしいと思いました。

——自分のなりたいものになろうとする、というのは、何かを演じる、ということでもありますよね。それは役者が役を演じることと近いと思われますか?

藤原:めちゃくちゃ近いと思いますね。僕はどこかで現実の自分に嫌気が差していて。役を演じることで誰かになりたいっていう気持ちがすごくあるんです。社会で生きていくというのは、多かれ少なかれ仮面をかぶって自分の本心を隠していると思うんです。でも、何者かを演じていると、その仮面を取ってもいい瞬間があるんです。

——演技の時は役という仮面をかぶるのではなく、逆に仮面を取るんですか。

藤原:そうなんです。演技のときは、仮面をかぶるのではなく取るんです。そうじゃないと、言葉が人に届かなかったりするんです。僕にとって本当に感動する演技というのは、役者が仮面を外して裸の心を見せてくれたときで。そういう瞬間に観客の心は動くので、自分もそういうことができる俳優でありたいと思っていますね。

演技というのは原則的には嘘なんですけど、その嘘の中にも真実があると思っていて。フィクションだからこそ、人の胸を打つ本心が描き出せる。そのためには、リスクを背負ってでも、日常で被ってきた仮面を捨てて本当の自分で勝負しなくてはいけない。それができたときに、俳優という仕事の一番の醍醐味を感じるんですよね。

——思えば人は仮面をつけて生きているのかもしれませんね。親に対して、友達に対して、恋人に対して、それぞれ違う仮面をつけて自分を演じている。

藤原:そういう意識は子供の頃からありました。話す相手によって自分が違っていたので、本当の自分はどこにいるんだろうって思っていたんです。でも、19歳で初めて演劇をやったとき、誰かが書いた台詞を読んでいるのに本当の自分が出せた気がして、すごく快感を覚えたんです。めちゃくちゃ不思議な現象でしたね。

——演技以外では、そういう体験はなかった?

藤原:ありませんでした。いろんな表現方法があると思うんですけど、自分には何かを演じることがフィットしたんだと思います。それ以来、生きていく上で役者の仕事はすごく重要なことになったんです。どんなぜいたくをしても、演技をしたときのように心が満たされることはないと思いますね。

「自分にできることを精一杯やるしかない」

——これから役者として、こんな表現ができるようになりたいとか、何か目指していることはありますか?

藤原:ありますね。佇まいっていうものがすごく大切だと思っていて。それって、自分が普段何を考えて、どんなふうに生きているかっていうことが身体からにじむということなのかなって思っているんですけど、そういうものが感じられるような人になりたい。自分が影響を受けた先輩方には、そういう佇まいを感じるんです。

今僕は31歳なんですけど、佇まいが出るには場合によっては30年以上かかるかもしれない。それまで、どうしようかと思っていて。今、自分にできることを精一杯やるしかないんですけど、最近、限界を感じ始めているというか、もっと新しい自分になりたい。どうやったら生き方が濃くなるだろうって考えながら、一生懸命、日々を過ごしています。

PHOTOS:MASASHI URA
STYLING:TAKASHI USUI(THYMON Inc.)
HAIR&MAKEUP:MOTOKO SUGA
シャツ 12万1000円、パンツ14万3000円、シューズ 8万6900円/全てエンポリオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン 03-6274-7070)

■映画「あるいは、ユートピア」
渋谷・ユーロスペースで2024年11月16〜29日まで期間限定で劇場公開

大量発生した謎の巨大生物によってホテルに残された12人。非暴力&不干渉を合言葉に助け合いながら平穏に暮らしている。そんな中、一人の人物が遺体となって発見される。轟音が鳴りやまないながらも平和な日々は、果たして地獄か理想郷か。第34回東京国際映画祭Amazon Prime Video テイクワン賞受賞者の金允洙監督長編デビュー作。

出演:藤原季節 渋川清彦 吉岡睦雄 原日出子 渡辺真起子 大場みなみ
杉田雷麟 松浦りょう 愛鈴 金井勇太 / 吉原光夫 篠井英介 麿赤兒
監督・脚本:金允洙
プロデューサー:森重晃、菊地陽介 
音楽:竹久圏
撮影:古屋幸一
編集:日下部元孝
ポストプロダクション:ソニーPCL 
制作プロダクション:レプロエンタテインメント
製作:Amazon MGM Studios
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