PROFILE: 坂東龍汰/俳優
2017年のデビュー以来、振り幅の広い演技で注目を集めてきた坂東龍汰。初の映画単独主演作となる映画「君の忘れ方」が1月17日から公開される。坂東が演じるのは、結婚間近の恋人を突然亡くした青年、昴。同じような悲しみを抱えた人々が集まる「グリーフケア」との出会いを通じて、昴は自分自身と向き合っていく。昴の複雑な内面を坂東は繊細な演技で表現しているが、そこには個人的な体験も反映されているという。自分の過去と向き合いながらの撮影の舞台裏。そして、子供の頃から惹かれていた、何かを創作することの喜びについて語ってくれた。
「昴を演じて、これまでよりも前向きな気持ちになれた」
——映画「君の忘れ方」は坂東さんにとって初めての映画単独主演作ですが、どんな気持ちで作品に向き合われたのでしょうか。
坂東:話を頂いた時は身が引き締まる思いでした。まず脚本を読んで、他人事とは思えないくらい物語に引き込まれたんです。透明感があってすごく温かい話だと思ったので、「ぜひ、やらせていただきたい」と思いました。脚本と一緒に監督からの手紙を頂いたのですが、これまで僕が出演した作品を観てくださっていて、「あなたの真っすぐなお芝居を観てオファーさせてもらいました」ということを書いてあったのもうれしかったですね。
——他人事とは思えなかった、というのは、昴の葛藤に共感するものがあった?
坂東:僕は子供のころに身内を亡くしているんです。初めての単独主演作がこういう題材なのは不思議な巡り合わせだし、自分にとって大きなチャレンジになると思いました。これまで自分の中でフタをしていた部分と役を通じてちゃんと向き合うことになるわけなので。
昴を通じていろんな感情と出会いました。その中には自分自身の感情とリンクするものもたくさんあったんです。その全てと向き合って自分の傷を癒やすことができた、とまではいきませんでしたが、これまでよりも前向きな気持ちになれた気はします。それだけでも、この映画に参加した意味はあったと思いますし、僕や昴と同じように親しい人の死を経験した方の傷ついた心に寄り添える作品になった、という自信はあります。
——映画に出てくる登場人物たちは、いろんな形で大切な人を失った悲しみと向き合おうとします。その姿を見て、どんな風に思われました?
坂東:どのやり方が正しい、とか、答えがあることではないし、答えを見つける必要もないと思うんです。それぞれが自分に合ったやり方で悲しみと向き合っていけばいい。そんな中で、映画のセリフにもあるように時間が果たす役割は大きいと思いました。僕も時間が経ったからこそ、一度フタをした自分の感情に向き合えたんです。あと、グリーフケア(死別や災害などによる喪失を経験した人が、悲しみや痛みに寄り添い、立ち直り、自立できるよう支援すること)というものをこの映画をきっかけに知ったのが個人的には大きかったですね。海外の映画では見たことがあったのですが、日本でもそういう活動をされている方々がいるのを知って、今後、自分の人生でまた大切な人の死に直面した時に、一つの選択肢としてグリーフケアを考えようと思いました。
「普段は外に出していない自分の一面と向き合った」
——昴はグリーフケアに参加して交流するようなタイプではなく、いつも自分の中に何かを抱え込んでいるようなキャラクターでした。坂東さんは昴という人物のどんなところに興味を持たれました?
坂東:僕は昴とは真逆の性格なんです。僕自身は人との関わりや会話が好きだし、自分の身に起きたこととかを誰かと共有したいタイプなんです。だから、昴との共通点を見つけるのは難しかったのですが、昴の感情を探っていく中で普段は外に出していない自分の一面と向き合いました。
——役作りを通じて自分を見つめ直した?
坂東:僕は基本明るいんですけど、陰の部分も持っているんです。昨年公開された「若武者」という映画で、二ノ宮(隆太郎)監督はそういう部分を見たい、とおっしゃっていました。これまで演じてきた役も何かを抱えている役が多くて、作り手の人たちには自分の性格を見抜かれているのかもしれません(笑)。皆さん、友達とは違う面を見てくださっているんですよね。今回の映画も僕の核の部分で眠っている、普段は開けない引き出しを開けることで昴という人物を作り上げていきました。
——それは精神的にヘビーな作業だったのではないですか?
坂東:大変でしたね。これまでは、自分が演じる役を客観的に見て、分析しながら役を組み立てていくことが多かったんですよ。今回はそのやり方だと煮詰まってしまって。それで撮影に入る前に監督に相談したら、昴に関しては主観に徹して、その場その場で感じたことを拾っていってほしいと言われたんです。組み立てる作業はこちらでやるので、あなたは生まれたての赤ちゃんみたいに目の前で起こることに素直に反応してほしいと。
——実際、そんな風に演じてみていかがでした?
坂東:自分では気付かなかったのですが、気持ちの浮き沈みが激しくて、笑っているな思ったら、絶望的な表情になったり。特に映画の前半、東京のパートの撮影時はいつもと違う様子だったみたいです。。僕は当時のことは全然覚えていないんですよね。
——昴の精神状態に大きな影響を受けていたんですね。
坂東:みたいですね。これまではそういうことはなかったんです。僕は役と自分を切り替えられる方なんですよ。でも、この作品ではそれがうまくできなかった。監督は僕がそういう状態になるのを望んでいたらしくて、「しめしめと思った」とおっしゃっていました(笑)。みんなで野球をした後に昴がキレるシーンがありますが、本当はあんなに感情を爆発するシーンではなかったんです。でも、いざ撮影に入るとああいう演技になってしまって。周りは戸惑ったと思います。
——でも、監督はそのテイクを選んだ。
坂東:選んだというか、そのテイクしか撮ってないんです。どのシーンもほとんど一発本番。シーンによっては撮影準備ができるまで別室で待機して、現場にポンと入って本番ということもありました。
俳優を目指すきっかけ
——毎回、真剣勝負の現場だったんですね。それはかなり神経をすり減らす現場だったと思いますが、そもそも坂東さんが芝居に興味を持ったのはどういう経緯からだったのでしょう。
坂東:子供のころから、ルドルフ・シュタイナーという人の思想を基にした学校に通っていたのですが、 そこでは演劇が授業にあって芝居が身近な存在だったんです。それで姉と演劇塾に通っていたりもしていました。あと、父親が映画好きで、幼いころから映画を観ていたので俳優という仕事に興味はあったんです。自分がやっている演劇と映画の世界が天と地ほど違うというのは分かってはいたのですが、高校のころから人前で芝居をするのがだんだんと楽しくなってきて、自分もスクリーンも向こう側の世界に行ってみたいと思うようになりました。その気持ちの変化は自分にとって大きかったですね。
——気持ちが変化するきっかけが何かあったのですか?
坂東:シュタイナー学校は小中高一貫の学校で、高校を卒業する時に卒業演劇というのをやるんです。それは小学校から学んできたことの集大成で、生徒や保護者がすごく大事にしている行事なんですよ。その卒業演劇で、なぜか僕は主役をやりたいと手を挙げてしまい、これまでよりも演劇にしっかりと向き合うことになったんです。本番が迫ってくる恐怖、膨大なセリフが全然頭に入らない恐怖、いろいろとうまくいかない恐怖、いろんな恐怖と戦いました。学校が終わると、毎日、海に行って日が暮れるまでセリフの練習をしていたんです。本番までの準備期間中はものすごいストレスで、毎日やめたいと思っていたんですけど、本番で舞台に立った瞬間、ハイになったような高揚感を感じたんです。こんなに自分が生き生きとした瞬間は、これまでになかったと思いました。
——プレッシャーからの解放感もあったんでしょうね。
坂東:そうなんですよね。ずっと不安や恐怖と戦ってきたからこそ、こんなに楽しい時間があるんだ!と思いました。その体験がとにかく強烈で。学校を卒業する時、自分は何をしようかと考えたんですよ。絵とか写真とか音楽とか、趣味が多かったので好きなことを天秤にかけて考えてみたんですけど、これまでで一番心が動いたのが芝居だったので、これしかない!と思って上京したんです。
——そういえば、現在所属されている事務所に応募した時に、高校在学中に制作したクレイアニメーションの映像を提出されたとか。高校生でクレイアニメーションを制作するというのも珍しいですね。
坂東:父親がアニメーションの制作をしていたこともあって、それで興味を持ったんです。ストップモーションアニメが好きで子供のころからデジカメを使って大豆が走り出す映像を作ったりしていました。高校の時に作ったクレイアニメは、20分の作品を作るのに1年かけました。男女2人が登場するんですけど、戦争が始まって男性は戦争に行き、恋人の女性は男性を待ち続ける。最後に女性は男性を探しに行くんですけど、そこで嵐にあって力尽きてしまうんです。
——ドラマチックですね! 映画みたいじゃないですか。
坂東:コンテを描いたり、カメラのアングルを決めたりして、大変だったけど楽しかったです。
——子供のころからクリエイティブなことが好きだったんですね。
坂東:0から1を生み出すこと、この世に存在しないものをクリエイティブすることに子供の頃から魅了されて、その衝動に突き動かされてきたところはありますね。でも、それは自分を満足させるためではなくて、自分が創ったものに対する誰かのリアクションを求めているんです。例えば好きな人がいたとして、その人のために絵を描いたらどういうリアクションをするんだろう? 喜んでもらえるかな?って想像しながら描くのが楽しい。
——作品を通じて人や社会とコミュニケートしているのかもしれませんね。
坂東:そうですね。何かを創るというのはすごく労力がいるし、大変なことです。役者の仕事もそうで、撮影の準備期間も撮影をしている時も、自分に向き合いながら孤独の中で新しい表現を見つけないといけない。とても苦しい作業なんですけど、完成した作品を観た人が感想を伝えてくれて、その人に何かを与えることができたと知ることが次の仕事に向かう原動力になる。その繰り返しで仕事を続けてきました。だから「君の忘れ方」の感想を聞くのも楽しみにしています。
PHOTOS:MIKAKO KOZAI(L MANAGEMENT)
STYLING:YASUKA LEE
HAIR&MAKEUP:YASUSHI GOTO(OLTA)
Tシャツ 2万5300円/コール(ダフオフィス)、シャツ2万9700円、パンツ 3万800円/共にアモーメント
映画「君の忘れ方」
■映画「君の忘れ方」
新宿ピカデリーほかで全国公開中
出演:坂東龍汰
西野七瀬
円井わん 小久保寿人 森優作 秋本奈緒美
津田寛治 岡田義徳 風間杜夫(友情出演)
南 果歩
監督・脚本:作道雄
エンディング歌唱:坂本美雨
音楽:平井真美子 徳澤青弦
共同脚本:伊藤基晴
配給:ラビットハウス
Ⓒ「君の忘れ方」製作委員会2024
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