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俳優・成田凌が「死ぬ以外何でもやる」という気持ちで挑んだ映画「雨の中の慾情」

PROFILE: 成田凌/俳優

PROFILE: (なりた りょう)1993年11月22日生まれ、埼玉県出身。2013年にメンズノンノモデルオーディションに合格。14年にドラマ「FLASHBACK」で俳優デビューし、数々の話題作に出演する。映画「スマホを落としただけなのに」、「ビブリア古書堂の事件手帖」で日本アカデミー賞新人賞を受賞。近年は、ドラマ「降り積もれ孤独な死よ」、「1122 いいふうふ」や、映画「くれなずめ」、「ニワトリ☆フェニックス」、「スマホを落としただけなのに 〜最終章〜 ファイナル ハッキング ゲーム」など・映画「【推しの子】-The Final Act-」(12月20日公開予定)の公開も控えている。

ドラマと映画を分け隔てることなく、精力的に作品に出演し続けている俳優の成田凌。フィルモグラフィーが猛スピードで上書きされていく中で、絶対に見逃してはいけない主演作にして代表作が誕生した。それが11月29日から公開される片山慎三監督の「雨の中の慾情」だ。

「岬の兄妹」「さがす」と同じく、本作の脚本は片山監督によるオリジナルだ。漫画家・つげ義春の短編「雨の中の慾情」を原作に、つげの「夏の思いで」「池袋百点会」「隣りの女」の要素を融合させて、数奇なラブストーリーに編み上げた。

成田が演じる主人公は、売れない漫画家の義男。未亡人・福子(中村映里子)と小説家志望の男・伊守(森田剛)との三角関係が、純粋な欲望としたたかな打算が交差する中で展開し、シュールレアリスム、ファンタジー、戦争映画、ヒューマンドラマといったジャンルを横断しながらマジックリアリズム的な映画体験で圧倒する。

片山慎三とつげ義春、2人の芸術家の創造力が最高次元で融合したこの大傑作の現場で何があったのか? 成田凌に、主演俳優の視点でたっぷりと語ってもらった。

「最初の撮影から手応えを感じた」

——「雨の中の慾情」、本当に素晴らしかったです。俳優・成田凌の代表作が誕生したと思いました。

成田凌(以下、成田):そう言っていただけてうれしいです。ありがとうございます。

——どの時点で手応えを感じましたか?

成田:初日です。自分の芝居を修正するために、撮ったものはその場ですぐに映像チェックするのですが、今回は撮影監督の池田直矢さんの映像がもともとすごく好きだったので、余計に早くチェックしたくて。ファーストカットの映像を現場で見た時に、「わー、これは、いいなあ……」と思いました。手応えを感じたのはその時ですね。でも、現場の人間同士で「これはいい作品になるね」みたいなことはあえて言わないようにしていました。そこで満足しない危機感と、常に「本当にこれでいいのか?」という疑問を持ち続けながら、監督、スタッフ、キャスト全員がクランクインからクランクアップまで現場にいました。そこにあったのは熱……という言葉では収まらない、「いい作品を作る」という一種類の気持ちだけでした。

——最初に撮ったのはどのシーンですか?

成田:義男の家で、O子(李沐薰)と対峙するシーンでした。なんか、緊張しました。でも本当にあの家の美術が素敵で。実際に人が住んでいる家をお借りして、そこに暮らしている犬も登場して。

——あの動じない犬! もともと彼のテリトリーだから、あのくつろぎ方だったんですね。

成田:みんなに愛されていましたね。

——初日を迎えるまでどんな準備をしたか、どんな心境だったかを教えてください。

成田:体型の準備はしましたけど、一番は「覚悟していく」でした。どの作品でもそうですが、片山さんの作品は特に生半可な気持ちでは入れないですからね。作品期間中は「死ぬ以外いいや」と本気で思ってました。台湾の田舎の田んぼやドブで、自分が這いつくばらなきゃいけない場所の、衛生状態がかなり悪かったんです。「うわ!」とは思うけど、そこを通過していくことが義男を作っていくことだから、本当に「死ぬ以外何でもやる」という気持ちでした。いろいろ大変でしたけど、とにかく体力はある方なので、そういう人間でよかったなと思いました。

——成田さんにそこまで覚悟をさせた片山監督は、どんな存在でしたか。

成田:「いつか必ず一緒に仕事がしたい」と思って生きていました。片山さんの作品に出たい俳優はたくさんいると思います。いろいろなことに対して逃げずにまっすぐ挑んでいく監督と一緒に作品を作りたい。この作品に携わることができて、本当に良かったです。

「めちゃめちゃ考えて演技しました」

——前情報を入れずに「雨の中の慾情」を見始めると、たくさんの「?」が芽生えていきました。戦争のシーンをきっかけに全ての「?」が回収されていき、ものすごくスッキリしました。

成田:ありがとうございます。戦争のシーンは特に思い入れがあって。あのワンカットを撮るために、朝から日が暮れるまで、1日がかりでみんなで撮ったんです。練習に練習を重ねて、「じゃあ(本番)回してみようか」と。「すごいことだな」と思いながら演じた結果、すごい画になりましたよね。

——あのワンカット撮影には圧倒されました。ただ、もしも義男がこんなにも可愛くて魅力的でなかったら、前半のたくさんの「?」を途中で諦めてしまったかもしれません。

成田:この「雨の中の慾情」の取材では、女性陣が義男を愛でてくださいます。それは自分の中の目標としてありました。(義男が)いなくなった時の寂しさがあったらいいなって。義男には流される瞬間と、欲望のままに生きる瞬間、すごく悪い人間になる瞬間もあると思うんですけど、彼の優しさが見える瞬間がたまにあることで、「優しいんだこの人は」と思っていただけたらいいなと。

——義男のその欲望も、ある設定の中での発露であり、戦争のシーンで明らかになった義男の人生を考えるといたたまれない気持ちになりました。この映画のように、観客に疑問符を与えて混乱させながらも最後まで連れて行くのは、映画という表現形式の醍醐味ですよね。

成田:そう思います。ご覧になる方がこの映画の世界にスムーズに入ってきてくださったらいいなと思って、冒頭のシーンで義男という人が伝わるようにしました。脚本は監督からの手紙のようなものなので、とにかく丁寧に、脚本に書いてあることを一つ一つ形にしていく感覚でした。何も考えずに感情のままやりました、とか言えたらかっこいいですけど、めちゃめちゃ考えました。立ち方一つから、走り方から。

——義男の走り方は確かに独特でした。そしてよく走りました!

成田:監督から「義男はこう走ると思います」と言っていただいたんです。肘を曲げない。手はまっすぐ。腕を振らない。そうだよな、と思いました。走り方に人間が出ると思うし、走るシーンが義男の全てを映し出していると言っても過言ではないかもしれません。脚本では「義男、走る」の1行ですけど、現場では朝晩、毎日このシーンを撮影していました。

——さまざまな場所を走る義男のシーンを一連でつないだシーンが、とてもエモーショナルでした。でも、現場では地道に走り続けていたわけですよね。

成田:基本的には行ったロケ地で、その日のシーンを撮る前と撮り終わったあとに走りました。義男が歩んできた人生の道を走る。完成版を観たらしっかりと使われていて、感情が揺さぶられるすごく良いシーンになっていたので、がんばりが報われた想いです。あと、福子(中村映里子)と伊守(森田剛)が義男の家に転がり込んできて、その2人を隣の部屋から覗(のぞ)くシーンでは、監督から「義男さんは猫になってください」と言われました。地面からゆ〜っくり覗きにいくような猫になって、と(笑)。

——「こっちに5センチ動いて」「2秒待って」といった演出もあると思いますが、「猫になってください」という演出は成田さんにとってどうでしたか。

成田:監督の「こうして」「ああして」という言葉の一つ一つがとにかくピュアでまっすぐなんです。たまに「こういう感じで」と演じてくださったりもするので分かりやすかったです。自分は結構選択肢を持って現場に行ったり、現場で「こうしたいな、ああしたいな」と生まれてくるものもあったりするので、監督と相談しながら進めていく場面もありました。監督はもちろん、撮影監督の池田さんにも「どう思いますか?」と聞いたりもしてましたね。

——池田さんにはどんなことを質問するのですか。

成田:「こういう画角だったらこういう動きの方がいいですか?」とか。舘野(秀樹)さんがすごくきれいな照明を作ってくださったので、「どの角度で当たった方がいいのかな?」とか。言葉では説明できないんですけど、自分の中で「これは監督に聞こう」「これは撮影監督に聞こう」という違いがあるんです。池田さんはずーっと全体を見て、人間を見て、感情を見てくださっている方。気持ちを共有して撮っていただくと、全然違うものになると思うんですよね。僕に撮らせてくれることもありました。

——え? カメラで?

成田:はい。走ってるシーンで1つと、義男の足元のカットを1つ。どっちから言ったのかな……。義男の目線のショットだったので、「僕が撮りましょうか?」と提案したのかもしれません。

——監督と池田さんのコンビネーションは、成田さんから見ていかがでしたか? 池田さんは監督の目、なのでしょうか。

成田:池田さんだけじゃなくて、スタッフ全員の信頼関係がすごかったです。本当に全員が信頼しあっている、愛とエネルギーに満ち溢れた現場でした。すごくいい現場。なんか、笑っちゃうぐらい(笑)。みんなで台湾に行って、大変な思いをしてますから。

——台湾というロケ地が演技に与えた影響は大きかったでしょうね。

成田:台湾に行きっぱなしであの空気の中で撮るということで、僕が考えるべきことは2つだけでした。この作品のことと、この作品のスタッフと共演者の健康についてだけ。本当に幸せですよね。「あー、今日帰って部屋片付けなきゃ」といった生活が一切ない。それは本当にすごいことなんですよ。

——ずっと義男のままいられる感覚なのでしょうか。

成田:ちゃんと自分には戻るんですけど、身体のどこかにずっと(義男の感覚が)ある。泊まっている場所からちょっと外に出ると、この作品の中にある景色と空気、匂いがある。とにかくぜいたくな日々でした。

「この仕事をやっているのも、こういう作品と出合うため」

——今回の映画でツボだったのが、義男のきれいな横顔でした。

成田:僕って“横顔系”ですよね(笑)。

——(笑)。スタッフさんもそれを共有していたから、車の中で福子と口づけをするカットの横顔が本当に美しかったです。予告編でも使われているのでお聞きしますが、あそこで2人の間に電流が走ることは知っていましたか?

成田:知らなかったです。上がったものを見たら、電流が走ってました(笑)。監督に聞いてもきっと「なんなんだろうね〜」って言うと思います(笑)。多分、これは現実ではないというノイズみたいなものなんですかね。現場では常にちょっとずつノイズが入っている感覚がありました。福子さんに言われる「義男さんはここにいるべきではない」という台詞とか、引っ掛かりみたいなものがありました。

——伊守に「いい顔するねえ、義男くんは」と小馬鹿にされた後のカットは正面からでしたね。「いい顔」をどう表現するかというハードルがあったと思います。

成田:すごく難しかったです。いろいろ考えましたけど、現場に行ってみないとな、という感じでした。でも、あそこはそんなにテイクを重ねることはなかったですね。

——片山監督はテイク数が多いとお聞きしますが、実際多かったですか?

成田:多かったです。でも、すごく納得できるテイクの重ね方でした。みなさんが何年もかけて準備してきたものだから、当たり前だとも思います。片山監督は諦めない。難しいことだと思うんですよね。もう1回、もう1回と、10テイク以上を重ねていく決断をするのって。逆に、“止める決断力”に感動することもありました。すごく長い期間準備して、ロケハンして、砂漠でこういうシーンを撮ろうとけっこうな長い時間をかけて車で移動して、監督とプロデューサーが来て、「やっぱりここでは撮りません」と。「完璧ではないから」と。いい作品を作るためにそういう決断をするっていうのは本当にすごいことだと思います。

——今回の作品で義男を演じたことで、役者という職業の面白さややりがいに変化はありましたか。

成田:俳優部の1人として、「いい座組っていいなあ〜」と思いました。部署ごとに自分の仕事をしっかりする、ということがちゃんと成立していれば、部署同士が信頼しあっていい組になる。そして、部署の垣根を越えて手伝いもできる。今回、みんながお互いに手伝ってたんですよ。さらにこの作品ではいろいろとセンシティブなことが扱われていますが、監督もスタッフも、まっすぐに向き合っていました。

——成田さんも逃げなかった。

成田:そうですね。この仕事をやっているのも、こういう作品と出合うためなので。自分にとってものすごくぜいたくな時間でした。

PHOTOS:MIKAKO KOZAI(L MANAGEMENT)
STYLING:KAWASE 136(afnormal)
HAIR & MAKEUP:GO TAKAKUSAGI

ジャケット 43万円、ニット 31万円、タンクトップ 12万円、パンツ 26万5000円、シューズ 21万円/全てアミリ(スタッフ インターナショナル ジャパン クライアントサービス 0120-106-067)、その他スタイリスト私物

■映画「雨の中の慾情」
11月29日 TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開
出演:成田凌
中村映里子、森田剛
足立智充、中西柚貴、松浦祐也、梁秩誠、李沐薰、伊島空
李杏/ 竹中直人
監督・脚本:片山慎三
原作:つげ義春「雨の中の慾情」
音楽:髙位妃楊子
衣裳デザイン・扮装統括:柘植伊佐夫
撮影:池田直矢 
美術:磯貝さやか 
編集:片岡葉寿紀 
制作:セディックインターナショナル 日商賽奇客有限公司 井風國際娛樂有限公司
製作:映画「雨の中の慾情」製作委員会
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2024 「雨の中の慾情」製作委員会
https://www.culture-pub.jp/amenonakanoyokujo/

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