ファッション

UKダンスシーンをけん引するOvermonoが語る「フレッド・アゲイン&リル・ヨッティ、ザ・ストリーツとのコラボ」

トム・ラッセルとエド・ラッセルの兄弟からなるオーヴァーモノ(Overmono)が2021年にリリースした「So U Kno」はちょっとした衝撃だった。UKガラージからの影響が色濃いヘビーなビートの上でR&B風のボーカル・サンプルをループさせたこのどう猛なブレイクビーツは、コロナ禍が収束した後のダンスフロアの熱狂を予感させる十分な強度を持っていた。さらに、そんな「So U Kno」から始まるミックス「Fabric presents Overmono」(21年)では、ダブステップからUKガラージ、ジャングル、プログレッシブ・ハウス、ベース・ミュージック、テクノまでを自由連想のようにつなぎ、UKクラブ・カルチャーの底力を我々に強く印象づける。そして、昨年満を持して発表したデビュー・アルバム「Good Lies」では、上記のような多彩なビートを交えながら、「いくつかの異なる感情の交錯点、狭間」を巧みに表現し、UKクラブ・カルチャーとメインストリーム・ポップスの間を軽やかに横断してみせた。そんなオーヴァーモノの現況を確認すべく、ツアーで来日した2人に対面取材を敢行。今年リリースした素晴らしいトラックの数々やファッションについてざっくばらんに語ってもらった。

フレッド・アゲインとリル・ヨッティとのコラボ

——デビュー作「Good Lies」リリースから1年半ほど経ちました。心境の変化はありますか。

エド・ラッセル(以下、エド):ライブの内容をアップデートしていることかな。新しい機材を取り入れたりとか、ビジュアルをいろいろ変えていったりとか。あと絶え間なく新曲を作っているから、それらをライブで披露して感触を確かめているよ。

——今改めて振り返ってみて、「Good Lies」を作って何が良かったと思いますか。

エド:アルバムという形にはなっていなかったけど、このアルバムを作る前から何年も積み重ねて音楽を作っていて、その間ずっと作曲というプロセスを楽しんでいたんだ。このオーヴァーモノをやる前は2人ともソロで活動していて(エドは「テセラ(Tessela)」名義で、トムは「トラス(Truss)」名義で活動)、ソロで活動していく上でさまざまな制限があったけど、オーヴァーモノではその制限がなくなって、かなり自由に曲作りを進めることができたように思うよ。そこからアルバムという形がだんだんと見え始めてきて、コアとなる曲ができて、そのコアな曲に焦点を当ててアルバムを作っていったんだ。

——それでは、ここからは今年に入ってあなたたちがリリースした楽曲についていくつかお伺いしたいと思います。今年の2月にフレッド・アゲイン(Fred Again)とリル・ヨッティ(Lil Yachty)とのコラボレーション・トラック「stayinit」をリリースしました。この驚きのコラボレーションは何がきっかけでスタートして、どのように制作を進めていったのでしょうか。また、彼らの魅力は何でしょうか。

エド:フレッド・アゲインとは何年も前から一緒に何か作ろうと話をしていたんだ。そうしているうちにフレッドがアイデアを送ってくれて。そのトラックはヨッティのボーカルが入ったベーシックなもので、ドラムとかが入ってなかったから、俺たちがその要素をいくつか加えてフレッドに返したんだ。そのあとロンドンでフレッドと作業してから、ニューヨークでヨッティと会って曲を仕上げたんだよ。そんなに難しくはなくて、自然に曲がまとまっていったように思うね。

トム・ラッセル(以下、トム):俺たちは他のアーティストとあまりコラボレーションしないから、コラボレーションすること自体とても興味深いものだったよ。作曲のプロセスが違うし、とても勉強になるんだ。フレッドと作業したときも、彼の作曲のプロセスを垣間見ることができたし、お互いに学び合うことがあると思うんだよね。例えば、フレッドは歌の部分にフォーカスを当てるのがうまいけど、俺たちはもう少しカオティックな音響にフォーカスしたり。あと、ヨッティは大ファンだったから、コラボレーションできて本当に嬉しいよ。彼のオンとオフの切り替えがとても面白くて、普段はすごくスイートな人なんだけど、でもいざレコーディングになると、ゾーンに入ったように集中するんだ。

大音量で聴くと威力を発揮する音

——4月にはザ・ストリーツ(The Streets)ことマイク・スキナー(Mike Skinner)の「Turn The Page」を再構築したシングルをリリースしました。オリジナルはストリーツの最高のデビュー作「Original Pirate Material」の冒頭を飾るトラックですが、どうしてこの曲を再構築しようと思ったのか教えてください。

トム:実は最初のバージョンは2、3年前に作ったんだ。もともと俺たちはストリーツのファンだったし、「Turn The Page」のDJセットやライブで使えるバージョンをずっと作りたいと思っていたんだ。それで最初のバージョンを作ったあとにしばらく寝かせて、1年後くらいにまた聴き返して、粗かった部分を修正してライブとかで使ってみたら、とても盛り上がったんだよ。だからすぐにでもリリースしたいと思ってマイクに相談したら、とても良い返事をもらってようやくリリースできたんだ。

——ストリーツの音楽との出会いはいつだったんですか。

トム:「Original Pirate Material」がリリースされたとき(02年)、イギリスでは大反響で、自分たちもそのときに聴いたんだ。エドが15歳くらいで学生だったと思うんだけど、当時聴いていた音楽って今でも自分たちに影響を与えているし、自分たちを形成する一部だと思っているよ。

エド:「Original Pirate Material」の歌詞やトラックって当時のイギリスの社会状況やクラブ・カルチャーを鮮明に表現していて、そのころの自分たちを思い出させてくれるんだ。当時彼の音楽を聴いていたイギリスの人の多くはきっとそう思っているんじゃないかな。イギリスの若者の平凡でつまらない日常生活をすごく詩的かつ写実的に美しく表現していて、素晴らしい才能だと驚いたよ。

——最新シングル「Gem Lingo (ovr now) 」ではラスヴェン(Ruthven)をフィーチャーしていますよね。

トム:俺たちはサンプリングのリサーチにすごく時間を費やすんだ。作曲と同じくらいね。ラスヴェンのことは少しだけ知ってはいたんだけど、彼の「Hypothalamus」(18年)を聴いてすごくかっこいいと思ったんだ。それでボーカルをサンプリングしてひたすらに切り刻み、エディットしまくって曲を仕上げたんだよ。

エド:ビートの話をすると、俺たちって変わった方法でドラムの音を作るんだ。機材からささいな小さい音を拾ってきて、いくつものエフェクターを通して加工していくんだけど、そうすることによって面白い音ができるんだ。それは普通の音量で聴いたら面白くないかもしれないんだけど、大音量で聴くと威力を発揮するんだよね。それでとても大事にしているのは、ドラムとドラムとの間にある空間に漂っているノイズ。それをさらに加工して、ミニマルなビートの空間にあるテクスチャーにする。普通の人はドラム・キットから音を作るかもしれないけど、俺たちは10個くらいのシンセを使って、いろんな加工を施しながら音を作るんだよ。

——なるほど。

エド:あと「Gem Lingo(ovr now )」ではギター・ペダルをたくさん使っているんだよ。今日ちょっと取材時間に遅れたのは(笑)、楽器屋に行って日本製のペダルを見ていて、いくつか買ってきたせい(渋谷の「えちごやミュージック」に行っていたそう)。それでこの曲では、例えばニルヴァーナがコーラスの音に毎回使っていたものとかスティングが使っていたものとかを使っているんだ。もちろん音は加工しているからそれらのペダルを使っているかは分からないと思うんだけど、もしかしたらファンが音を聴いたときに無意識のところでニルヴァーナを感じるかもしれない。そうやって今と昔がつながると面白い気がするんだよね。

「いくつかの異なる感情の交錯点、狭間」を表現した音楽

——オーヴァーモノの音楽、特に「Good Lies」で鳴っている音楽は、極端に言えば「いくつかの異なる感情の交錯点、狭間」を表現した音楽のように思います。ライブにおいてそれをどのように表現するのでしょうか。

トム:俺たちがスタジオで作っている音楽ってライブのために作っているところがあるんだよ。俺たちのライブは音とビジュアルを組み合わせるんだけど、そこで最高の体験をしてもらいたいんだ。君が指摘してくれたように、俺たちの音楽は「いくつかの異なる感情の狭間」を表現することがキーになっていることは確かだし、それをライブで表現するというのが自分たちの究極の目的なんだよ。

エド:感情ってそのときの気分とか状況によって変わってくると思うんだ。例えば、気分の良い日に音楽を聴けばさらに高揚するかもしれないし、調子の悪い日に音楽を聴いて落ち込むこともあるかもしれない。俺たちはライブに来てくれるファンがそういったさまざまな感情を持っていることを考えながら、最高のライブを届けたいと思っているんだ。

——少しファッションとの関係性についてお伺いします。あなたたちは、昨年3月には「ジバンシィ(GIVENCHY)」のショーに楽曲を提供し、今年6月にパリ・ファッション・ウイークで「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」のローンチパーティーをマシュー・ウィリアムズとともにキュレーションしました。自分たちの音楽がファッションと関わりを持つことを想像したことがありましたか。

エド:音楽を始めたときはまったくファッションとつながりを持つなんて考えていなかったよ。だからそうやって声をかけてくれてとても嬉しいんだ。ジバンシィのときも俺たちに全ての自由を与えてくれて、最高だと思えることをやってくれって言われてたんだよ。マシュー・ウィリアムズは俺たちのカルチャーも分かっているデザイナーだからすごくやりやすかったね。ファッションであれ音楽であれ、自分たちのやっていることに誇りや情熱を持っている人とつながることができるってすごく幸せなことだと思うんだ。マシューが服に懸けている情熱と俺たちの音楽に向き合う姿勢はつながっていると思うから、彼とのコラボレーションには無理がないんだよ。

——それでは最後の質問です。レコードショップの棚に「Good Lies」を置くとしたら、その両隣にはどんなアーティストの作品を並べますか。

トム:キャッシュ・コバーン(Cash Cobain)と、やっぱりジョイ・オービソン(Joy Orbison)だね。ピート(ジョイ・オービソン)はとても素晴らしいプロデューサーだと思うよ。その2人の作品の間に「Good Lies」があったら最高だね。

PHOTOS:YUKI KAWASHIMA

■Overmono「Good Lies」
2023年5月12日リリース
レーベル:XL Recordings
価格:CD国内盤(解説・歌詞対訳付/ボーナス・トラック追加収録/特典ステッカー)2320円、CD輸入盤2320円
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13234

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