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「有吉弘行の脱法TV」企画・演出の原田和実 フジテレビ入社5年目が目指す「見たことのない番組作り」

PROFILE: 原田和実/テレビディレクター

原田和実/テレビディレクター
PROFILE: (はらだ・かずとみ)1996年生まれ、静岡県出身。テレビディレクター。フジテレビ編成制作局バラエティ制作センター所属。2020年に入社し、翌21年に手掛けた「ここにタイトルを入力」が話題に。22年には「あえいうえおあお」などを企画・演出。23年には「ここにタイトルを入力」の新春特番や「有吉弘行の脱法TV」を手掛ける。PHOTO:TAMEKI OSHIRO

入社1年目で企画書を提出し、2年目で初めて企画・演出を務めたテレビ番組「ここにタイトルを入力」が大きな注目を集めた、フジテレビの原田和実。その後も話題作を作り続け、直近では「有吉弘行の脱法TV」が放送されたばかり。現在5年目、その発想の源と、企画を正しく実現するまでのこだわりを聞いた。

——もともと学生時代は放送作家になりたかったと?

原田和実(以下、原田):はい。大学では劇団を立ち上げて、脚本・演出をしていたのですが、当時テレビ東京で放送していたシチュエーションコメディの「ウレロ☆」シリーズが大好きで、その番組に脚本で参加していたシベリア少女鉄道という劇団を主宰する土屋亮一さんに憧れていました。自分の劇団で作・演出をやりながら、テレビ番組でも脚本やコントを書く、そういう仕事をしたいなって。

——「ウレロ☆」シリーズでは、放送作家であり脚本家のオークラさんも参加していました。

原田:オークラさんも尊敬する作家の1人です。バナナマン×東京03「handmade works live」や「崩壊シリーズ」は自分の人生に欠かせない大好きな作品だし、まさに舞台とテレビを行き来するような仕事をされていて。いまだに「ウレロ☆」シリーズを超えるコント番組はないと思っているくらいです。

——原田さんの手掛ける番組は、いわゆるメタ構造の企画が多いですが、それはシベリア少女鉄道からの影響ですか?

原田:そうですね。僕の中でバイブル的な存在です。シベリア少女鉄道のメタ的な視点に衝撃を受けたことが、「作り手」を意識するきっかけにもなってて。フジテレビに入社したときから、自分で番組を作るなら、テレビのフレームワークを利用したおもしろい企画をやりたいなと思っていました。

——あえて「ウレロ☆」以外だと、どんな番組がお好みですか?

原田:「全力!脱力タイムズ」(フジテレビ)を見たときは「うわ、やられた」と思いました。構造でうまく遊びながら、作り込みが丁寧で、あの出力のものを特番ではなく毎週レギュラーでやれるのがすごいなって。

演者ありきではなく、企画の時点で80点を目指す

——初めて企画・演出を手掛けた「ここにタイトルを入力」(2021年〜)は、若手のトライアル枠ということで、ターゲットなどのオーダーがなく、自由に個性を発揮できたと思うのですが。

原田:ありがたいことに、ゼロから最後まで自分の好きなようにやらせてもらいました。企画としては、それまで自分がテレビを見ながら抱いていた違和感がアイデアのもとになっていて、初めての企画・演出だったこともあり、その違和感と破壊衝動のようなものを結びつけて、言語化していく作業でした。

——テレビは良くも悪くも強固なフォーマットによって成立している番組がほとんどなので、破壊しがいがありますよね。

原田:僕自身そこまで熱心にたくさんのテレビ番組を見てきたわけではないので、そんな僕でもイメージできる範囲のテレビ像をネタにするということは意識していました。逆に、もし僕がコアなテレビ視聴者だったら、企画がニッチになりすぎていた可能性もあると思います。

——ちなみに、「ここにタイトルを入力」の中で、原田さんの個人的なお気に入り回は?

原田:霜降り明星のせいやさんを主役にした「その恋、買い取ってもいいですか?」ですかね。あまり自分の番組を見返すことはないんですけど、この回は何度か見返しちゃっています。シンプルに「恋愛を買い取る」という、あまりにもテレビでやってそうなコンセプト感が大喜利の回答として気に入ってます。

——番組を作る立場から見て、やはり芸人さんは演者として欠かせない存在ですか。

原田:重要な役割を担っていただくことが多いので、ものすごくリスペクトしています。そもそも、自分の企画の立て方として、出演者の方の力量ありきではなく、まずは企画の段階で80点くらいは目指せたらなと思ってるんです。枠組みやフォーマットだけで、ある程度まで笑えるものにはなってるよね、という。その企画をもとに、現場で出演者のみなさんの力をお借りして、100点満点中200点を狙っていけるような感覚。企画者である自分はあくまで趣旨を説明することまでしかできないので、それを出演者の方、特に芸人さんが、より分かりやすく、おもしろく、「伝えたいこと」を「伝わるもの」に仕上げてくれるイメージです。

——ご自身の企画と相性がいいなと思うのは、どういうタイプの演者ですか。

原田:基本的に僕が考える企画の特性が、テレビの構造を使ったボケ要素の強い企画なので、出演者はツッコミの方が相性いいと思っています。制作者がボケて、演者がツッコミを入れる、という構図になるので。

——企画にツッコミを入れるといえば、原田さんが企画・演出を手掛けた「あえいうえおあお」(22年)は、毎回フジテレビのアナウンサーの1人にフォーカスして、密着ドキュメンタリーを装いながら、最後は奇抜な着地をする番組でした。

原田:あの番組もある種のボケ企画ですが、テーマとしては局のアナウンサーの魅力を伝えることがお題だったので、どちらかというと広告を作るつもりで考えました。とはいえ、よくあるアナウンサー番組にはしたくなかったので、新しい魅力を引き出しつつ、企画として笑いのレイヤーを乗せることを意識した結果、ああいったドキュメンタリーから展開していく構成になりました。

人為的なコンプライアンスチェックの過程をそのまま企画に

——6月6日に第2弾が放送された「有吉弘行の脱法TV」は、「テレビでできないとされていること」をテーマに、コンプライアンスの境界を探る企画でした。

原田:企画を思いついたきっかけとしては、第1弾でも検証した乳首の落書きってどこまで映せるんだろう、というものです。幼稚園児が描いた下手なものはOKなはずだし、芸大生が描いた写真みたいにリアルなものはNGな気がするし、だったら、必ずそこには映せなくなる境界線が存在していて、逆に言えば、そのギリギリのラインは映せるはずだなと。YouTubeではAIを使ってある程度の規制をかけていますが、テレビは完全に人が判定しているんです。局内にコンプライアンスをチェックする専門の部署がある。機械ではなく人間が決める、その曖昧さがおもしろいなと思い、どう判定するのかをそのまま企画にしました。なので、番組制作中は、毎日その部署に通って「この絵に描かれた乳首は放送できますか? もう少しだけリアルでも大丈夫ですか?」など、繊細な微調整を繰り返して本当の限界値を探ってました。

——実際にコンプライアンスをチェックする部署の担当者は、どういう反応だったのですか。

原田:全然、邪険にはされなかったですね。当然ですが、コンプライアンスチェックの方もテレビをつまらなくしてやろうと思って仕事をしてるわけではないので、協力するからにはおもしろい番組にしたいと言っていただき、つまびらかな検証をしてもらいました。どうして放送できないのかをちゃんと言葉にしてもらえたので、建設的なやりとりができたと思います。

——そもそも、かつては放送できていたものが、今は放送できないというのは、放送法などのルール改正があったわけではなく、あくまで局の判断、自主規制の問題ですよね?

原田:そうです。違法性とかではなく、あくまで会社としての危機管理の問題。世間の空気感やSNSで起きた事件などの蓄積があって、人為的に判断しています。線引きは局によっても、放送する時間帯によっても違いますし、細かく言えば、その番組に出演している人によっても変わると思います。と、あまり裏話はしたくないのですが……「有吉弘行の脱法TV」の制作段階でも、放送に至らなかったアイデアはたくさんあるんです。いじってはダメな領域、そもそも線引きを検証すること自体がNGという。なので、企画が生まれたとしても社内で通すのが難しいというケースが少なからずありますね。

テレビをメタ的に解釈して企画にするのは禁じ手にも近い

——これまでに観てきた演劇などの影響があるとはいえ、入社1年目から、テレビのフレームそのものを疑う企画を連発しているのは、非常に特異な才能だと思います。

原田:もちろんキャリアを積んで、テレビ制作の基礎を学んだからこそ作れる素晴らしい番組もあると思います。ただ、大前提として、僕はテレビで見たことのない番組を作りたいし、まだやられていない方法で人を笑わせたい。そこが大きなモチベーションになっているので。自分の感覚としては、テレビの長い歴史の中で、もう大体のことはやり尽くされている。そうなると、どうしても決まった領域の中で、どんどん細かい大喜利でしか差別化できない番組作りが加速してしまう気がしていて。そういう意味では、テレビをメタ的に解釈して企画にするっていうのは、禁じ手に近い。領域を無理やり拡張してしまう、本来は最後にたどり着く大喜利でもあるという。

——終わりの始まり、ですよね。と同時に、例えばYouTubeなど別のメディアで、テレビを脱構築するような企画をやるのではなく、テレビ局員として内側から揺さぶっていることに意義があるなと。

原田:僕はテレビでテレビをいじるからこそ、おもしろいと思っているんです。なんだかんだテレビは共通言語が最も多いメディアだと思うので、たとえテレビをまったく見ていない人でも、テレビってこういうもの、というイメージくらいは持っている。それこそコンプラが厳しくなっている、とか。個々人が抱くそのイメージの良し悪しとは別に、構造や文脈が共有されているって、ものすごいアドバンテージです。普段触れていない人にまで、そのイメージが知れ渡っていることが、テレビが最も優位性を発揮できるところだと思っていて、だからこそ、ふざけがいがあるんです。

結局最初のアイデアが一番おもしろかった、とならないために

——企画を考える上で、こういうことはやらないようにしている、というのはありますか?

原田:実体験で言うと、スタートの時点で「 純粋なエンタメとしてのおもしろさ」以外のことを目標として設定しない、ということですかね。「視聴率が取れそう」はもちろん、レギュラーとして継続できそうとか、マネタイズができそうとか、純粋なおもしろさ以外を初期段階で目標にすると、どうしてもコンテンツとしての爆発力に欠けたものになるし、直線的な企画になってしまうんですよね。余白を持って漂わせてこそ企画はおもしろくなっていくと思うので。

その上で、最初に思いついたことは曲げないようにしています。企画を番組として成立させる過程では、どうしてもロジックがうまくいかない部分が出てきたりするので、現実的な落とし所を探ることになるんですけど、そこで路線を変えてしまうと、結局最初のアイデアが一番おもしろかった、という結果になりがちなんです。

——本来は完成形が一番おもしろくなっていないといけないのに。

原田:そう、思いついたときがピークって、それじゃあせっかく作る意味がなくなってしまう。

——原田さんの番組は、「ここにタイトルを入力」のバイキング小峠さんが半分になっているビジュアルや、「有吉弘行の脱法TV」の「海賊版ガチャピン」など、ネット映えする一枚絵やパワーワードがいつも用意されています。

原田:それは、企画を考えるときはたいてい絵から思い浮かべるっていうことが一つと、日々摂取しているものがどうしてもネット文脈のものが多いので、言葉に落とし込む段階で自然とそうなっているんだと思います。感覚としても、今のテレビバラエティの潮流よりも、ネットの文脈をなぞるほうが意識としては強いです。

——最後に。「有吉弘行の脱法TV」の第2弾では、冒頭にMCの有吉さんが、番組の方向性を決定づける大事な話をしていますよね。

原田:実際に現場でご一緒すると、有吉さんのすさまじい能力に驚かされます。瞬時に企画の趣旨を理解して、それを適切な言葉で伝えてくれる。第1弾で「大人のビデオ」をテーマにした企画があるのですが、料理してるお母さんをずっと映して、その後ろで男女がそういうことをするのが小さく見切れてるという。映像的にはお母さんがメインだから、っていう趣旨なんですけど、有吉さんがVTRを見た瞬間「お母さん、がんばれ」って言ったんです。この一言だけで、視聴者に企画の見方を完璧に説明してくれた。あの洞察力と言語化力には感動しました。この番組の企画性を考えても、もし有吉さんがMCじゃなかったら、まったく異なった見方をされたり、そもそも番組として成立していなかった可能性は大いにあると思うので、感謝しかありません。

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO

「有吉弘行の脱法TV」#2
テレビを知り尽くした有吉弘行が「テレビで出来ないとされていること」を知恵を振り絞って抜け穴を考え、何とか実現しようとするギリギリ合法なバラエティー番組の第2弾。昨年放送された第1弾では、「地上波で映せる乳首の限界」、「訴えられないガチャピンの海賊版の境界線」などを検証。第2弾もさまざまなテーマで“脱法”を企てている。

6月21日23時59分までTVerで配信中
https://tver.jp/episodes/epv9zru7em

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