ファッション

サバト初の「グッチ」のクルーズ ロンドンのガーデニングからドレスコードをアップデート

グッチ(GUCCI)」は5月13日(現地時間)、イギリス・ロンドンで2025年クルーズ・コレクション(今秋発売予定)を発表した。クリエイティブ・ディレクターを務めるサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)にとって、初めての「グッチ」でのクルーズ・コレクションだ。

ミラノやパリ・コレクションと違って、世界的な規模感のラグジュアリー・ブランドにとってのクルーズ・コレクションは、ショー会場はもちろん、開催都市さえ選べる自由度の高いファッションショーだ。サバトが、その舞台にロンドンを選んだのには理由がある。デビューシーズンとなった24年春夏、サバトは深みのあるレッドを“ロッソ アンコーラ”と称してキーカラーに採用。創業者のグッチオ・グッチ(Guccio Gucci)がラグジュアリーの世界に飛び込んだ、ロンドンの最高級ホテル、サヴォイ・ホテルのエレベーターの色だ。つまりロンドンは、「グッチ」にとって、そしてサバトにとって、原点とも言える場所なのだ。

そんな街で選んだショー会場は、テムズ川の湖畔に立つ国立の近現代美術館テート・モダンだ。近現代の美術は既成概念に向き合い、時には相反するものを組み合わせることで一石を投じてきた。サバトは、労働者階級出身のグッチオ・グッチが最高級ホテルで職を得たことから始まるラグジュアリーブランド「グッチ」の歴史に、相反するものの融合から新しい価値を見出す近現代アートとの共通点を得たのだろう。

そんな街、そんな会場で発表したコレクションは、まさに新旧の価値観が融合し、3回目のコレクションながらサバトによる「グッチ」をさらに一歩推し進めた。創業以来の「グッチ」の歴史に新たなアイデアを加えると共に、前回と前々回で繰り返し訴えた自身のドレスコード貫きながら大幅にアップデートしている。目新しいものに依存しなくても、サバトの「グッチ」は、どこまでも新鮮なものになる。そんな印象は、一段と強くなった。

ファーストルックは、1970年代の「グッチ」を彷彿とさせるスエードのジャケットから始まった。ピークドラペルのジャケットにはGGのマイクロモチーフをエンボスし、首元には24-25年秋冬メンズや同ウィメンズで提案したストール状のタイを彷彿とさせる細長いシルクを結ぶ。コンパクトシルエットのジャケットに対して、ボトムスは相反するシルエットのジーンズ。脇には、70年代のアーカイブにインスピレーションを得た“ブロンディ”のホーボーバッグを抱えた。“ブロンディ”は、2つのGで円を描いたモチーフが特徴だ。そして足元は、ブランドのアイコン“ホースビット”をあしらったバレエシューズ。序盤は70年代以来愛され、「グッチ」の長年ファンならトム・フォード(Tom Ford)時代の記憶も残るスエードに、サバトがデビュー以来連打する超ミニ丈のボトムを合わせ、新旧を融合した。と同時に、“ロッソ アンコーラ”のガラス加工を施したレザーや、GGモチーフのミニドレス、首元にチョーカー風の飾り紐をあしらった抜き襟でドロップショルダーのシャツ&デニムなど、24年春夏から3回続けて“レギュラー”で登場し続ける素材やアイテム、スタイリングは健在。ガラス加工のレザーはコンパクトなジャケットに、ミニドレスはファブリックからスエードに、シャツはより軽やかなポプリンのような素材に変換するなどアップデートしているが、スタイルコードは大きく変わらない。ただ同時に、何かが、少し変わるだけで、新鮮に見える。サバトが築いている「グッチ」のスタイルの汎用性や可能性の奥深さへのワクワクは止まらない。

ロンドンへの想いは、アイコニックなモチーフ以外は消極的なのかと思っていた色や柄で表現した。序盤から頻繁に登場するのは、デイジーとカモミールのフローラルモチーフ。クロシェのようなレースで表現したり、立体的な刺しゅうでのせたり、ジャカートで描いたり。そこに、これまた積極的ではないと勝手に思っていたスカイブルーやベイビーブルー、クリームイエローなどの淡いパステルカラーをプラスした。フローラルモチーフや鮮やかなカラーパレットは、イギリスのガーデニングカルチャーにインスパイアされているという。

デビューコレクション、24-25年秋冬メンズ、そして同ウィメンズという3つのコレクションでは、イヴニング一辺倒からの脱却や、ヘルシーな肌見せ、一捻りした汎用性の高い定番で作る普遍的なスタイルの価値を訴え続け、ともすれば“一本槍”という印象を抱いた人もいるかもしれない。しかし、新生「グッチ」の世界観は、ガーデニングカルチャー発祥のイギリスで、大きく花開いた。しかも、スタイルコードは全く変わらずに、だ。次は、何を加えることで、今のスタイルをアップデートしてくれるのだろう?

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