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H&M、突然のトップ交代劇の背景は? 競争激化のカジュアルSPA市場

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PROFILE: ヘレナ・ヘルマーソンH&Mヘネス・アンド・マウリッツ前CEO

ヘレナ・ヘルマーソンH&Mヘネス・アンド・マウリッツ前CEO
PROFILE: 1973年生まれ。97年に購買部門のエコノミストとしてH&Mに入社した。購買や生産部門を経て、サステナビリティ・マネジャーに就任。その後、香港でプロダクション・マネジャーを務めた。2018年からは最高執行責任者として、ロジスティクス、生産、テクノロジー関連分野などを担当し、20年1月にCEOに就任した COURTESY OF HELENA HELMERSSON ©︎FAIRCHILD PUBLISHING, LLC

H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)は1月31日、ヘレナ・ヘルマーソン(Helena Helmersson)最高経営責任者(CEO)の退任を発表した。同日付で、後任として「H&M」ブランドを率いるダニエル・エルベール(Daniel Erver)CEOが、グループの社長兼CEOに就任。カジュアルSPA(製造小売業)では「ザラ(ZARA)」などを擁するインディテックス(INDITEX)に次いで世界第2位の売上高を誇る巨大企業で起きた突然のトップ交代劇は、業界の内外で驚きをもって受け止められた。その背景を、近年の業績や社会情勢を中心に探った。(この記事は「WWDJAPAN」2024年2月12日号からの抜粋です)

ヘルマーソン前CEOは、1997年に購買部門のエコノミストとしてH&Mに入社。以来、26年にわたってH&Mに勤務し、そのうち直近の4年はCEOとして同社を率いてきた。同氏は退任にあたり、「私はキャリアのほとんどをH&Mで過ごしており、さまざまな部門で多くの役職を経験できたことを大変ありがたく思っている。退任することを取締役会に伝えた際には、複雑な心境だった。ここ数年、コロナ禍をはじめ、地政学上およびマクロ経済上の難局に直面しつつも、チームと共に成し遂げてきたことを誇らしく思う。一方で、ときとして個人的に負担に感じることもあり、難しい決断ではあったが、退任する時期が来たと感じた」と語った。

その言葉通り、新型コロナウイルスの感染が拡大しつつあった2020年1月にトップに就いた同氏は、その後もさまざまな難局に直面した。中国の新疆ウイグル自治区で生産された新疆綿の使用中止を巡る問題により、21年3月には中国最大手EC企業のアリババが運営するECサイト「Tモール」などから「H&M」の商品が消え、モバイルアプリも中国の大手アプリストアから削除された。「中国での信頼回復に尽力する」というH&Mの声明を受け、「Tモール」内に「H&M」が復活したのは22年8月のことだ。

また、22年2月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始したため、両国の店舗を一時休業。同年7月には、事業継続は不可能だとして、ロシア市場から撤退した。23年10月には、イスラエルとパレスチナが戦争状態となったことから、イスラエル国内の店舗を休業している。

収益力の改善が課題 コロナ前の水準に及ばず

これらを踏まえて過去5年の業績を見ると、20年の売上高は前期比19.6%減の1870億3100万スウェーデンクローナ(約2兆6184億円)、営業利益は同82.1%減の30億9900万スウェーデンクローナ(約433億円)、純利益は同90.7%減の12億4300万スウェーデンクローナ(約174億円)とコロナ禍の影響で大幅な減収減益となったが、21年には営業利益が前年の5倍近くになるなど順調に回復。コロナ禍以前の19年の水準には届かなかったものの、増収増益となった(下図参照)。22年は、ロシア市場からの撤退や効率化戦略の一時的支出として25億9100万スウェーデンクローナ(約362億円)を計上したことや、原料および輸送費の高騰、ドル高の影響などにより減益に転じている。

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