ファッション

「コーチ」のバッグの中でジャンプゲームし、「DKNY」のルーフトップで浮遊 第2回「メタバース・ファッションウィーク」探訪記

「メタバース・ファッションウィーク (以下、MVFW)2023」が3月28〜31日、VRプラットフォーム「ディセントラランド(Decentraland)」で開催された。昨年3月に続き、2回目の開催。「ドレスエックス(DRESS X)」や「ザ・ファブリカント(THE FABRICANT)」などのデジタルファッションブランド、”メタトーキョー(MetaTokyo)”などのコミュニティーのほか、「コーチ(COACH)」や「アディダス(ADIDAS)」といったブランドが参加した。2回目はどんな風にパワーアップしたのか?主催者発表の開催結果と共に紹介する。

MVFWは世界標準時で行われるため、日本はほぼ昼夜逆転。まずは初日にアクセスし、ネオ・プラザにある「コーチ」へ。ピンクのミニシティの空にピンクの巨大“タビー・バッグ”が浮かぶ。バッグの下に立つと竜巻が起こり、バッグの中に到着。ギャラクシーな空間でジャンプゲームをしながら“タビー・バッグ”を5つ集めて、浮遊するエモート(動き)をゲットした。最後にDJブースの前でひと踊りして、退場。バッグの中の空間はアーティストによって毎日変わっていたようで、ピンクの小花が舞うウエアラブルはもらい損ねた模様。

「トミー ヒルフィガー」は2回目の出展で、前回よりもパワーアップ。今回はAIを使って作ったルックを公募し、集まった作品の中からトミー・ヒルフィガーが2点をチョイス。それらを「ドレスエックス」がウエアラブルとARフィルターにして、無料配布。しかし、ゲットするにはガス代(ネットワーク手数料)が必要だったようで、「ディセントラランド」の仮想通貨MANAを持たない私は試着で楽しむのみで終了。クエストをクリアすれば簡単にもらえたのかも?MVFW主催者によると、メンズのダウンジャケットは、今回最も多く配布されたウエアラブルだったという。

「アディダス」のショーは2日目に開催。日本は深夜2時。10分前のショー会場に続々観客が集まってくる。さすがに個性的なアバターが多く、見ているだけで楽しい。白いドレスの女性の頭にいっぱい着いた蝶が可愛い。「ディセントラランド」のいいところは、そのアバターのそばに寄ると「View Profile」という表示が出て、クリックすればその人のプロフィールと共に身につけているウエアラブルの詳細が分かるところ。買えるものであれば「BUY」の表示が出てきてマーケットプレイスに遷移できるようになっている。この女性アバター、よく見たらMVFWのヘッドでしたね……。

肝心のショーはというと、前回同様ウォーキングをプログラミングされたアバターが登場して跳んだり跳ねたり。「アディダス」のトレフォイルを全面にあしらったトップスや透明なボーダーパーカなど、メタバース感のあるコレクション。しかし、すごく正直なところ、観客のファッションの方が奇抜なものが多くてもっと面白い。ロゴ以外でブランドがブランドたらしめるルックをアバターを含めて作るってなかなか大変だなと感じた。そして、前回同様フィナーレはなく、最後のアバターが歩いたらショーは終了。特に盛り上がりもせず。シュールな空気を楽しんでいたら、次のショーの開始を知らせるカウントダウンが。1回きりにせず、何回かショーをリフレインするというのが、前回開催からの改善点だったようだ。一番下にショーの動画を格納しておくので確認のほど。

ショー終了後に「アディダス」のブースへ行くと、トレフォイルトップスのウエアラブエルを配布していたので、すかさずゲット。ショーのルックを着たアバターがショー会場のあちこちにいたことに納得した。しかし、顔が赤い覆面で覆われてしまうのは、結構残念。これが「アディダス」の美意識なのか……。

ビューティ企業としては韓国のアモーレパシフィックが初出展。1階ではカメリアの花びらを5つ集めるとウエアラブルがもらえるクエストを展開。問いに答えるとマシーンがその人に合わせたコスメを調合してくれたり、要所要所で商品紹介が入る。2階は「イニスフリー」や「ラネージュ」など同社の代表ブランドを紹介し、3階では先に行ったアートNFTコンテストの入賞作品を展示した。

日本からの唯一の出展者「メタトーキョー」は、1月に追加で「ディセントラランド」のランドを追加購入し、約4倍に拡大。Web3で活動する江戸レナによる「エドレナブル」など、日本文化に影響を受けたクリエイターによるデジタルファッション&アクセサリーを展示販売していた。前回ショーを行っていた「ドルチェ&ガッバーナ」は、事前に募集したウエアラブルのコンペティションの受賞作品を展示。若手クリエイターによるブランドロゴからインスパイアされたルックのパネルが店内に置かれていた。この中の20〜30ルックが実際にウエアラブルにされ、「ドルチェ&ガッバーナ」のNFTホルダーに贈られるという。3Dになったウエアラブルをぜひ見たかった。

他にもファッションブランドでは「マンゴ(MANGO)」や「クラークス(CLARKS)」が出展して店内でショーをしたり、パーティーをしたりした。また、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」創業デザイナー、クリストバル・バレンシアガの作品のウエアラブルを販売するショップも。リアルなブランドがリアルな商品をウエアラブルとして用意するよりも、こうしたメタバースでは非日常的なコスチュームの方が映える。

最終日は「DKNY」のショップのルーフトップでのクロージングパーティーへ。日本はほぼ朝。オンタイムで会場に行くとまだ人はまばらだったが、続々とオシャレアバターが到着。サラ・メイン(Sarah Main)のDJプレイが大型パネルに映し出されるも、皆もう疲れているのか意外と踊らない。私は記念に「コーチ」でゲットした浮遊エモートを披露し、さようなら。今回も頑張れなかったが、次こそは奇抜なドレスとか着物とかのウエアラブルを買って参加しようと思うのだった。

最初に入ったタイミングで「人が増えている!」と思ったら、展示場だけでなく、広場のような場所にもNPC(ノンプレーヤーキャラクター)が歩いていた。会場エリアのあちこちにショーケースが置かれ、出展者のウエアラブルを展示。各ショップへの来訪者の誘引を図る工夫も見られた。ファッションウイークといえばの、パパラッチやフォトグラファーが群がるフォトスポットも用意。自分のお気に入りのウエアラブルを着て撮影したらSNSに投稿したいと思わせる仕掛け作りもしていた。

今回は50超のブランドやコミュニティーが参加した。メタバースプラットフォームは多々あるが、これだけリアルとデジタルのブランドが参加するファッションイベントは今のところ他にないだろう。主催者によれば、4日間で7万2000以上のアクセス(セッション)。しかし、前年が5日間で10万8000セッションだったことを考えると、パワーダウンは否めない。実際、パネルディスカッションの会場に行ってみたら、登壇者がオンラインミーティングで話している様子を巨大パネルで映しているだけで、私以外に会場に観客はおらずといった閑古鳥が鳴く状況も。参加者2万6000のうち半分以上は初めて「ディセントラランド」を訪れた新規ユーザーだったという。

「ディセントラランド」の最大の特徴はブロックチェーンを利用して構築されていること。個人アカウトを作るには仮想通貨のウオレットへの接続が必要になる。存分に楽しむには仮想通貨を使い、英語を理解し、情報収集のためのリテラシーも求められる。正直、一般の人が楽しむにはハードルが高い。しかも大概のイベントは日本時間の深夜に行われている。

しかし、買ったデジタルアセットはウオレットに紐づくため、“所有”が明確だ。「View Profile」をクリックすれば、その人の持っている全てのアセットも見ることができる。「いいな」と思ったらそのアイテムをクリックすると、即買えるモノなら試着した自分のアバターが見られ、マーケットプレイスにないものであれば、“BID(買取オファー)”ができる。着替えは簡単。専用ツールを使えば、自分でオリジナルのウエアラブルも作成でき、マーケットプレイスに出品も可能だ。ヘアやエモート(動き)に特化したクリエイターもいる。全ての商品は数量が明確で、それを作ったクリエイターにも紐づいており、リセールもできる。「ディセントラランド」出身の人気クリエイターやブランドも誕生しており、MVFWでもショーやイベントを開催していた。つまりクリエイターエコノミーが形成されており、それを楽しむコミュニティーの存在感は、大いに感じられた。保有するアセットが誰からも見えるのは、インフルエンサーが誕生する可能性も感じさせる。

なお、「ディセントラランド」は6月12〜16日に「メタバース・ビューティウイーク」も初開催する。クリエイティブエージェンシーのカルトLDNがオーガナイズし、大小のビューティブランドや小売りが参加予定。オンラインゲームプラットフォーム「ロブロックス」とメタバースプラットフォーム「スペイシャル」でも同じコンテンツが楽しめるようにするという。

「アディダス」のショー

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