メタバースの世界は成長中でいまだ全体像は見えないが、プレーヤーは増え続け、存在感は確実に高まっている。利用者が増えればおのずとこの世界にも秩序が必要となるが、発展途上ゆえ、まだ確立されていない部分も多い。秩序を保つためのツールとして用いられるのが「法」だが、現実世界で使用されている法はそもそも“バーチャルな世界”を想定していないため、そっくりそのまま当てはめることが難しい場合も多く、判断が難しいケースもある。そこで今回は、多くの利用者が気になる“メタバース×法律”の基本的な考え方を福岡真之介弁護士が解説する。(この記事は「WWDJAPAN」2022年6月6日号メタバース特集からの先行公開です)
【アバター編】
漫画やゲームのキャラクターをアバターとして利用することの問題点は?
漫画やアニメ、ゲームのキャラクターの絵は著作権によって保護されているため、これらを承諾なくアバターとして使用すると著作権侵害となります。また、既存のキャラクターの絵の一部を少しだけ変えて、「なんとなく〇〇に似てるな」と感じるキャラクターを作った場合も注意が必要です。改変したキャラクターの絵にオリジナル版の特徴が備わっている場合は、やはり著作権侵害となる恐れがあります。
なお、二次創作を許しているケースもあります。その場合はきちんと利用規約を読み、どの程度まで改変が許されているかを確認することが重要です。
「アバターへの誹謗中傷」は名誉毀損になる?
現実世界にいるアバターの操作者に対する誹謗中傷だと認められた場合には、刑事上の名誉棄損罪や侮辱罪に該当すれば懲役刑や罰金刑が科され、民事上の名誉毀損に該当すれば損害賠償を請求される可能性があります。これに対して、操作者ではなくアバターそのものが誹謗中傷された場合は、アバターは生身の人間ではないため、犯罪や損害賠償の対象にならないというのが今の裁判所や法律の考え方です。ですが、将来的にアバター自体に信用力が備わった場合は、アバターそのものに対する名誉毀損が成立する可能性は十分あり得るでしょう。
【メタバース空間編】
メタバース空間の中で実在する建物を再現しても良い?
建物の外観は著作権で保護され、現実世界で同じ建物を建てると著作権侵害に該当しますが、実在する建物をメタバース空間で再現する場合は問題ありません。屋外に設置されている彫刻やオブジェも同様です。しかし彫刻などの「美術の著作物」については、コピーを販売した場合に著作権侵害とみなされます。ですので、例えば岡本太郎の“太陽の塔”は建物ですが美術の著作物でもあるので、メタバース空間で再現することは問題がなくても、再現したものを販売した場合には著作権侵害に該当します。
メタバース空間の中に実在する街を再現したい。看板や広告まで忠実に再現してOK?
屋外で写真を撮るときに街並みが写り込んでしまっても問題ないのと同様に、メタバース空間に実在する街を再現することは、写り込みが軽微である限り著作権との関係では問題ありません。看板や広告を忠実に再現することも、看板や広告の中で使用されるロゴなどがもつブランド力を利用して何かをしようとしているわけでないのであれば、商標権との関係では問題ありません。ですが、実際はトラブルを避けて実在する看板や広告を消してしまっているケースもあるようですね。
【アイテム編】
メタバース空間内でファッションデザインやロゴを模倣から守ることはできる?
この問題を考える上でポイントとなるのは著作権法、商標法、意匠法、不正競争防止法の4つの法律です。
①著作権で守る
著作権は、“著作物性”が認められたときに発生する権利ですが、日本では“実用品”には著作物性が認められにくい傾向にあります。実用品に著作権を認めると、実用品の機能を独占できてしまうため、実用品には原則として著作権を認めるべきではないというのが基本的な考え方です。
服やバッグ、靴といったファッションに関連するアイテムは実用品なので、例えば服に描かれたキャラクターに著作物性が認められることはあっても、服のデザインそのものに著作物性を認めるケースはほぼありません。
他方、例えば実際の服とは別に、デジタルデータとしても服を作っていた場合、デジタルデータの服には著作物性が認められますので、デジタルの服をデジタルで複製したり、インターネットで配信した場合には著作権侵害が成立します。
②商標権で守る
次に商標の観点から考えてみましょう。ブランドロゴは商標登録できれば商標権で保護されるので、現実世界で許可なくロゴがついたバッグを模倣して販売すれば商標権侵害が成立します。ここで注意したいのは、商標は登録時に保護したいカテゴリーを選ぶ必要があるという点です。例えばファッションブランドであれば登録したいロゴをアパレルに使用するので、その場合は「25類(被服、履物及び運動用特殊靴、帽子)」を選択します。登録が認められれば、25類のジャンルに限っては他人がそのブランドのロゴを無断で使用すると商標権侵害が成立することになります。
他方、25類で商標登録したブランドロゴをメタバース空間で服につけて使用した場合は商標権侵害になるかというと、答えは「ならない」です。というのも、メタバース空間はデータの世界。服を再現してもそれは“データ”に過ぎないため、25類の範囲外だからです。データ形式でも守りたい場合は、25類ではなく「コンピュータソフトウェア」などを保護する9類などで登録する必要があります。
また、たとえ9類で登録していても、自分で使用するために模倣する分には、商標権侵害とは認められにくく、販売したりすることではじめて商標権侵害が成立する点にも注意が必要です。
③意匠権で守る
それでは、意匠権で保護できるでしょうか。登録までにハードルはありますが、ファッションデザインを意匠登録することは可能です。意匠権で保護する際に問題となるのは、「使用用途」が合致しているかです。例えば、リアルな靴は「履く」ためにありますが、バーチャルな靴はデータなので実際には履けません。つまり実生活での使用とデジタル空間における使用用途は同一とはいえず、意匠権侵害が成立しないことになります。また、画像で意匠権を取れる場合は限定されており、デジタルアイテムの意匠権を取ることは基本的にはできません。
④不正競争防止法で守る
著作権、商標権、意匠権の中では、9類などに登録して商標権で保護する方法が最も現実的です。また、よく知られているものであれば、不正競争防止法が有効な対抗策で、ブランド側にとって最も使いやすい法律といえます。
不正競争防止法違反を主張するためには、問題となるデザインやロゴの認知度が高く、周知性が高かったり、著名であると証明する必要があります。また、不競法はビジネス上の不正行為を止めるために作られた法律なので、個人が楽しむために作られたものに対しては適用できません。模倣品が譲渡されたり販売された場合には、不競法で差し止めることができます。
【発展編】
世界中からアクセスできるメタバース空間の中で起きたトラブルは、どの国の法律で解決する?
この質問に対する回答としては「ケースバイケース」というのが正直なところ。例えば、日本限定のメタバースであれば、日本の法律で解決するのが妥当です。グローバルなメタバースの場合でも、企業対企業の訴訟であれば、企業の所在地によって裁判する国を決めれば良いですし、「エルメス」のメタバーキン訴訟のように、個人相手でも居住国が分かる有名人が相手であれば、その国の法律で解決すれば良いでしょう。他方、個人間のトラブルの場合、自分が日本に住んでいても相手が地球の裏側に住んでいる可能性もありますので、たとえ日本で裁判をして判決をもらっても意味がないですよね。こうなると既存の国家の法律や裁判所でトラブルを解決することには限界があるといえるので、個人的にはメタバース内に裁判所を作るのが一番いいんじゃないかなと考えています。
6月6日発行の「WWDJAPAN」(ウイークリー版)では、「メタバース特集」と題し業界の先駆者たちにフォーカスする。