ビューティ

「大喜利みたいな人事」と本人もビックリ 伊勢丹本館からメンズ館に異動したコスメバイヤーの半年

 伊勢丹新宿本店メンズ館1階の化粧品売り場を担当する宮下美彩子コスメティクス バイヤーは今春、隣接する同店本館から異動した。「WWDJAPAN」で働き始めて15年、その間、多くのバイヤーを取材してきたが、本館からメンズ館、逆にメンズ館から本館に異動した人の話は、正直ほとんど聞いたことがない。本人も「大喜利みたいな人事」と語る宮下バイヤーに、今の仕事のやりがいについて聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):これまでのキャリアを教えて。

宮下美彩子・伊勢丹新宿店 メンズ館 コスメティクス バイヤー(以下、宮下バイヤー):入社1年目は、伊勢丹新宿本店本館のランジェリー売り場に立ちました。その後、まずはビューティアポセカリーのアシスタントバイヤーに。次は台湾の新光三越で、「イセタン ミラー メイク&コスメティクス(ISETAN MIRROR MAKE & COSMETICS)」のような、セミセルフのセレクトショップの業態開発に携わりました。台湾には当時、存在しなかった業態です。帰国してからは、本館の化粧品フロアのアシスタントバイヤーに。ビューティ歴は5年になります。

WWD:そこから、同じコスメとは言え、メンズ館のバイヤーになった。

宮下バイヤー:本当にびっくりしました。会社には、「どんな関わり方でも良いから、化粧品事業に携わりたい」と言ってたんです。想像もしなかったけれど、今の仕事は確かに「化粧品事業」。「大喜利みたいな人事だな」って思いました(笑)。上司からは「本館とメンズ館の架け橋になれ!」と励まされました。

WWD:「どんな関わり方でも良いから、化粧品事業に携わりたい」と言う程、コスメに魅了されるのは、なぜ?

宮下バイヤー:もちろん商材自体が大好きです。でももう一つの理由は、ビジネスモデル。コスメはアパレル以上に販促費や人件費のウェイトが重く、独特な原価構造の仕組みの上に成り立っています。それだけモノにこだわりつつも、人による影響が大きいビジネスだと思うんです。同じ商品を売っていても、PRの仕方や届け方で売り上げは大きく異なります。特にメンズ館やビューティアポセカリーは、新商品や限定品の比重が少ないんです。一年中、同じ化粧品やフレグランスを売っていますが、誰に、何を届けるかは毎回違う。「切り口次第」のビジネスが、面白いんです。

WWD:「大喜利みたいな人事」は、正直不安だった?

宮下バイヤー:心配半分、「頑張ろう」という気持ちが半分でした。「頑張ろう」と思えたのは、「男性美容」や「メンズコスメ」「メンズメイク」という言葉をメディアで見る機会が増えていたから。すごくアップトレンドで、「可能性しかないな」と思えました。一方心配の理由は、私自身メンズ館の理解が浅く、メンズコスメに関わりがなかったから。同じビューティ業界に身を置いているのに、日々の業務ではメンズ館のコスメフロアチームとの関わりさえ、ほとんどなかったんです。どんなお客さまに支えられていて、今はどんな商品が売れているのか?も知りませんでした。

WWD:実際、働き始めてから印象の変化は?

宮下バイヤー:感度の高い人の一部や、自分への意識が高い人には当たり前になりつつありますが、盛り上がりはメディアが先行しています。もちろん「コスメはジェンダーに関係なく、誰でも使えるもの」という感覚のお客さまもいらっしゃいますが、一方で敷居の高さを感じたり、「関係ない」と思っていらっしゃったりの方は、想像以上に多良い印象です。

WWD:そんな人たちには、どう寄り添いたい?

宮下バイヤー:感度の高い人にとってもフレッシュな売り場でありつつ、まずは「身だしなみは“自分ごと”じゃなかったけれど、一度見てみたい」や「大多数が女性の化粧品売り場は恥ずかしい」という方にとって、メンズ館という館だからこそ、安心して見て、試して、買っていただきたいです。まずはスキンケアの啓蒙です。お試しいただき、見て、実感できる環境を整備したいと思います。メンズ館には、洋服や美意識について、強い“こだわり”を持っているお客さまが大勢います。だからこそ、男性の趣味に寄り添った切り口で提案し、試していただき、「良いじゃん」って思ってもらいたいです。

WWD:具体的には?

宮下バイヤー:サウナやキャンプ、サーフィンなどのシーンで使えるボディーソープや虫除け、リフレッシュスプレーなどを提案しています。サウナで使える商材を提案したときは、館内の他のフロアとも連動しました。また、メンズ館には「香り」に強みを持つブランドが多いんです。お客さまのニーズも拡大しているので、ちょっとステキなハンドソープなども拡充したいですね。

WWD:新規導入したブランドには、どんなものが?

宮下バイヤー:エントリーアイテムとして「イロイク(IROIKU)」を導入しました。“色付きの美容液”という感覚で、「ファンデーションは、ちょっと無理」という男性にも寄り添えると思います。

WWD:「イロイク」は、1個2200円。エントリー商材とは言え、“坪効率”が求められる百貨店への導入には葛藤もありそう。

宮下バイヤー:アシスタントバイヤーの青木さんと「毎週、何個売ったら良いんだ?」なんて話をすることもあります(笑)。ただ、今回は単価ではなく、商品の背景やタッチポイントとしての価値を重視しました。

WWD:「本館とメンズ館の架け橋」には、どうやってなるつもり?

宮下バイヤー:4月から、本館にしかないけれど男性にも提案したいブランドのプロモーションに取り組んでいます。「ヤーマン(YA-MAN)」や「ダイソン(DYSON)」などの美容機器だけでなく、今後は「イプサ(IPSA)」など、スキンケアブランドも紹介する予定です。特に(プレステージのスキンケアブランドが並んでいる)本館2階は、「用がない」「知らない」男性も多いんです。まずは知っていただき、気に入ったら次回以降は本館に行っていただければ良いと思っています。

WWD:本館とメンズ館に「架け橋」がなかったのは、館ごとに課せられる予算も影響しているのでは?「2回目以降は本館で」で、本当に良い?

宮下バイヤー:「お客さまにとって一番プラスになれば」とシンプルに考えています。「本館ORメンズ館」は、こちらの事情です。お客さまにとっては知らないブランドに出合うきっかけになって、ブランドにとっては男性中心のお客さまとの新しいご縁になって、接客のハード面を整えている本館2階にとってはお客さまとして定着し、メンズ館にとっては52週常に新しいショップという付加価値につながれば、4者が全員ハッピーになれると思うんです。

WWD:実際、「架け橋」としての活動もスタートした?

宮下バイヤー:本館1、2階のバイヤーは、昨年度まで同僚でした。年度始めのミーティング以降、「お客さまと、ブランドにとって良い形を考えてましょう」と目線を合わせています。メンズ館でプロモーションするブランドについても、本館のバイヤーに紹介してもらうことがあります。ビューティは、ますますジェンダーレスになるでしょう。お客さまは、どっちで買っても良いし、どっちで出会っても良い。それは、オンラインでもオフラインでも変わりません。縦割りの視点でいろんなことを決めるのではなく、お客さまの視点に立った時の買いやすさを考え、それぞれの役割を全うし、一緒に進んでいければと思っています。

WWD:寂しくなることはない?

宮下バイヤー:個人的には、アイシャドウやリップが、今の仕事には圧倒的に足りていません(笑)!本館のプロモーションを見ると、毎回ワクワクします。

WWD:メンズ館のバイヤーになって、「良いブランドだなぁ」と改めて痛感したブランドはある?

宮下バイヤー:肌の性差は大きいので、男性に寄り添っているブランドのスゴさを改めて感じました。「シセイドウ メン(SHISEIDO MEN)」「ファイブイズム バイ スリー(FIVEISM × THREE)」「アスタリフト メン(ASTALIFT MEN)」などですね。「アスレティア(ATHLETIA)」は、使う人をブランドから定義しない姿勢が「これからのブランドなんだなぁ」と感じさせます。


 ビューティ業界には、魅力的なバイヤーが多数存在している。「WWDJAPAN」は、普段は売り上げや人気ブランド、成功したプロモーションばっかり聞いているバイヤーのストーリーにも注目。これまでのキャリアやビューティにかける情熱、消費者への想いを聞く。

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