ビューティ

元敏腕百貨店コスメバイヤーが語る、営業再開後の化粧品販売の先行きは?

 百貨店の営業再開が広がっている。一足早く全域で緊急事態宣言解除となった関西は百貨店に客足が戻りつつある。企業が本格的な再始動に向けて動き出す中、消費者のニーズはどう変化するのか。在阪百貨店で長く化粧品バイヤーを務めたのち、現在はビューティ関連のコンサルティングを中心に活動する曽田啓子氏に、化粧品販売の見通しを聞いた。

WWD:営業を再開した百貨店の化粧品売り場の状況は?

曽田啓子ビューティービジネスプロデューサー(以下、曽田):関西では高島屋大阪店が5月18日、大丸松坂屋百貨店が19日に一部再開し、阪急阪神百貨店をはじめ全店舗が21日には全面再開しています。宣言解除が東京などより一足早かったので店頭の状況も見えてきています。館の対応としては玄関前に体温測定のためのサーモグラフィーを設置したり、マスク着用と手指の消毒を呼びかけたり、入り口と出口の扉を分けたりするなどの対策をとっています。化粧品売り場の状況は、美容部員はマスク着用必須で、フェイスシールドを全員に支給している店舗もあります。テスターにはビニールをかけて自由に使用できないようにしているほか、対面カウンターにはビニールやアクリル板を設置。化粧品は肌に触れるものなので、接触感染、飛沫感染のリスクが高く、お客さまと販売員の安心安全を守るために苦心している様子がうかがえます。

WWD:今は集客を図るのもはばかられるが対応は?

曽田:プロモーションスペースを使ったイベントは休止と聞いています。代わりにニーズの高い衛生関連アイテムやアロマなど香りの商品をクローズアップするなどの対応も。現在は営業再開を待ちわびていた顧客が詰めかけていて、スキンケア商品のまとめ買いが起きています。すなわち顧客に関しては客単価が高く、売り上げが伸びていますが、新客の来店やメイクアップ商品の動きは鈍いようです。ハンドクリームや洗浄ジェルなどは売れていますが、客数が戻ってくるにはかなり時間がかかりそうです。

WWD:消費者のニーズに変化はあるか?

曽田:マスク着用で肌トラブルを抱える人が増えて敏感肌向けや保湿系のアイテムのニーズも増えているのではないでしょうか。そのほか目元のメイクの注目度は上がっていますし、香りや睡眠、免疫力や腸活関連のインナーケアなども同様です。ビューティで扱う品目を広げて、あらゆる角度からウィズコロナに向けてアプローチをしていく必要があるでしょう。機能面での訴求も大切です。例えばマスクにつきにくい口紅やマスクの冷却スプレーなど。マスクありきのビューティは新カテゴリーとして強化ポイントになると思います。マスクに精油を垂らしたり、体調管理にハーブティーを活用したり、ビューティのあり方がよりライフスタイル寄りになっていくのではないでしょうか。そうした提案を続けて打ち出していくことが大切で、すぐには難しいですが、少しずつお客さまに戻ってきてもらえるよう取り組みを発信し続けることです。

「今必要なもの」と「いつかほしいもの」、段階を経た提案を

WWD:通常だと今の時期、UVや美白製品が注目ですが、家にいることが多い中で、新たなニーズをキャッチして発信を変えていく必要があるのか?

曽田:おっしゃる通り、例年今の時期に売れるのはUVや美白です。家の中にいるからニーズがない、ではなく、家の中やちょっとした外出時にもその需要はあるものです。近所の買い物に行くにもUVケアは必須ですし、フェイスパウダーなど軽めのベースメイクの提案があってもいい。やれることはたくさんあります。変わることの安心感と変わらないことの安心感のバランスを取りながら両方を伝えていく必要があると思います。

WWD:ウィズコロナの時代に、今後の百貨店が目指すべき方向性は?

曽田:外出自粛期間中、阪急と伊勢丹は店頭在庫以外の別在庫運用が奏功し、EC売り上げが大幅に伸びています。各百貨店ともオンラインの扱いをどう強化していくか、早急な対応が必要だと思います。化粧品販売にとってテスターが使えない、タッチアップができないという状況は致命的。今後はオンラインとオフラインの壁をなくし融合して顧客に新しい情報を発信していく必要があるでしょう。顧客カルテの一元化などの対応も重要な課題だと思います。

WWD:消費者の先を行く提案が求められる。

曽田:ステイホームで自分を見つめ直す時間が持てた人も多いと思います。“おうち美容”“攻めのメイク”といったキーワードも上がってきています。集中ケアやパーツケア、ジェルネイルに見えるネイルシールなどの人気も高まっています。発想を変えることで新たに脚光を浴びる商品も出てきているということです。必要なものと不必要なものがはっきり見えた期間でもあったので、今必要なものと、今は必要ではないけどいつかほしいもの――そのように段階を経て提案をしていくことが求められるでしょう。美しくなりたい、若々しくいたいという欲求はなくなるものではないですし、ベクトルの方向性が少し変わって内面に傾くかもしれませんが、ビューティへの情熱は変わりません。百貨店はラグジュアリーと高揚感を提供するという役割も担っているので、アーティストやブランドと一緒に未来を語ることは外さないでほしいと思います。

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