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WWFジャパンとユニリーバが気候変動・生物多様性のリスクにコミットメント

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 大量生産・消費・廃棄がもたらすプラスチック汚染や気候変動問題は、企業がそれぞれ課題解決に取り組むだけでは限りがある。そこで世界自然保護基金ジャパン(以下、WWFジャパン)が発信する「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」の取り組みについて三沢行弘WWFジャパン プラスチック政策マネージャーと、プロジェクトに参画したユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの新名司ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス アシスタント コミュニケーション マネジャーに話を聞いた。(この記事はWWDジャパン2022年5月30日号からの抜粋に加筆をしています)

WWDJAPAN(以下、WWD):「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」を発足させた狙いは。

三沢行弘WWFジャパン プラスチック政策マネージャー(以下、三沢):プロジェクト発足の背景として、気候変動問題と生物多様性の損失の問題という環境問題がある。これまでのような取り組みでは、これらの解決には至らないというのは明白。そして、この2つの課題はどちらもプラスチックが大きな要因の一つにある。プラスチックの流出は環境汚染を通じて生物多様性の損失にもつながる。また、プラスチックの大量生産という仕組み自体にも問題があり、生産するほど大量の温室効果ガスが発生し、これは気候変動に影響がある。これらのことからプラスチック問題にしっかり向き合わなければいけないという背景があり、容器包装や使い捨てプラスチックに関する問題解決を目指すプロジェクトを立ち上げた。

WWD:参画企業10社のうち化粧品・日用品業界の企業は4社。これらの企業が入っている点をどのように捉えているか。

三沢:世の中のプラスチックごみの約半分は容器の使い捨てであり、しかも一回使っただけで捨てられるものも多く環境負荷が大きい。そのプラスチックごみ削減にインパクトのある業界を考えたとき、日用品・化粧品業界はぴったり。そしてインパクトはもちろんだが、例えば化粧品は美容部員がいてお客と双方向のコミュニケーションでサービスを提供している。消費者とメーカーが一緒になってこのプロジェクトを進める、コミュニケーション面での効果も期待している。

WWD:では、プロジェクトにユニリーバが参画した狙いは?

新名司ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社 アシスタント コミュニケーション マネジャー(以下、新名):当社は「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」をパーパスに掲げ、消費者が近くの店舗で買ったユニリーバ製品が環境にいい、という構図を当たり前にしたいと思っている。プラスチック に関しては、2017年に達成期限とどんな取り組みを行うかの数値目標 を設定。当社はプラスチックの使用量削減だけではなくプラスチック自体がゴミにならない社会を目指し、再生プラスチックの採用や空き容器の回収など取り組んできた。しかし、1社でできることをすればするほど、1社だけではできないことが見えてくる。プラスチックがゴミにならない未来を目指すためには、行政や企業などセクターの壁を越えて、さらには消費者の力も借りて社会全体を変えていかなければいけないと思い参画した。

WWD:1社ではできない問題とはなにか?

新名:いろいろあるが、プラスチックに関しては、25年までにプラスチックパッケージを100%再利用可能・リサイクル可能・堆肥化可能にしたいと目標を掲げ、19年下期から「LUX」「ダヴ 」「CLEAR」のボトルパッケージに90〜95%再生プラスチックを採用。そしてこの再生プラスチックはもともと飲料ペットボトルだったものを使用している。家庭でもペットボトル用のゴミ箱を用意しているところはあるが、シャンプー用のゴミ箱はない。なぜなら、シャンプーボトルを分別回収する仕組みがなくリサイクルする技術がないからだ。飲料用ペットボトルは異なる製品でもラベルを剥がせば同じ素材の 透明ボトルだが、日用品はボトルの素材や色が違うため混ぜてリサイクルすることが難しい。行政と連携して分別回収の仕組みを作る、業界で統一規格を設定するなどしなければいけない。これは1社ではできないことだ。

WWD:25年までに容器包装や使い捨てプラスチックの課題解決のため、WWFはプロジェクトの中で参画企業に5つのコミットメント(社会への公約)を呼びかけている。ユニリーバに期待することは?

三沢:廃棄物をゼロに近づけていく社会経済のしくみである“サーキュラー・エコノミー”を実現するために、リデュース(発生抑制)・リユース(再使用)・リサイクル(再生利用)を総合的に期待している。マイバックやマイボトルなど生活者の視点でできることは限られており、そこを突破するために企業にはどんどんオプションを提案していってほしい。ユニリーバはシャンプーやボディウォッシュを量り売りする「リフィルステーション」を始めているので、生活者にリユースの選択肢が増えることを期待している。

新名:お客さまにボトルを持参してもらいシャンプーやボディウォッシュを充填する「リフィルステーション」は気軽に、エコにつながる買い物体験として好評だ。今は専門スタッフを置き、持参されたボトルの洗浄が十分かなどを確認した上で販売している。 今後このような場を増やせるよう、お客様の安心安全を守りながら、オペレーションの最適化を進めていく予定だ。また、WWFとのプロジェクトを通じて意義を知っていただくことで、ものを使い捨てにしないライフスタイルや社会のあり方を”あたりまえ”にするきっかけをつくりたい。

WWD:生活者が環境意識を高く持つためには?

三沢:そこが一番ネックになっている部分だ。いくらリデュース・リユース・リサイクルが大事だと打ち出しても、リサイクルが中心でリユースの事例がほとんどない。生活者には発想の転換が必要であり、違う価値観を理解して変化に慣れてもらう必要がある。例えば、レジ袋削減も大事だが大前提に大量生産が問題でありそのためにリデュース・リユース・リサイクルが必要であるといった、一つ一つではなく全体感を持った包括的なコミュニケーションがなければ生活者への理解も難しいのではないか。また、「環境にいいことをやりたいけれどどうすればいいのかわからない」という人も多いため、そこを企業と共に新たなサービスを提案していきたい。

新名:「環境にいいことをやりたい」という思いのために、何かを諦めたり我慢したりするのは大変で続けにくい 。メーカーとしては、消費者が楽しみながら環境のことを考えられ、ユーザーにも地球にもメリットがある、これまで以上の価値 を持ちながらサステナブルな製品やサービス を見いだしていかなければいけない。あとは、企業が「この製品は環境に良い」と伝えても、消費者から見るとそれが正しいのかどうか分からない、選びにくいという声も聞く。企業によって基準が異なる場合もある ため、WWFのような中立的な立場の意見が加わることで信頼にもつながる。こうした立ち位置はとても重要だ。

三沢:透明性のためにも、企業自らが数値目標を開示できるようになれば変わるはずだ。これは海外では当たり前だが、日本では環境にいいことやっていても出したがらない企業が多い。「できる範囲でできたことを後で発表する」ということはしているが、それではいつまでも高い目標には向かえない。世界的にも日本は資源の過剰利用と自然破壊が深刻化している。WWFでは人類が環境にかけている負荷を数値化した環境指標「エコロジカル・フットプリント」を出しているが、もし世界の人が全て今の日本と同じような生活をした場合、地球2.8個分の自然資源が必要になると考えられている。取り返しのつかない状態に来ていることを理解すべきである。

新名:コミットメントとは、作りたい未来を描くもの。「ゴミのない未来」「美しい自然を子供達の世代にも」といったポジティブな未来を描き、それに対して何ができるのかを考え、社会へと共有し、いまできることをやればいいだけ。やってみたらできないこともあるかもしれないが、そうなったら目標ややり方を見直せばいい。自社だけでできないなら他から力を借りればいいだけ。だから企業としてコミットメントを出すことを必要以上に怖がらないでほしい。小さな毎日の積み重ねが大きな変化になる。企業も生活者も 真面目に考えすぎず、「できないかもしれない」ことを理由に挑戦しないことを辞めていければ、ほしい未来に近づくはずだ。


「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」とは

 WWFジャパンは循環型社会の早期実現に向けて、2025年を中間目標とした「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」を2月に発足した。参画企業は10社でうち4社が化粧品・日用品業界の企業。各企業は容器包装や使い捨てプラスチックに関する5つのコミットメントを掲げ、25 年までに、リサイクル素材の意欲的な使用目標を設定することやリユース・リサイクル率を向上させるためにステークホルダーと協力することを約束する。

プラスチックごみ削減の「リフィルステーション」

 気軽かつエコにつながる買い物体験として、ユニリーバは21年2月にシャンプーやボディーウォッシュを量り売りする「リフィルステーション」をスタート。長野県佐久市では移動販売車で行っているほか、宮崎県新富町の「新富町チャレンジショップ」内と奈良県奈良市「住まいと暮らしのぷらっとHOME」学園前店内に「リフィルステーション」を開設し、「ダヴ」のシャンプーやコンディショナー、ボディーウォッシュの量り売りを行っている。

PHOTO:YUKIE SUGANO/TEXT:WAKANA NAKADE

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