ファッション

GWに読みたい本 小野啓「モール」、鈴木涼美「JJとその時代」

 2020年の春以降、この2年はコロナ禍で移動が制限され、長期休みも外出が思うようにできなかった。しかしこのゴールデンウィークは、久しぶりに思いっきり旅行やショッピングなどを楽しむ人は多いはずだ。旅行なら長時間の移動になる。そんなときにぜひ読んで欲しい本を紹介する。

 「モール」(2022、赤々舎)は、写真家の小野啓が10年に渡って全国の大型ショッピングモールを撮り続けた意欲的な写真集だ。小野啓は処女作の「青い春」(2006、青幻社)以降、ライフワークのように高校生の写真を取り続けてきた。高校生たちとどこで撮影するかを話し合う際、モールを指定されたことが多く、テーマにモールを選んだという。

 多くのファッション企業/ビューティ企業にとって、この20年は全国の大型モールに進出し、そこで成功を収めることが一つの勝ちパターンだった。ショッピングセンターが年間30兆円の流通額を誇ることを考えれば当然のことだった。その一方で、派手でトレンドを左右する都心のファッションビルとは異なり、外観や内装で画一化、標準化の進んだ郊外、あるいは準郊外の大型モールはユーザーである市民にはあまりにも当たり前の存在であり、その大きな流通額ほど注目される存在ではない。それは「モール」でも同様で、数多く登場するショッピングモールを、どこの地域のモールなのかを正確に言い当てることは至難の業だ。小野は、そうした空気のように当たり前の存在であり、かつ無個性な存在であるモールを、淡々とカメラに収めていく。

 ただ、ファッション/ビューティ業界でモールに出店している、あるいはその店舗運営に関わっている人であれば、一見無個性に見えるモールに多くの人が集まること、それを維持し、発展させるために多くの労力や手間をかけていることを知っているはずだ。そうであればなお、「モール」の平凡の1シーンのようにしか見えない写真に、時に痛いほど胸を打たれることに気づくはずだ。その理由は現代の日本の原風景を描写すべく、全国の高校生とモールを撮影するために全国を歩き回って写真を撮り続けてきた小野啓が捉えたワンシーンだからこそ、なのだ。ファッションとビューティ業界の大型ショッピング「モール」に関係するあらゆる人に、ぜひ手に取り、それらの1枚1枚を何度も見返して欲しい。

 3月に発行された「JJとその時代 女のコは雑誌に何を夢見たのか」(2021、光文社新書)は、同じ光文社の女性誌「JJ」を軸に、副題の「女のコは雑誌に何を夢見たのか」とある通り、女性の消費や生き方を絡めつつ、その歴史をたどった本だ。著者の鈴木涼美は、元「日本経済新聞」の記者で「『AV女優』の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか」(青土社)などの著書で知られる文筆家だ。鈴木は、雑誌「JJ」とその読者層だった「女のコ」を軸に、変遷する消費や社会、風俗の流れを、その時代背景の考察を交えながら描写していく。男性編集長の定めた編集方針や、強力なインフルエンサーとして誌面に君臨した”読者モデル=読モ”たち、当時の「女のコ」の心を捉えた「お嬢様」大学の女子大生、それらから導き出された当時の「女性たちの生き方」を、ある種のシビアでかつ生暖かな眼差しとともに、こう分析する。「前例のない新しい時代を、女性の身体を抱えて生きていく際に、何かしらの拠り所を求める気分はわからないでもない。『女性としての生き方」を全肯定して突き進むJJコードは、彼女たちが物事を決めながら若さを生き抜くための強い拠り所であり続けた」(P68)。

 1980年代以降、「JJ」「CanCam」「anan」「ノンノ」などの女性誌を筆頭にした雑誌は、ファッションと消費の最前線であり中心だった。だが2010年以降のインターネットの普及、特に「インスタグラム」の台頭はこうした雑誌発の消費に一つの区切りを付けた。だが、「インスタグラム」などのSNSメディアも永遠に続くわけではない。いずれ、新たなメディアが台頭し、その座を明け渡すことになる。40代以上であれば、「JJ」が仕掛け、一大ムーブメントとなった女子大生ブームはまさに同時代に起こった出来事である。だが「JJとその時代」は決して「若いあのころ」を振り返るための本ではない。今だからこそ読み返し、これからのメディアや消費のあり方を考えるための必読本なのだ。

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