ファッション

「循環型社会へのシフトに必要なこと」 サーキュラーデザインの第一人者の水野大二郎氏に聞く

 これからのビジネスを考えるときに鍵になる考え方“サーキュラーデザイン”や“新しい物質循環”とは何かを知るためのガイド本「サーキュラーデザイン 持続可能な社会をつくる製品・サービス・ビジネス」(学芸出版社)」が2月1日に発売される。そもそもサーキュラーデザインとは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)実現のためのデザインやその考え方で、経済活動のあらゆる段階(設計、製造、消費、使用、廃棄、再資源化など)で循環系へのシフトを促しつつ、モノやエネルギーの消費を低減することで、新たな経済的価値の成立を目指す、社会/環境デザインの新たな潮流だ。

 すでにファッションやビューティ産業でも直線型のビジネスモデルから循環型のビジネスへの移行が始まっている。例えば、アディダス(ADIDAS)は使い終わったシューズを回収して再資源化することを前提にした“フューチャークラフトループ.(現在の商品名はメイド・トゥ・ビ・リメイド ウルトラブースト)”の販売を北米で始め、ナイキ(NIKE)は生産工程で出る廃棄物“ナイキグラインド”をデザインに組み込んだシューズやアパレル製品を販売している。

 本書の著者は水野大二郎・京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab特任教授/慶応義塾大学大学院特別招聘教授と津田和俊・京都工芸繊維大学デザイン・建築学講師。水野教授は2021年11~12月に開催された経済産業省主催の「これからのファッションを考える研究会 ~ファッション未来研究会~」の座長を務めており、サーキュラーデザイン研究の第一人者として知られる。著者の水野特任教授に読みどころを聞いた。

WWD:なぜ今、「サーキュラーデザイン」を?

水野大二郎特任教授(以下、水野):サーキュラーエコノミー(循環型経済)のための手引書はすでにさまざまなものが市場に出回っています。ですが、社会や環境のデザイン、あるいは社会実装の観点から具体的な理論や手法、実践例、ガイドラインなどが日本語で紹介されたことはほとんどありませんでした。

 海外ではエレンマッカーサー財団(EMF)をはじめさまざまな組織が国連や国家、あるいは産業や大学などの研究機関と連携しながら、共同研究を実践したり報告書を一般無償公開したりしています。これらの動向を正確に把握することが現在喫緊の社会的課題である環境問題の解決に向けた最も重要な点でないかと考えました。

WWD:本書は衣食住のサーキュラーデザインを網羅されていますね。特にファッション分野では「微生物で服をつくる」「キノコで服をつくる」「捨てられるはずだったもので服をつくる」「使い終わった服を回収しやすくつくる」の4つのテーマで具体例とともに紹介されています。

水野:本書の目的の一つは、今すぐできることから始めるにあたって、現状を改善する1つの手段として微生物や廃棄資源を用いる新しいデザインについて紹介すること。ですので、サーキュラー“製品”デザインに関して、現在ある事例のうち優れたものを選定して紹介しています。

 ただ本来は、微生物や廃棄資源などを用いて衣服を作ることだけがサーキュラーデザインではありません。広義のサーキュラーデザインとは、製品を作り続けることから脱却し、脱物質化を図ることなども含まれてもいい。脱物質化に関しては、現在メタバース的なNFTファッションが注目を浴びていますが、これらは現在のところ投機的な意味合いも強いかな、とは思います。しかし、もしかしたら近い未来、人々が製品を使わなくてもよくなるデザイン、すなわち、環境負荷をそもそも劇的に変革するようなデザインの有り様も考えられます。

WWD:現状改善という意味では、参考になる国際的なコンソーシアムやアライアンス、認証制度、エレンマッカーサー財団やナイキ(NIKE)、IDEOとEMFなどが公開しているガイドやツールも紹介されています。

水野:そうですね。コンソーシアムやアライアンス、認証制度、そして製品開発のためのガイドやツールも本書では積極的に翻訳、紹介しています。そのうちの多くがこれまでWWDJAPANでも紹介された内容だと思います。

 コンソーシアムやアライアンスでは、国連レベルのものからヒグインデックス(Higg Index)を掲げるサステナブルアパレル連合、そしてAFIRM(the Apparel and Footwear International RSL Management)など幅広く選定しています。企業のサステナビリティ推進室に配属されている方なら一度は見たことがあるものが多いでしょう。また、活動家団体に近い性質を帯びたグローバルファッションアジェンダ(Global Fashion Agenda)やファッションフォーグッド(Fashion for Good)などの組織も紹介しています。これらの組織は度々無償で報告書をウェブサイトで公開しており、欧米の動向をつかむにあたって非常に有益なメディアになっています。

 認証制度についてはエコテックス(oeko-tex)やブルーサイン(bluesign)などを紹介していますが、各認証制度の中に細分化された細かな認証があり、それぞれやることが非常に複雑です。経産省「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」第4回の資料3と資料4なども参照されると良いかと思います。

 デザインガイドやツールは、先述のグローバルファッションアジェンダをはじめとした組織が出しています。リセールや回収について、リデザインの方法についてなどもありますが、本書ではナイキのサーキュラリティワークブックについて詳細を説明しました。これはサーキュラー“製品”デザインのための実用的ガイドで、製品設計時において何を具体的に配慮したらよいかが段階ごとに書かれており、自分でも試したところ非常に有益だと考え紹介しました。企業内の製造管理担当者であれば特段新しいことはないかもしれませんが、デザインする立場から見ると非常に新鮮です。

WWD:最後に「これからのファッションを考える研究会 ~ファッション未来研究会~」ではどういう議論がなされたのですか?

水野:ファッション産業を取り巻く劇的な変化について議論され、その上で日本のファッション産業の未来において重要だと思われる活動領域や人材像などについて具体的な提案を含めた検討を行いました。

 ざっと言ってしまえば、不確実な未来に対して独創的な提案をし得るようなアート型の人材、デジタルトランスフォーメーションに対して対応可能なデジタル人材や、サーキュラーエコノミーや物質循環、あるいは産地との連携に基づいた新たな材料開発などを行うサーキュラーデザイン人材、そしてメタバースやサーキュラーエコノミー、あるいはポストラグジュアリーなどを検討するのに必要なビジネス人材ーーこういった人材の必要性を明らかにしました。

 これらの話の根幹にあるのは、ファッション産業が低所得であることーーテキスタイルの産地や、静脈産業に関わる人々、アパレル企業に勤める人々の所得が少ないがゆえに、優秀な人材が集まりづらく、悪循環を生んでいることが考えられます。

 倫理的、あるいは利他的な消費を促すような超高付加価値の製品やサービスの提供、あるいは情報環境と接続したNFTやメタバースなどデジタルアセットの利活用、異業種とのコラボレーションを通して、ファッション産業が発展するためにあり得る望ましい未来とは何かについて議論を交わしました。

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