座右の銘は「泣かぬなら 笑わせてみせよう ホトトギス」。ZOZOTOWN立ち上げメンバーで、「ファッションチアリーダー」に就任した武藤貴宣氏が、ファッションへの愛と明るい未来について、ゆるく語ります。
(前回から続く)
忘年会は毎年テーマがあって、前澤(友作)さんがそれについて企画したり発案したりしていたのですが、基本的に「会社はファミリー」という前澤さんの愛情表現の場だったように思います。
最初の忘年会は、「フェラーリを買ったから、会場まで皆を乗せる」というもの。当時スタッフは若くてもちろんフェラーリにも乗ったことなんてないし、嬉しそうにしていましたね。会場は歩いて5分のホテルの宴会場なのに、1人ずつ20分ぐらいかけて前澤さんが送ってくれて。ここでは言えないくらいの速度で爆走、人によっては途中でスピンしたりして、命がけでした(笑)。会自体は、来た人から飲むような、ただのゆるい飲み会でした。
翌年の忘年会は、初の社内恋愛のもつれに悩んだ男性社員を救おうと、「(ファミリーなんだから)皆で応援しようぜ!」という会でした。20代ばかりでしたし、変に隠し立てするよりも、オープンになったのは良かったのかもしれません。その後、その2人はめでたく結婚しました。
ある年は前澤さんが男性社員のプロポーズをプロデュースしました。ホテルの部屋を借り切って、その男性が遠距離恋愛中の女性に「ZOZOTOWNのサイトを見て」って言うんです。するとそこに「いつもありがとう。結婚してください」的な愛のメッセージが表示されていて、女性が感涙すると同時に、ホテルの窓の外に花火がドーンと上がるという。完全にサイトを私物化していましたね(苦笑)。そんな演出を男性社員にプレゼントしつつ、ホテルの部屋に隠しカメラを仕込んで、本人がプロポーズしてる瞬間をみんなで別会場で見ていたんです。まさにテレビのドッキリ企画と一緒です。それをお金かけて編集したものを、忘年会で皆に公開しました。家族(社員)の幸せな出来事に皆で大いに盛り上がりました。
前澤さんがさすがだなと思うのは、さらにそれを新卒採用のために使ったことですね。プロポーズした男性は人事部長で、会社説明会の主催者でした。今から10年以上前の新卒採用の話で、説明会を全国6カ所ぐらいの映画館でやっていたのですが、そこで会社説明の代わりにその動画を流したんです。「こんな会社です。ファミリーです!」みたいな。
前回で話しましたが、会社として人事に強烈なこだわりがあったので、説明会では会社概要をほとんど出さず、自分たちのカルチャー一本勝負だったんです。そこで共感してくれたり、僕らと一緒に仕事したいと思ってくれることを一番大事にしようという趣旨で、説明会を実施していました。
人事部長の彼からしたら、会社を挙げて自分のプロポーズを、しかもZOZOTOWNを使ってやらせてもらえた!と思ったでしょうけれど、まぁ、その後、だいぶ奥さまからこすられてて。やっぱり前澤さんは商売人だなぁと思うエピソードでした。
前澤さんが初めてバスキアの絵を落札した年の忘年会は、会場内に黒い大きなボックスみたいなものがあって。「何だろう」と思ったら、小さな美術館みたいなもので、まだ誰も見ていない、そのバスキアの絵を社員にいち早く見せようという計らいでした。僕はその年は都合がつかず、不参加でしたが皆列になって、バスキアの絵を自由に見たり写真を撮ったりしていました。その絵の保険と輸送費にかなりの金額かかったことが事後申請で分かって。全部忘年会の経費として扱われて、幹事役が経理に怒られていましたね(笑)。
他にも、全国各地に食材をとりに行って、集まった食材を調理して「同じ釜の飯を食う」企画をしたり、みんなで合唱したり、経営陣が本気でハードコアバンドを組んで演奏したり……ただの飲み会ではないZOZO独自の忘年会は毎年工夫を凝らしたもので、みんなで思い切りドレスアップして集まる「お楽しみ会」みたいな行事でしたね。
あっという間に1000人近い規模の会社になりましたが、前澤さんにとってZOZOはずっとファミリーだったと思います。(次回は3月14日12時に公開予定です)
武藤貴宣(むとう・たかのぶ)/ZOZOファッションチアリーダー:1978年2月6日生まれ、岐阜県出身。東京情報大学卒業後、東光オーエーシステムを経て、2002年にスタートトゥデイ(現ZOZO)に入社。04年、ZOZOTOWN立ち上げに携わる。19年5月から執行役員(EC事業本部管掌)。22年2月から現職。610(=むとう)は昔からのニックネームで、社内でも浸透している。趣味はジャケ買い、お墓参り