ビューティ

シングルマザーの支援で「美は社会性を育む」を実感 日本ロレアルとNPO法人、当事者が語る

 「アットコスメ」を共同創業した山田メユミと有志はこのほど、「コスメバンクプロジェクト」をスタートした。昨年12月には全国約2万2000のシングルマザーら経済的困難を抱える女性の世帯に、化粧品メーカーが抱える余剰在庫となったコスメを詰め合わせ、支援団体などを通じて無償提供。今後も「女性と地球にスマイルを」を合言葉に、行き先が決まっていない化粧品を、必要とする人の元に届けることで、余剰品問題に向き合いながらコスメが消費者に提供できる自分への自信や高揚感を届けたい考えだ。今回は参画する日本ロレアル、NPO法人、そしてシングルマザーに話を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):そもそも日本ロレアルが、NPO法人のしんぐるまざあず・ふぉーらむと連携して、シングルマザー家庭の経済的安定を目指したキャリア支援プログラム「未来への扉」に取り組み始めた経緯は?

楠田倫子日本ロレアル ヴァイスプレジデント コーポレート・アフェアズ&エンゲージメント本部長(以下、楠田):世界No.1のビューティ企業であるロレアルは、まさに社会に支えられています。だからこそ、私たちは社会に何か還元したい。そこでグローバルで環境や社会問題に取り組んでいますが、その活動は各国の実情に即したいと思っています。日本で深刻な社会問題の1つは、子どもの貧困です。現在貧困に苦しんでいる子どもは7人に1人とOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で突出しており、その背景には、シングルマザー家庭の厳しい環境があります。継続的かつ根本的な問題解決につながることを考えた時、シングルマザー家庭の経済的安定のために尽力している赤石さんの存在を知ったんです。

赤石千衣子しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長(以下、赤石):日本ロレアルにお声がけいただいたときは、もっと小さな団体で、企業連携は初めてに近かったんです。NPOと企業がタッグを組む支援は先駆的で、他の企業に「やれることがあるかもしれない」と考えていただく契機につながったと思います。日本ロレアルにはキャリア支援プログラムの策定にもコミットしていただきました。

楠田:女性のモチベーションをアップすることも必要と考えました。前向きにライフプランやキャリアを考えるきっかけになればと願ったんです。

林:講座は、本当にモチベーションのアップにつながりました。「落ち込んでいる場合じゃない!」「色々やらないと!!」と感じさせてくれたんです。シングルマザーに寄り添う講座でした。

WWD:シングルマザー家庭の支援には、チアアップが必要?

楠田:「どうして一人になっちゃったんだろう?」「何でこんなに大変なの?」「私が悪かったのかな?」など、自分を見失ったり、自信が持てなかったりしているシングルマザーが多いように思えたんです。シングルマザーは、「子ども優先」と思いつめるあまり「自分のことなんて構っちゃいけないんだ。ケアしちゃいけないんだ」と思いがちです。そこを“棚卸し”して、自分を見つめ直し、人生を再設計し、自信を持って前進していただければ。まずはマインドを切り替えられたら、と思ったんです。化粧品会社ならではの「身だしなみ講座」も人気です。日々のスキンケアを楽しむ精神的余裕さえなかったシングルマザーの方には、クリームを顔に置いて肌をマッサージした瞬間「自分の肌に、こんな風に触れたのは何年ぶりだろう?」と涙を流したという体験を話す方もいらっしゃいました。

林:私自身、まずは子どものことで「自分は後回し」でした。でも自分が笑っていないと、子どもも楽しくありませんよね?「未来への扉」は、そんな原点に立ち返る機会でもありました。

赤石:日本ロレアルと連携して、初めて「美の力の強さ」を痛感しました。自分をケアしてキレイになることは、自分自身を持ち上げ、誇りを持って働くことに繋がります。美しくなることで自分をエンパワーし、可能性を広げるんです。

楠田:私たちは「美は、人々の心、生活、そして社会の在り方において、ポジティブなインパクトを与えることができる」と信じています。それを具体的な形で届け、喜び実感していただけて、本当に嬉しく思っています。「美とは、表面を飾ること」という考えは根強いですが、根源的には「自分を慈しむこと」です。自分を慈しむと、社会と関わろうという気持ちになれます。美は、個人の社会性も高めるんです。

林:私も「未来への扉」に参加する前は、すっぴんでした(笑)。自分のことはどうでも良くなっていて、“女らしさ”を忘れていたかもしれません。コロナ禍では仕事がなかなか見つからなくて苦しかったけれど、「未来への扉」に参加して「苦しいのは、自分だけじゃない」「前向きで、明るい人もいるんだ」と思えるようになりました。

赤石:シングルマザー家庭のキャリア支援では、“出口戦略”も重要です。「未来への扉」では、当初から美容部員とアデコのスーパーバイザーなどの“出口”を目指し、選考は皆さん平等だから結果に繋がらない場合もあるけれど、面接のチャンスまで提供してきました。転職や社内の評価アップを経て、お給料が上がった方もいらしゃいます。

WWD:長年シングルマザーを支援してきた皆さんは、「コスメバンクプロジェクト」をどう思いますか?

赤石:フードバンクのように、「このままだと捨てられてしまうものと困っている人のマッチングを、コスメでもやるべきだ」という発想に驚きました。化粧品業界にとっても、大量廃棄は大きな問題なんでしょうね。シングルマザーの支援に携わっていると、食事の回数さえ減らしているから「スキンケアやファンデーションなんて、考えられない」という女性が本当に多いことを感じます。そんな女性がコスメを受け取ったときの喜びは、言い表せません。「あなたを大事にしてほしい」のメッセージが、言葉以上に届きました。「キレイになっていいんだ」「子どもも喜んでくれた」「頑張ろうと思えた」などの声をいただいています。1つ1つ、丁寧にラッピングしていただきました。「あなたに向けて」の思いが感じられ、頭が下がりました。

楠田:ビューティは、「人としての尊厳を取り戻す」にも貢献できると思っています。話を聞いて、「ぜひ」と参画を決めました。この活動は、ビューティ業界全体を巻き込む大きなムーブメントになれる、そう思っています。

林:シングルマザーの一人として、「自分だったら、こんな風に届いたらいいのにな」と考えました。私もギフトをいただき、嬉しくなりました(笑)。事務局には500 以上のLINEが届いています。私は、化粧品の廃棄に想像が全く及んでいなかったので、サステナブルな取り組みに貢献している喜びも感じています。

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