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サイエンスとアートを融合する「ギャラリー・ドゥ・カスガ」が伊勢丹メンズで“ポップアップギャラリー”

 表参道で“サイエンスtoアート”をベースに新たな生活様式“令和モダニズム”を発信する「ギャラリー・ドゥ・カスガ(GALLERY DE KASUGA)」が、2月16日から伊勢丹新宿店メンズ館8階イセタンメンズ レジデンスで3カ月間のポップアップギャラリーをオープンした。オーナーで工学博士の春日秀之hide kasuga 1896代表がキュレーションしたアート作品を展示・販売する。第1弾として、写真家の織作峰子とチェコのアーティストのルドルフ・ブルダをフィーチャー。作品集「光韻」のアート作品を扱う。サステナビリティや循環型社会の実現に向けた取り組みでも注目を集める「ギャラリー・ドゥ・カスガ」と、春日代表、そして、写真家の織作がチャレンジしているミックスメディア作品について知っておきたい前知識をまとめた。

 「ギャラリー・ドゥ・カスガ」を運営するhide kasuga 1896の経営顧問には、元ソニー会長の出井伸之クオンタムリープ会長・ファウンダーや、森美術館の前館長である南條史生・森美術館特別顧問、建築家で東大特別教授の隈研吾といった錚々たるメンバーが名を連ねる。長野県長野市と千葉県市原市と連携協定を結び、三井化学と業務提携。信州大学と早稲田大学と共同研究を行っている。

 そんなhide kasuga 1896を率いる春日代表は1973年、長野県で生まれる。家業は、1896年に長野善光寺界隈に創業した麻問屋から始まり、フッ素樹脂製品を筆頭に自動車用部品や半導体製造装置などの製造・販売を行ってきた老舗企業だ。東京工業大学大学院で資源・環境化学を研究し、大手複合材メーカーに入って素材開発を担当。南フランスに社費留学した際にアート・デザインに造詣が深まり、その後、パリの研究所に駐在しポルシェなどを担当。「環境先進国の欧州で、何を研究するか、だけでなく、何のために生きるのか、何を社会で実現していくのかを突き詰める姿勢や、リベラルアーツへの向き合い方や考え方など、刺激を受けた」という。

 2006年に帰国して家業の日本機材(当時)に参画。2009年にCEOに就任した。NiKKi Fronに社名変更し、タイに工場を新設するなど、改革を図った。

 しかし、「コトを軸とした環境経営に舵を切らなければ生き残れない」と危機感を抱き、2012年に独立したマテリアルシンクタンクとしてhide kasuga 1896を設立。白と黒をイメージした2つの自然循環型ブランド「ブラン・ビジュ・パリ(BLANC BIJOU PARIS)」と「ヒデK1896(HIDE K 1896)」をスタートした。

 「ブラン・ビジュ・パリ」は、蛍石を原材料とした、プラスチックのトップ素材と言われるPTFE(フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン)の白さと滑らかな触感を表現したブランド。パリを発信拠点に、アートやテーブルウエア、ファインジュエリーなどを展開してブランディングを意識しつつ、2018年には「PTFEマテリアルリサイクル」の技術とスキームを確立して特許も取得している。

 一方、「ヒデK1896」は日本発のカーボンブランドで、春日代表が開発した新素材“ソフトカーボン”を使用し、バッグや小物などのアイテムを三越伊勢丹をメインに卸売りしている。カメラの「ライカ(LEICA)」や自動車の「レクサス(LEXUS)」、ホテルオークラの「ザ・オークラ・トウキョウ(THE OKURA TOKYO)」などとコラボレーションを行っている。軽さと強さで知られるカーボンファイバーは一般的に廃棄されてきたが、熱可塑性(熱を加えるとやわらかくなる)により、軽くて傷や水には強いが、熱をあてることではがしてリサイクル可能にしているのがポイント。インテリアや自動車のシートなどにも用途を広げているところだ。

 「循環型の実現には、川下やマーケットに入り込んで、情報を収集したり、リサイクル・回収を行うことが不可欠だ。メーカーやお客様、クリエイターと直接意見を交わしたり、声を吸い上げられる場が必要だ」として2019年10月に表参道に「ギャラリー・ドゥ・カスガ」を開いた。「ブラン・ビジュ・パリ」や 「ヒデK1896」の製品をはじめ、コラボ商品や、国内外のコンテンポラリーアートを展示・販売。「素材メーカーや製造メーカーの方々に、最終製品を見ていただく場として、自社のブランディングや、サステナブルな取り組みをさらに推進するきかっけにしてもらいたかった」。

 2020年には、サーキュラー・エコノミー・コンソーシアム「グリーン・コンポジット・ヒルズ・バイ・ヒデ・ケイ・1896(Green Composite Hills by hide k 1896)」を組成。長野と東京が連携し、日本の素材・技術・芸術・教育・再生を複合させた、サーキュラーエコノミー構築プロジェクトとして推進。公式パートナーには三井化学と信州大学が参画している。「産学官が共同体となりサーキュラーエコノミーをベースとしたまちづくりを目指すもので、日本の文化や歴史を大事にしながらクリエイティブな革新を生み出す仕組みを構築し日本ならではの生活様式の創出を推進しようとしている」。隈とは環境対応素材を適応させた住宅建築の実証実験を長野市と市原市で開始したところだ。

 昨年11月から開催してきたギャラリー展では、未来のまちや住環境に向けて新素材「コンポジット・テキスタイル」 とデザインを掛け合わせて開発した 「小型EV車」 や 「家具」 などを展示した。隈研吾が描いた未来のまち「green zenkoji」のウォールアートも目を引いた。

 さて、今回の伊勢丹メンズ館でのポップアップギャラリーでは、アートやデザインなどによってサーキュラーギャラリーを体現。南條顧問も今後キュレーターを務めるプロモーションを開催予定だ。初回のゲストアーティストの一人である織作峰子は、世界各国の美しい風景や人物の瞬間を撮り続けてきた写真家で、現在は、大阪芸術大学教授・写真学科学科長も務めている。

 織作が近年力を入れているのは、箔に写真をプリントしたミックスメディアだ。「生まれ故郷の伝統工芸である金箔や銀箔、プラチナ箔をアートによって世界に広めたかった。写真に箔を張り付けてた作品を作っている人はいたけれど、箔に写真をプリントした人はこれまでにいなかった。凸版印刷と共同研究して技術を開発。保存性も高まり、最高の瞬間をとらえた写真が、1000年先まで残せるようになった」と織作。純金箔、純プラチナ箔などの最高の素材を使用し、日本各地の何気ない風景や一瞬の美を収めた作品、最近惹かれて取り組んできた富士山のシリーズなどを紹介する。伝統文化の継承やイノベーションという面でも、サステナビリティを体現した作品と言えそうだ。

■gallery de kasuga 「令和モダニズム」
日程:2月16日~
場所:伊勢丹新宿店 メンズ館8階 イセタンメンズ レジデンス プロモーション
フィーチャリングアーティスト:第1弾・織作峰子、ルドルフ・ブルダ

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