ファッション

イヤホンでアートとファッションを融合、多彩なクリエイターをマーブルミックス EBRU佐藤怜【ネクストリーダー2022】

 音楽とファッション、アートの融合を掲げるイヤホン「イヤーマインド」を展開するエブル(EBRU)は、金沢美術工芸大学の同級生3人組の女性が設立したスタートアップ企業だ。プロダクトのスケール(規模)化を前提に軽やかに、でも志は高く突き進む。代表の佐藤怜氏に話を聞いた。

WWD:起業のきっかけは?

佐藤怜(以下、佐藤):怒りだ。私は高校で美術を学び、文化服装学院に入り1年次を終了して中退。2年浪人して金沢美術工芸大学でアートと工芸の中間にある染織を、留学先のイタリア・ローマにあるファッション専門の大学であるアカデミアコスチューム&モーダ(Accademia Costume & Moda)ではファッションアクセサリーを学びました。つまり私自身はテキスタイルを軸にアート、ファッション、工芸を行き来しながら学んできたものの、日本に帰国して仕事を探してみると、ファッションブランドに行けば「アートがいいのでは?」、工芸に行けば「ファッションがいい?」、テキスタイル企業に行けば「日本よりも海外がいい」と、どこに話を聞きに行ってもとりつくしまもない。業界が分断していて、就職をしようにもどこにも行きようがなかった。一方で共同創業者の田邊(樹美・取締役)と先山(絵梨・取締役)の2人はすでに働いていたものの、産地やものづくりの現場の疲弊に悩んでいた。ならば、起業しかないというのが3人で出した結論だった。

WWD:プロフィールを見ると、全員がクリエイティブ出身。あえてスタートアップのような形で起業せず、デザイン会社という体裁でも良かったのでは?

佐藤:起業前、3人で話して行き着いた結論は、業界の分断で生まれている不健全な文化芸術産業の現状を改革し、文化を愛するユーザーと作り手、双方のウェルネスを実現すること。でもそのためには、プロダクトを作って、しかもスケールさせることが必要だった。ご指摘の通り、私を含め、事業計画なんて作ったこともない3人。ならば、ということで無職状態だった私が、あるアクセレータープログラムに参画して、1年ほど起業準備した。見るもの聞くもの新鮮で新しいことばかりではあったけど、すごく大変だったかと言われればそうでもない。たとえ就職していたにせよ、慣れないことの連続だったはず。参加者のほとんどがビジネス起点の起業家の卵たちで、私のようなアート/工芸出身者は珍しく、でもそれが逆に個性になった。ここで知ったクラウドファンディング型の資金調達で1400万円も集められた。開業資金は銀行からの創業融資の1000万円も元手になっている。起業準備期間には、イタリアの著名なファッションコンテストのITS(=International Talent Support)に応募して、アクセサリー部門のファイナリストに選ばれ、スウォッチ アートワーク賞を受賞した。

WWD:ビジネスの状況は?

佐藤:カスタマイズイヤホン「イヤーマインド」はクラウドファンディングの「マクアケ」で234万円の売り上げになった。製品は自分たちのアート活動名義のユニット「エブル(EbRu)」を含めた6人/組のアーティストとのコラボレーションしており、アートワーク、シェイプ、サウンドタイプのそれぞれからお気に入りの組み合わせを選べるようになっている。現在、機械部分のトラブルで当初の製造メーカーの変更をすることになって受注は止めて、クラファンの受注分も納品をお待ちいただいている状態だ。メーカー変更はめどが付き始めており、夏ごろまでには受注を再開始して、受注分も納品の予定だ。ただ、アートワークのコラボレーターは随時、声をかけさえて頂いている。優れた工芸作家やデザイナー、アーティストはそれこそ、知れば知るほどたくさんいて、そうしたアーティストたちとのコラボレーションが楽しくてしょうがない。

WWD:創業メンバー3人の出会いは?

佐藤:田邊と先山とは大学1年生のときに出会ってすぐに意気投合し、社名のルーツにもなった「EbRu」というユニットを結成した。だからかれこれ10年ほどの付き合いになる。金沢美術工芸大学は当時、比較的自由に学生が出入りして制作できるユニークなところで、学生時代は3人ともずっと作業場の床で寝起きをするほど、ものづくりに打ち込んでいた。大学を卒業後はそれぞれ違う進路になったものの、田邊と先山の2人はシェアハウス兼アトリエを東京に構えて一緒に住み、私もイタリアから帰国後は、そこにジョインした。田邊はパートナーと住むために今は出たけど、私と先山は今もその住居兼アトリエに住んでて、文字通り寝食もずっと一緒。10年の付き合いになるけど、ディスカッションはすることがあっても喧嘩はしたことがない。起業後も、ある程度の役割分担はあるけど、いつも3人で話し合ったり手を動かして決める。工芸がベースの3人だから、口よりも手を動かすことが先にあって、だから喧嘩にならないのかも。これまでも今も、イヤホンの型の原型やパッケージのデザインも、アトリエ兼住居で全部3人で手を動かして作ってきた。

WWD:今後は?

佐藤:エブルの根底にあるのは、いろいろな個性を認め合って、優れたクリエイティブを社会に提供すること。日本には優れた作家や工房がたくさんいて、それを「イヤーマインド」を通じて世界に発信もしたいし、世界にも進出し、イヤホンをキャンバスに世界中の優れたクリエイターやアーティストを紹介したい。


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