ファッション

「バレンシアガ」やKOHHを魅了する造形作家・池内啓人 オタク文化発の“組み合わせ”の手法を語る

 造形作家・池内啓人が「ミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)」内のギャラリー、サイ(SAI)で個展「IKEUCHI HIROTO EXHIBITION」を開催している。池内は、幼少期に見て影響を受けた「機動戦士ガンダム」や「ゾイド(ZOIDS)」といったアニメや映画を軸に、既製品のプラモデルや工業製品のパーツを組み合わせて作り上げるヘッドセットやマスクで知られる気鋭作家だ。彼の生み出す作品の数々は、身の回りのありふれたものを素材として組み合わせることで非日常感を帯び、ノスタルジックでありながら近未来的でもあり、見る者を童心に帰してくれる。

 過去には仏インディペンデントファッション誌「パープル ファッション マガジン(Purple Fashion magazine)」の表紙を飾ったほか、韓国発のアイウエアブランド「ジェントル・モンスター(GENTLE MONSTER)」のアートプロジェクトや、ラッパーKOHHのミュージックビデオ、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)のポップアップにも作品を提供。さらに「バレンシアガ(BALENCIAGA)」が2022年春コレクションのキャンペーンで池内の作品を多数起用するというコラボレーションを実現させた。個展の開催に合わせ、池内にアーティストを志したきっかけや“組み合わせ”の作風に至った経緯などを聞いた。

——幼い頃に、今の作風に通ずる「機動戦士ガンダム」や「ゾイド」に引かれていたのは何が理由だと思いますか?

池内啓人(以下、池内):理由は……分からないですね(笑)。ほかにも「スター・ウォーズ(STAR WARS)」や「ビーストウォーズ」(注:「トランスフォーマー」シリーズの1作目)を観ていたし、純粋にそういったものが多かった時代だからだと思います。中高生時代は普通のオタクで、「涼宮ハルヒ」シリーズを読んだり、「らき☆すた」を観たりしていました。

——中高生の頃から将来的にアーティストになることを思い描いていたのでしょうか?

池内:全くなかったですね。高校時代に勉強ができなかったので進学先について悩んでいたところ、美術の先生に美大を勧められたので多摩美術大学に進学を決めた感じです。

——そのときからすでに光る才能があったということ?

池内:いいえ、美術の授業は勉強しなくてよかったから、ほかの教科と比べて好きだった程度。本当に勉強ができなかったので、美術の成績だけが良く見えたのだと思います(笑)。

——大学進学を機に現在の作風の軸となるプラモデルや模型作りをはじめたとのことですが、きっかけは?

池内:模型作り自体は、高校卒業から大学入学までの暇な時間に始めていたんですが、大学に入ってみると周りの人たちは何かしらの一芸に秀でていたんですよ。その輪に入るには僕も一芸を身に付ける必要があり、その時ハマっていた模型作りを極めることにしたんです。「ガンダム」や戦闘機とか、一般販売してるものは割となんでも作ってましたね。大学の授業では平面のグラフィックなどを作っていたんですけど、そこまで得意ではなくて。そうこうしているうちに卒業制作の時期になり、趣味だった模型を生かしたジオラマを作りました。

——その卒業制作の際に、初めて“組み合わせ”の技法を思い付いたそうですね。

池内:“組み合わせ”に対してひらいたような感覚は特にないですね。模型作りであれば、「ガンダム」が本来持っていない武器を持たせられるし、同人誌をはじめとするオタクの2次創作文化であれば、オリジナルの作者が意図していないことを勝手に創作する引用やサンプリングの手法が一般的にありますから。それに、身の回りにあるものを組み合わせる手法は、造形作家の横山宏さんがやっています。サンプリング的な“組み合わせ”は昔から人類のみんながやってきたことです。

——日常にある物で非日常な作品を生み出していますが、素材の調達やイメージソースは?

池内:「アマゾン」や「ヨドバシカメラ」で購入することがほとんどです。パソコンの基盤が必要であれば自分で解体することもあるし、もらうこともあります。アトリエが物であふれていそうだと思われがちですけど、そうでもないんですよ。約2年ごとに引っ越ししているので、運ぶのがめんどうで全部捨ててますから(笑)。イメージソースは、人に勧められた本や映画、その時に好きなものや時代感など、フィクションとノンフィクションが混ざり合っています。自分から作りたいものがあまり浮かばないので、何かしらの外的要因がないと制作しないですね。過去には「アクロニウム(ACRONYM)」のアパレルがイメージソースだったこともありますし、最近はネットフリックス(NETFLIX)のアニメ「アーケイン(Arcane)」がおもしろかったので、近いうちに影響された作品ができるかもしれません。そのときの感情や好きなものの意思を残しつつ、僕の中でろ過して作品に落とし込んでいます。

——作品を制作する際は、具体的なイメージができ上がってから着手するのか、それとも制作しているうちにイメージが固まっていくのでしょうか?

池内:作っているうちにイメージが固まっていくことが多いです。でもその通りになることはほとんどなくて、僕自身どうやって作っているか分からないうちに気付いたら完成しています。自分から「あんなものを作りたい」というゴールもあまりなくて、何かに影響を受けたら取り掛かりますね。

——ヘッドセットやフェイスマスクを例に作品の多くが左右対称で、ロジカルなアプローチで作り上げていると感じます。

池内:スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick、左右対称の構図を好む映像作家)の作品は大好きですね。左右対称の作品が多いのは、僕が人の感情や神秘性、印象的なものを全く信じていないからかもしれません。それよりも数学的なものを信頼していて、「非対称だからこそ作品に神秘的なものが宿る」的なことはないと思っています。そういえば、今回の展示で作品を設置していた際、ギャラリーの方にどれにもサインが入っていないことを驚かれました。僕はそういうものに意味があるとは考えていないので入れておらず、そもそもサイン自体ありません。

 普段から人間の主体性が好きじゃないんですよね。思い返してみると、僕らの世代のゲームやアニメのオタク文化って、今と比べて主人公の顔や主体性がないことが多かったんです。それで育ってきたから自分が主体になるのが得意ではなく、無理やりこじつけると顔を隠すフェイスマスクの制作にもつながっているのかもしれません。

——無機質な作風からどことなく電子音楽が好きなのかなと思いましたが?

池内:おそらくそう感じたのは、作品に人間の意図や主体性があまりないからかもしれません。普段は友人に勧められたアーティストを聴くことが多いですね。最近は「アイドルマスター シャイニーカラーズ」をプレイしているのでその楽曲をずっと聴いていて、落ち込んでいる時は環境音を聴きます。

——「文化庁メディア芸術祭」で優秀賞を受賞したことから広く名が知られるようになりましたが、これがアーティストの道を歩むきっかけですか?

池内:どうなんでしょう……仕事がもらえるかなとは思いましたけど、ひと段落したらこの世界から離れようと考えていたんです。周りにずっと流されるまま、今ここにいる感じです(笑)。

——以前にはラッパーKOHHのミュージックビデオや、エイサップ・ロッキーのポップアップに作品を提供していましたね。

池内:KOHHさんは、現在マネジメントを務める深水くららが元KOHHチームで、僕の作品を知っていたことから「 I Want a Billion」のMVでヘッドセットなどを提供することになりました。また、これがきっかけでラストアルバム「worst」のアートワークも担当しています。エイサップ・ロッキーのポップアップで作品が使用されたのも彼女のおかげで、エイサップ本人も気に入ってくれたみたいです。

——今回の展示「IKEUCHI HIROTO EXHIBITION」では、まず初めに「バレンシアガ」2022年春コレクションのキャンペーンで目を引いた外骨格型スーツが設置されていますね。

池内:ロボット製造業者スケルトニクス(Skeletonics)とのコラボレーションで制作したものです。「バレンシアガ」との協業は、マネージャーに「『バレンシアガ』って知ってる?」って言われて、「名前は知ってます。スニーカーがカッコいいですよね」って答えたらチームアップが決まっていました。オタクはファッションに疎いですから(笑)。キャンペーンでは外骨格型スーツのほかにヘッドセットとフェイスマスクも登場しています。

——「バレンシアガ」のキャンペーンに登場していた作品や「ジェントル・モンスター」と制作したものも含め、ヘッドセットとフェイスマスクは10点展示しています。

池内:どれもVRゴーグルやシュノーケリングマスクなどベースとなるものがあって、それに「ガンプラ」や「ゾイド」などを装飾として組み合わせています。そして、既製品が持つ機能性を損なわないことをモットーに制作しているため、原理的には全て実際に使用することができます。「ジェントル・モンスター」との作品はかなり昔にアートピースを作る企画のために制作したのですが、もともと交流のあったアーティストが同ブランドに入社したことがきっかけですね。後頭部には、増槽(兵器外部に取り付けられる追加の燃料タンクのこと)を模してソニー(SONY)のウォークマンを挿しています。

——今後、文明の発展と共にプロダクトはますますスマート化していき、池内さんが得意とするアナログの雰囲気を持つ素材は少なくなることが予想されます。

池内:そうですね。iPhoneやVRゴーグルのように、どれも時代を追うごとにアップデートしスマート化・小型化していくでしょう。ただ、必ず初期段階のものは大きかったりゴツかったりするんですよ。それにiPhoneなら少し前のモデルというだけで古さを感じますよね。だからあまり気にしていないです(笑)。

■IKEUCHI HIROTO EXHIBITION
会期:〜1月30日
時間:11:00〜20:00
場所:SAI
住所:東京都渋谷区神宮前6-20-10 MIYASHITA PARK 3階
料金:無料

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