ファッション

ユナイテッドアローズ「駅ナカ撤退」の背景 出店から10年で幕

 ユナイテッドアローズ(UA)は、駅ナカ業態「ザ ステーションストア ユナイテッドアローズ」の全店舗の営業をきょう30日で終了する。2011年11月に表参道駅に1号店を開いた同業態は、約10年で姿を消すことなる。駅ナカの立地はコロナによる鉄道利用者の減少によって客数の減少に直面する。逆風は同社だけにとどまらない。

 「ザ ステーションストア」は1月10日に天神地下街店(福岡)、23日に大手町店(東京)とアトレ川崎店(神奈川)が閉店し、都内に残るエチカ表参道店、エチカフィット銀座店、エチカフィット東京店、エキュート品川店も30日で閉まる。

 同社は昨年11月、中期経営計画(最終年度23年3月期)の一環として、不採算店舗を見極めて連結店舗数の1割程度を退店すると発表していた。駅ナカ業態もその一環として撤退を決めた。21年には「ユナイテッドアローズ」業態の銀座店と青山店(ウィメンズストア)も閉めている。

10年前の駅ナカ出店ラッシュ

 今から10年ほど前、ファッション企業による駅ナカへの出店ラッシュがあった。

 鉄道会社による駅ナカ商業施設の開発が増えたことが背景にある。05年にJR東日本が大宮駅と品川駅の構内に設けた商業施設「エキュート」が大成功を収め、その後ターミナル駅での開業や増床が相次いだ。ルミネやアトレなどの駅ビルとは異なり、改札内を含めた駅構内を商業施設に改装する動きだ。東京メトロも商業施設「エチカ」を05年11月に表参道駅、09年3月に池袋駅に開業した。

 当初のテナントは飲食一辺倒だったが、面積拡張に伴い、ファッション企業も出店するようになる。ベーシックな商品を扱う「ユニクロ」「無印良品」だけでなく、ワールド、ポイント(現アダストリア)、パル、クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)、ジュンといった企業が10坪前後の小型店でそれに続いた。中でも高単価な商品を扱う大手セレクトショップが表参道駅構内に1号店(11年11月)を出した「ザ ステーションストア」は、駅ナカブームで最も注目を集めた店舗だった。

 当時のUAの重松理社長(現名誉会長)は「未知のお客さまとの接点を広げるために、あらゆる立地に出していく」と話していた。駅ナカだけでなく、10年7月に成田国際空港と羽田空港に「ジ エアポートストア ユナイテッドアローズ」、11年12月には東名高速道路の海老名サービスエリア(神奈川)に「ザ ハイウェイストア ユナイテッドアローズ」も出店した。駅ナカ、空港、高速道路のサービスエリアといった“トラフィックチャネル”で、路面店やファッションビルとは異なる消費者との接点を広げる試みだった。それぞれの立地に合わせたオリジナル商品や独自のMDを採用した。駅ナカでは移動する人たちの目にとまるようなキャッチーさなど、滞在型のファッションビルとは異なる店づくりを行った。

 もともとUAは90年代後半に他のセレクトショップに先駆けて駅ビルに出店したり、ネットで服が売れるのか疑問視されていた時代にゾゾタウンに出店したりするなど、新規チャネル(販路)の開拓に積極的な会社だった。駅ナカ業態では「コンビニをUAらしく、かっこよく作るか」に知恵を絞った。女性客を想定し、雑貨やアクセサリーをメインにしながら、アパレルもそろえて試着室も完備し、UAのエッセンスを凝縮したような店舗を作った。

小売業は人の移動で成り立つ

 駅ナカ立地の強みは圧倒的なトラフィック(通行量)だ。かつて東京メトロの池袋駅の改札前に店舗を構えていたファッション企業の担当者は「1日に店舗の前を4万人以上が通り、2千数百人が10数坪の小さな店に入店する。こんな立地は他にない」と話していた。家賃は高いものの、MDが的中すれば高効率で売れる店舗になる。

 だが、新型コロナウィルスの感染拡大によって状況が変わった。UAが3店舗を構えていた東京メトロの1日当たりの輸送人員は、コロナ前の19年4〜9月が783万人だったのに対し、21年4〜9月は504万人に減った。強みだったオフィスで働く女性に向けたMDも、リモートワークの普及で苦戦を強いられる。

 小売業は人の移動で成り立つ。通勤、通学、出張、旅行、冠婚葬祭。人が移動するから、需要が発生する。コロナで移動が制限され、自宅周辺が生活の中心になる新常態は、スーパーマーケットを除くほとんどのリアル店舗にとって逆風になる。駅ナカに立地し、オフィスで働く女性を主な対象とする「ザ ステーションストア」のダメージは大きかった。

 ワールドはファッション雑貨「イッツデモ」で都心ターミナルの駅ナカへの出店を積極的に行なっていたが、最近は郊外のベッドタウンの駅ナカや駅前など生活圏に出店立地をシフトしている。

人目にふれる広告効果はSNSに移行

 鉄道系の商業デベロッパーの関係者は、UAに限らず衣料品や服飾雑貨は厳しいと見る。「たとえ物販で儲からなくても、広告効果と割り切って出店していたテナントの見直しが増えるだろう。ファッション市場全体が苦戦する中、駅ナカの高い家賃が重荷になっている」

 UAの21年4〜9月期連結業績は、売上高が前年同期比5.3%減の504億円、営業損益が26億円の赤字(前年同期は68億円の赤字)だった。アパレル市場の回復が遅れる中で、不採算店や低収益店の整理に手を付けざるを得なくなった。

 「未知のお客さまとの接点」として、駅を利用する大勢の人々にブランドを知ってもらい、品ぞろえが充実した既存店に足を運んでもらう――。10年ほど前はそんな広告効果も駅ナカ業態の役割の一つだった。だが、現在はSNSなどデジタルマーケティングがそれを代替するようになっている。

 UAは高速道路のサービスエリアに2店舗あった「ザ ハイウェイストア」を15年2月に閉鎖。さらにコロナ禍による空港利用者の激減を受けて、「ジ エアポートストア」の成田空港店を21年1月に、羽田空港店を同2月にそれぞれ退店した。コロナの終息が見えず、人の移動の制限が続く中、トラフィックチャネルは厳しい状況に置かれている。

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