ファッション

創造性爆発のロンドンコレ2022年春夏前半 「LVMHプライズ」受賞の新人も登場

 2022年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウイーク(以下、LFW)が9月17〜21日に開催された。公式スケジュールに105人のデザイナーが参加し、うち52ブランドがリアルのショーやプレゼンテーション、もしくはアポイントメント制の展示会を開催した。リアルのイベントが復活したことと、イギリス渡航の規制緩和により、パリ在住の筆者がLFWの取材を行った。リポート前半では1、2日目に参加したリアルのショーの中から、印象に残ったコレクションと現地の様子をダイジェストで振り返る。LFW前にニューヨークで開催されたファッション・ウイークがリアルクローズ中心だったのに対し、ロンドンは創造性に富んだコレクションが多かった。

「エドワード クラッチリー」は貴族のレイブ

 初日に音楽ホールの地下でショーを行った「エドワード クラッチリー(EDWARD CRUTCHLEY)」。レーザー光線と音楽を使ってレイブパーティーさながらの演出で登場したのは、18世紀の女性貴族のように華やかなドレスをまとった男性モデル。デザイナーのクラッチリーは今季、イギリスで1720年代から発展したクィア文化の歴史と、クィアコミュニティーの今日までの自由への戦いを表現したようだ。黒と金の豪華なブローケードと、ルレックスのきらびやかな生地を使った、ナイトアウト向けのルックも豊富だった。ギャザーのディテールやキックフレアのパンツ、誇張させたボンバージャケットなど、ボリュームで遊ぶ手法は今季も多く見られた。「ディオール(DIOR)」メンズウエアのテキスタイル・ディレクターを務めるほど、生地の知識と経験が豊富な彼は、持続可能なテキスタイルの開発にも情熱を注いでいる。コレクションノートには全ての生地の製造業者や、原料となるウールの農場まで追跡して説明書きを添えており、生地開発への熱量が十分に伝わってきた。

「リクソー」はハッピーな南国トリップ

 2015年設立の「リクソー(RIXO)」は、植物園内でプレゼンテーションを行った。1970年代のビンテージから影響を受けたシルエットに、カラフルなハンドプリントのドレスがシグネチャーで、現在約150アカウントの小売店を卸先に持つ。今季のコレクションを“ボン・ヴォヤージュ(Bon Voyage)”と名付け、旅をテーマにした。園内を進んでいくと、海やパラソル、トロピカルフルーツ、マラカスを持って踊るダンサーのオリジナルプリントを描いた、ロング丈のドレスをまとったモデルが草木と花々に囲まれてルックを披露した。ヒトデや貝殻モチーフのアクセサリーも相まって、温室の園内は南国にトリップしたかのような開放感で、早くも来年の夏が待ち遠しくなった。

話題の新人「ネンシ ドジョカ」

 2021年度の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」でグランプリを受賞した「ネンシ ドジョカ(NENSI DOJAKA)」が初の単独ショーを開催。デザイナーのネンシ・ドジョカはアルバニア共和国にルーツを持つ、イギリス育ちの27歳。セント・マーチン美術大学(Central Saint Martins)でウィメンズ・デザインの修士号とロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)でランジェリー・テクノロジーの学位を取得した後、20年にブランドを始動。立ち上げから2シーズン目ですでに28アカウントに卸している。

 ランジェリーから着想を得たドレスは、上品な透け感と巧みに計算された構造で、女性の体を賛美しているようだ。スパゲッティストラップのブラトップを軸に、シルクやチュール、オーガンジー、繊細なウールなどさまざまな生地がドレープし、官能性に深みが増していく。手作業で描いたチュールの花のモチーフは、大人の女性の中に宿る少女性を表現しているようだ。

 ランジェリーは肌に直接触れる繊細なアイテムであり、洋服の下でもオシャレを楽しむというパーソナルな側面もある。「ネンシ ドジョカ」のドレスは女性が女性であることを喜び、自分のためにドレスアップをして気分を高揚させるといった、心に直接作用するランジェリーのパワーがあった。それは他者を誘惑するための官能性というよりも、女性が自身の心を潤わせるための官能性をドジョカは表現しようとしているのではないだろうか。時代が違えば同性(特にフェミニスト)から批判されかねない服かもしれないが、女性が性に対してますますオープンになり、フェムテック市場が拡大する昨今の潮流に乗っている。ステイホーム期間にノーランジェリーで過ごした多くの女性にとって、パンデミックの良い解毒剤となってくれそうだ。ランンジェリーと女性の関係は奥が深いため、男性と女性とではコレクションに対する見方は大きく異なるのではないだろうか。

怒れる「ユハン ワン」

 昨今のイギリスでは女性が犯罪に巻き込まれるケースが多発しており、深刻な社会問題となっている。その大きなきっかけは、今年3月にロンドン市内に住む33歳の女性が殺害されたショッキングな事件だった。逮捕されたのが警察官ということもあって国全体に動揺が広がり、政府は性犯罪や家庭内暴力といった女性を対象した犯罪の厳罰化を検討している。

 中国出身でロンドンを拠点にする、女性デザイナーの「ユハン ワン(YUHAN WANG)」は、多くの女性が感じている激しい憤りをコレクションで表現しているようだった。3月の事件を受けて、ある議員が1日のうちに殺害された118人の女性の名前を読み上げていたのを聞き「悲しみと怒りが込み上げた」とワンは語る。「女性が犠牲になることを、ありふれた出来事のように受け止めてしまっている。21世紀は、女性は弱い立場にあると感じたり、恐れながら生きるべきではない」。

 同ブランドはフリルやチュールを使ったガーリーなスタイルが基本だが、“か弱さ”とは無縁である。ヴィクトリア朝時代の西洋の服に着想して、レースやジャガード、シルクの生地に花柄プリントや刺しゅうを施し、かわいらしいムードを漂わせる。彼女のデザインの特徴である生地のドレープが、柔らかくロマンティックな雰囲気をさらに強調した。しかし最も目についたのは、銃器の形をしたバッグや弾帯、フォーレザーのコルセット。儚げで女の子らしいスタイルを一気に、鎧のような武装へと変えるには十分だった。

 コレクションを通して、デザイナーは私たちにメッセージを投げかけてくる。今季の「ユハン ワン」は間違いなく、女性に対する暴力への抗議だ。明日、自分が被害者になっても不思議ではないと考えると、外に出るのも恐ろしくなる。こんな社会にせめてもの救いがあるとすれば、ファッションの中では怒りや恐れ、強さを自由に表現でき、女性の気持ちをくみ取ってくれるデザイナーが存在することだろう。

ロンドンコレにはさまざまな変化が

 筆者にとってLFWの取材は1年半ぶりとなる。パンデミックとブレグジットが起きたこの期間に、LFWにはさまざまな変化があった。経済難を抱えていた主催元の英国ファッション協議会(British Fashion Council)は、オーストラリアの後払い決済サービス「クリアペイ(Clearpay)」を主要パートナーとして迎え、中国のIT企業や日本の楽天と契約を結んでLFW開催の支援を受けている。以前から取り組んでいたデジタルの強化と一般にも開かれた戦略は、パンデミックによってさらに前進。参加デザイナーのインタビューや動画、ポッドキャストとティックトックでの配信のほか、バイヤーと一般客が利用可能なオンラインショールームを立ち上げた。

 現地で見たリアルな変化といえば、メイン会場が場所を移動して小規模な会場となり、スナックや軽食などの提供がなくなったこと。各会場の来場者が少なかったのは、パンデミックが終息していないことも理由にあるが、約100万人以上の移民がイギリスを去ったというブレグジットも影響しているだろう。

 イギリスではマスク着用義務やコロナパスの施行はないものの、LFWの各会場の入り口ではワクチン接種済みもしくは48時間以内の陰性結果の提示が求められた。ロンドンではナイトライフも復活していて、LFW中も毎晩パーティーが催され、閉め切った室内で人々が密集していたようだ。コレクションサーキットは始まったばかりのため、体力温存と感染対策のために筆者はパーティーには足を運ばなかった。来シーズン以降、社会的にも衛生的にも状況が改善され、より安心して参加できることを期待したい。

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