ファッション
連載 You’d Better Be Handsome

まだ、あなたが知らないニューヨーク最新トレンド 参加型デジタル・リセール市場がファストファッションを抜く?

Online Resale Market Sees a Big Jump During Covid

 ニューヨークのファッション業界で活躍するクリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載、第19回。“You’d Better Be Handsome”では、セレブ情報に敏感なレイチェル(Rachel)も加わって、ニューヨークのトレンドや新常識について毎回トーク。18歳以上のワクチン接種者が70%(ファイザーまたはモデルナのワクチンの場合、2回目を打って2週間経ったら正式に”ワクチン接種完了者、Fully Vaccinated”のスタンスになれるが、この数字には1回だけの接種者も含まれている)を超えたニューヨークは、街に人が戻ってきた!と実感する日々。6月15日には花火まで上がって、これからは社交場の制限、収容人数の制限、追跡のための接触記録といったガイダンスや、ジムやレストラン、娯楽施設での人数制限は任意となることに。今回は近々ファストファッションを抜くと言われているリセール市場についてトーク。

メイ:今朝オフィスの下のスターバックスに寄ったら何かがいつもと違う感じがして。なんでかな?と思ったら、久しぶりにカフェの中に座っている客が何人かいたからだった。

スティービー:確かに去年の3月からずっとテイクアウトのみだったから。オーダーも外で、受け取るのも外で、という期間も長かったしね。

レイチェル:スターバックスのドアには、「ワクチン接種完了者は店内でのマスク着用は不要」と張り出されている。

メイ:レストランも夜遅くまで営業ができるようになって、結構賑わっているのでは?

スティービー:突然、「外ではマスクしなくてもいい」と5月に言われ、さらに「スーパーの中でもしなくてもいい」と言われても、もう少しゆっくり戻してもいいのでは?という気がするけど、この展開の早さがアメリカ的。

レイチェル:6月15日には、ワクチンを少なくとも1回は受けた大人が70%を超えたことで、突然クオモ知事が解禁宣言もしたし。花火まで上がって、なんだかみんなお祭り気分。

メイ:久々に外食するからか、外食ってお金かかるなーって改めて感じる今日この頃。でも自分では絶対に作らない手の込んだお料理とかカクテルとか、人にサービスしてもらえるオプションがあるってありがたい。

スティービー:実際に外食の値段、ワインの価格、それに生活全般の値段が上がっている。このインフレ、しばらく続くらしい。そんなこと関係なく街は毎晩盛り上がっているけど。レストランも引き続き、外にテーブルを出せるようになったからかもね。

消えていくシェアビジネスのスパーク

メイ:昨年3月、どのビジネスも大打撃を受けたと思うけど、なかでも気の毒だったのはシェアビジネス。オフィスにも行かない日々が続いたし、感染が怖くてウーバー(UBER)にも乗らなかったし。

スティービー:実際に中古車がすごく売れたらしいし、今年になって中古車の値段が益々上がっている。飛行機を避けていた期間が長かったから。自転車だっていまだに手に入るまで数カ月待ちだしね。

レイチェル:コロナ中で、ウーバーに乗る人が極端に減って、ドライバーも減ったし、値段が上がるのは仕方ないと思っていた。でもこんなに街に人が戻ってきても、以前の2〜3倍するからびっくり。

メイ:先日も大雨だったし、オフィスからウーバーで帰宅しようと思ったら48ドル(約5300円)と表示されて諦めて地下鉄で帰った。ちなみにリフト(LYFT)だと驚きの98ドル(約1万800円)だった!以前だったら安いときは15ドル(約1600円)くらい、高いときでも25ドル(約2600円)くらいで帰宅できたのに。マンハッタンからJFK空港まで行くのに250ドル(約2万7500円)かかったという人までいて、気軽にアプリで車を呼ぶのはもうできないかも。

スティービー:ウーバーを始めとするシリコンバレーのスタートアップ系のシェアビジネスは、最初はメンバーを増やすために値段を下げて特典を付けたりと、消費者にとっておいしいスパークが以前はたくさんあった。投資された多額の資金の一部が消費者にまで届いたというか。でもそういう時代はコロナ期間中に清算されて体制が変わった。ウーバーやリフトは、この1年で値段が実際に40%アップしたらしいから。逆に収益は上がってきているらしいけど。

レイチェル:そういうスタートアップ系の会社のサービスを、私たちは「ミレニアル・ライフスタイル援助」と呼んで楽しませていただいたけど、おいしい話は確実に減ってきているのを実感する日々。

スティービー:要するに、アプリさえダウンロードして会員になれば便利なサービスが低価格で受けられた。一時はランドリーサービス、家のクリーンアップ、ドッグウオーキングとか、市場価格より断然安い費用で提供されていた。

メイ:コロナの最初は苦戦していたエアビーアンドビー(AIRBNB)も、家にずっとこもってられない人たちが長期で借りたりして、かなり好調な1年だったはず。昨年12月に株式公開までして、予想以上の値段もついたよね?

レイチェル:エアビーアンドビーもこの1年で平均価格が35%アップしたらしいけど。私もこの春ニューヨーク州北部に泊まりに行ったときに利用したけど、いくら一軒家とはいえホテルのように掃除してくれるわけでもないし、プールが付いているわけでもないのに、高いなーと考えてしまった。特に今ってホテルは安いからね。 

スティービー:シェアビジネスのリーダー格と言えばウィーワーク(WEWORK)だったよね?彼らが2017年に元ロード&テイラーの歴史あるビル(6万1300平米)を購入したときは、僕の周りでも、あそこにオフィスを借りたいという人が結構いた。でも結局去年の3月にアマゾンに売られている。あんなにキラキラ輝いていたのが嘘みたい。展開が早いっていうか。

急成長するオンライン・リセール市場

メイ:シェアビジネスに変わって今株式上場が盛んなのは、何と言ってもオンライン系のリセール企業よね。

スティービー:ハイエンドな服はもちろん、バッグや時計も扱うザ・リアルリアル(THEREALREAL)は2019年6月に上場しているし、コレクターズアイテムで人気のストックエックス(STOCK X)は今年5月に上場したばかり。以前のIPOの話題はシェアビジネスが主だったとしたら、最近はリセール企業に移行している。

メイ:そういえば手作りやビンテージの物販サイト、エッツィ(ETSY)も6月に入ってディポップ(DEPOP)というイギリスのオンラインマーケットプレイスを16億ドル(約1760億円)で買収しているし。というか、デポップって、リセールサイトって言っていいの?

レイチェル:元々は雑誌「ピッグ(PIG)」の読者のためのソーシャルメディアプラットホームがマーケットプレイスへと進化したもの、かな。

スティービー:従来の古着屋や店舗中心の委託販売、そしてオンライン中心のリセール市場を引っくるめて「セカンドハンド市場」とも呼ばれているけど、なかでもリセール市場の規模は2019年に70億ドル(約7700億円)だったのが、21年には330億ドル(約3兆6300億円)、24年にはなんと360億ドル(約3兆9600億円)になると予測されている。セカンドハンド市場全体では、24年には640億ドル(7兆300億円)への成長。さらに29年にはリセールだけで440億ドル(約4兆8350億円)へと成長、 ファストファッション市場の430億ドル(約4兆7250億円)を抜くと推測されている。

メイ:ビックリ!新しく作らなくも、世の中(みんなのクロゼット)の中には、たくさんの物であふれているってこと?すでにあるものをシステム化していくのってアメリカ人が得意とするところだし。

レイチェル:昔からローカルレベルでは、バッファロー エクスチェンジ(BUFFALO EXCHANGE)やビーコンズクロゼット(BEACON’S CLOSET)、そして数多くのチャリティショップなんかがあるけど、欲しいものを探すにはかなり頑張らないといけなかったから、オンラインで検索できたら断然ラクよね。

スティービー:09年に創業し、20年には1億8600万ドル(約200億円)の売り上げを記録したスレッドアップ(THREDUP)も、今年3月に上場している。スレッドアップのウェブ上に興味深いレポートがいろいろアップされているんだけど、去年の3月からステイホームになって店舗が閉まってしまったときもオンラインのリセールはぐんぐん伸びている。

メイ:実際に自分にはもう必要なくなったけど、ごみにするにはもったいないようなものを他の誰かが買ってくれるってありがたいこと。ものによっては、かなり儲けている人もいるんじゃない?

スティービー:スニーカーとかは、正規で買うと100ドル(約1万1000円)くらいなのに、それをリセール市場に出すと人気のものだと何倍にもなったり。「ディオール(DIOR)」と“エアジョーダン”のコラボスニーカーとかは現在1万73ドル(約111万7000円)で取引されている。ストックXだと、本物の株のようにそのときの人気に合わせて値段が変動するのがおもしろい。

メイ:私も家にいる時間が非常に長かった去年の夏くらいから、もう着ないような服やバッグ、ジュエリーまでザ・リアルリアルに売って、結構なお小遣いになったよ。フェイスタイムで売りたいものを見せたら、大体の値段を教えてくれるというシステム。途中からそれも面倒になったので、とりあえず一気にピックアップしに来てもらっていたけど、ショップに持ち込んでその場で鑑定もしてくれるし。

レイチェル:私の友人の話だけど、彼女のお母様が亡くなって、大事な品を選んだ後、引き取り手が見つからなかった残りの品々を、ポッシュマーク(POSHMARK)のアプリで売ったらしい。出品がなにしろ手軽にできるらしいから。アイテムがたくさんあるときは本当に便利みたい。この1年は引っ越しした人たちも多かったし。そういうときって要らないものがいっぱい出てくるよね。

スティービー:ポッシュマーク、一時はニューヨークの地下鉄内でもけっこう広告を打っていたよね?米国、カナダ、オーストラリアに7000万人を超えるメンバーがいて、2億点のアイテムが売り買いされているという。どれくらい大きな倉庫があるのかが想像できない。

メイ:ポッシュマークも今年1月に株式上場している。初日の株価が初値から140%伸びてて盛り上がっていた。従来の小売りのスタイルが小売り側からの一方的な提案だとしたら、ポッシュマークやディポップ、そしてスレッドアップも、ただ買い物をするというよりはコミュニティー内でのやり取りを楽しむ、相互的なコミュニケーションを生み出している。ソーシャルメディアと小売りのいいとこ取り、みたいな?

レイチェル:最近は、ソーシャルメディアのスナップチャット(SNAPCHAT)と組んで、「ポッシュマークミニ」というスナップチャット上で開催する“ソーシャルショッピング”というのがミレニアルやZ世代では流行っているらしい。 

メイ:友達と買い物に一緒に行く、みたいな感じかな?最近バーニーズ(BARNEYS NEW YORK)もないし、オープニング セレモニー(OPENING CEREMONY)もないし、次々とリテールが消えていくなかで、そういう場がなくなっていっているのは確か。最後に友達とショッピングに行ったのがすごい昔になってしまった。

サステイナビリテをアピール

スティービー:とはいえ、人が着たものを着るということや、ファッション業界人として新しいものを買わないことに抵抗がある人も多いのでは?ファッション業界で稼いでいるものとしては、自分も積極的にファッションを買うことでファッション業界をサポートしているつもりではあるけど。

メイ:確かに新品というか、シーズンものを全く追わない人ばかりになったら、ファッション界はどうしたらいいやら。ただ、シーズンが過ぎたからと言って商品を捨てたり、焼いたりするのは環境のことはもちろん、不必要な慣習でもあるから、最初から作り過ぎないことが大事だけど、そうは言ってもモノって増えるし。

レイチェル: そもそもミレニアルやZ世代は、モノがあふれている中で育って、そこまでモノを必要としていない。気になるスタイルやインフルエンサーはいて、そういう格好をしたいのだけど、だからと言ってこのブランドじゃないとダメっていうのはスニーカーくらい。生活費も学費も高いし、服代は節約したいところじゃないかな。

メイ:スレッドアップのウェブにも書かれていたけど、コロナによるロックダウンがリセール市場に拍車を掛けたってことらしい。コロナ期間中に、50%の人がコロナ前よりもクローゼットを整理したという結果も。

レイチェル:私も数日かけてかなり減らした記憶が。家にいる時間が長かったから、家を心地良くしたいという気持ちも手伝って。そういう人が多かったというのはわかる。

スティービー:これもスレッドアップのレポートだけど、24歳以下のZ世代がリセール市場への参加率が最も増えている。彼らの80%が古着を買うことにためらいはなく、90%が節約するために古着を買うと答えている。

メイ:このリセール市場の急成長の背景には、ネットフリックス(NETFLIX)シリーズでも人気のコンマリこと近藤麻里恵の存在が大きいよね?アメリカって大都会以外は、家も大きいし、捨てなくてもなんとかなるからもう着ない服とかが貯まっている人がたくさんいるとは予想がつく。誰かが着てくれると思ったら、自分がときめかなくなった服にさよならしやすくなるはず。

スティービー:コレクターではない限り、いらなくなったものを売って、必要なものを買う。ヘルシーな循環と言える。その行為そのものが新しいソーシャルアクティビティーなのかもね。昔自分たちでフリマに出店したこととかを思い出すな。お金というよりは、みんなで集まって自分のお気に入りとかを売ったり、交換したり、その行為そのものが楽しかった。

メイ:教会のチャリティーや学校への寄付のためのオークションとか。そもそもリサイクルするということは本来、アメリカの文化に根付いていたことかもしれない。

レイチェル:そういえば最近、ブルックリンの近所を歩いていて、いらなくなった服がポーチ(玄関先)に置かれているのを見かけなくなったような気がする。以前は新品同然の靴とか、悪くないTシャツとか、味の出た「バブアー(BARBOUR)」のコートまで、誰かもらってくださいと言わんばかりにものが置かれてたんだけどね。ポーチに置かずに、ポッシュマークとかに出品しているのかもね?

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