ビューティ
連載 “副業・複業”を解禁せよ!

三崎を拠点に複業する編集者ミネシンゴの働き方 夢は「髪型で町を変えること」

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 「WWDJAPAN」5月17日号では「複業を解禁せよ! 多様な働き方」特集を行った。本業(正社員)を続けながら行うサイドジョブを「副業」と呼ぶのに対し、「複業」は自分の能力を生かしてマルチに働くことを指す。特集ではファッション&ビューティ業界でマルチに働く”複業人”を取材。これからの時代、ますます注目されるであろう複業にクローズアップする。

 神奈川県の三崎港からすぐそばの商店街で、夫婦2人で出版社のアタシ社を営む編集者ミネシンゴさん。出版業はもちろん、蔵書室・カフェ「本と屯(たむろ)」や「花暮(はなぐれ)美容室」の運営、シェアオフィス「TEHAKU(テーハク)・BOKO(ボコー)」を手がけるなど、三崎を拠点にその仕事は多岐にわたる。美容師としてキャリアをスタートし、「髪型が変われば、街の印象まで変わるはず」と話すミネさんに自身のキャリアと今後の展望を聞いた。

WWD:まずは経歴を教えてください。

ミネシンゴ(以下、ミネ):美容学校を卒業後、神奈川県・相模原と東京・青山の美容室で約1年ずつアシスタントとして働きましたが、ヘルニアになってしまい離れることに。ただ美容業界にずっといたいという思いは強く、美容出版社・髪書房に入社して美容業界誌「Ocappa」編集部に入りました。そこでいろいろな美容師さんに出会う中で、また美容師をやりたくなって。腰も治ったので、25歳のときに鎌倉で再びアシスタントに。2年ほどしてまた腰の調子が悪くなって、突然の父の他界や東日本大震災も重なり、改めて違う道に進もうとリクルートに就職しました。ホットペッパービューティの企画と営業を3年半やりました。そして、20代最後に自分で雑誌を作ろうと思い立ち、リクルートに所属しながら美容文藝誌「髪とアタシ」を創刊しました。

WWD:いわば副業的な立ち上げだったと思うが、大変だったことは?

ミネ:実はあまり大変ではなく、リクルート自体が副業に寛容でした。上司に話したら、「営業マンがこんな雑誌を作ったから読んだほうがいいぞ」って、まとまった数を買って配ってくれたぐらい。お金儲けだけではなく、自分がやりたいことで、かつ社会のためにもなりそうと思ってくれたんだと思います。

WWD:その後、出版社・アタシ社を立ち上げた。

ミネ:創刊後面白くなって、フリーランスになるのか、リクルートに残るのか考えましたが、妻がフリーランスのデザイナーとして独立していたので、一緒に出版社をやったら面白いかもと30歳の時にアタシ社を立ち上げました。当初は逗子にいたのですが在庫などで手狭になってしまい、もう少しコストパフォーマンスが良く、東京にも通える場所と言うことで三崎にきました。最初からお店をやろうとは考えていなくて、ただ物件に一目惚れして引っ越してきました。アタシ社がスタートして3年目。本を作って世の中に流通させることはもちろん、蔵書室でありカフェ「本と屯」と「花暮美容室」の運営、最近は泊まれる仕事場「TEHAKU」と「BOKO」というシェアオフィスも手がけています。そのほか、三崎の魅力を発信したり、美容学校での講義やクライアントワークも行ったりしています。

WWD:独立のきっかけになった「髪とアタシ」はどんな雑誌?

ミネ:美容学生だった頃も、自分が編集者として携わっていた頃も、美容業界誌は登場人物や企画が似たようなものが多く、モヤモヤしていました。東京至上主義で、デザインやトレンド、売り上げが中心でどれも似ている印象。それがあまり面白くなくて、自分が雑誌を作るならば絶対そうはしないぞと。だからタイトルも漢字にしようとか、美容と文芸って距離のあるものをあえてくっつけようとか、ビジュアルブックではなく縦組みの文字ばかりの誌面にしようと考えていました。名も無い面白い美容師さんの存在と、髪の毛が持つ魅力と可能性を伝えたい。今はあまりにも不定期な発行で2年とか3年に一回になっていますが、社名もそこから取っています。

美容師は街の中で死なれちゃ困る人の一人

WWD:昨年は「本と屯」の2階に美容室「花暮美容室」をオープンした。

ミネ:出版社の拠点の2階が美容室という構造は、世の中にないと思って。物件は色々探しましたが、一箇所でできたら個性になると思いました。美容学生の頃から、ずっと自分のお店を持ちたいという夢があったけれど、僕は技術があまりできないから素晴らしい人がいれば一緒にやりたいなと。たまたま逗子にいた時に知り合った美容師が、「髪とアタシ」の読者だった菅沼政斗くんでした。東京・表参道の「ダダ キュービック(DaDa CuBiC)」で10年間働いた経験がありながら、当時から真鶴で出張美容師をやっていて、ローカルにも興味があると言っていた。一緒にやるなら、彼がいいと思いました。

WWD:どのようなお客さまが多い?

ミネ:最初は近所とか商店街の知り合いが中心でした。次第に「本と屯」のお客さまに認知してもらって口コミや、ドラマのロケ地になったり、PVやMVの撮影があったり同時多発的に広がっていきました。半年ほどで朝から晩まで忙しくなりました。“旅するついでに髪を切る”というコンセプトを掲げていますが、今のところ飛び込みのお客さまは3人ほど(笑)。でも遠出して、港の近くで髪を切って、ご飯食べて、コーヒー飲んで帰るお客さまが多いんです。そういった意味で美容室が観光の一つになっている気がします。うちのサロンは“人の家に遊びに来た”みたいな感覚で、お客さまとの距離感もとても近いです。

WWD:ローカルで美容室をやることに手応えはある?

ミネ:僕はオーナーでもありアシスタント(笑)。この形を色々な町に作りたいと思っています。次は菅沼くんが出張している真鶴に作りたいですね。関わりができたところにお店を出して、一緒にできる人がいればその人にお店を任せたい。でも資金はこちらが出すとか、コミュニティは作るとか、一緒に楽しく独立できたらいいな。人を雇うことがリスクだから、一人サロンでビジネスが回るようにシーンを作れればいい。同じエリアにお客さまやスタッフを増やして出店するとか、全国チェーンではなく、土地に根ざして、ミニマムに、無理なく出店する店舗展開は今までなかったと思います。僕にはすごく尊敬している美容師さんがいます。90歳すぎても現役で、技術は早いし、シャンプーもする。その町で“死なれちゃ困る”っていう人の一人。美容師ってそういう人になれるんです。

WWD:ミネさんが考える新しい美容室の形とは?

ミネ:美容室には街の情報がたくさん集まってくるけれど、町に対して何かをしている美容室ってあまりない。売り上げ至上主義になるとお店の中で完結してしまって、美容師として拡張されない気がします。映画とかファッションが好きで、インプットは多いけれどアウトプットがない。菅沼くんには今執筆の依頼も来ていて、とてもいいことだと思います。美容師としての幅が広がりますよね。カリスマ美容師を目指して一直線に技術を磨くのもアリだけれど、そもそも同じ土俵にいないわけだから横に移動しながら違うやり方で対等になれる方法を見つけたらいい。一度ファッションやトレンド、デザインから離れて、自分の町に目をむけてみたらどうでしょう。例えば親子カットのレッスンするとか、町の高校生をめちゃめちゃ可愛くしてビフォーアフター企画をするとか。僕の場合は体を壊したがゆえに横移動するしかなかったけれど、そういう複業的なことをしてみると可能性が広がりますよね。

WWD:今後の展望を教えてください。

ミネ: 3年ほど住んで三崎に愛着が湧いてきたので、毎年三崎にまつわる本を作ったり。20〜30代のクリエイティブをしている人たちが集まれる仕事場も作りましたし、その2号店もスタートしたところ。若い人が集える場所も作りたいですね。あとは、いくつかの拠点でひとりサロンという新しいカルチャーを作りたいですね。一言で言えば地域を明るく元気に。町に溶け込むような企画は美容室にもぴったりですよ。今、商店街でやっていてすごく楽しくって。髪の毛に無頓着だった商店のおじさんが、1000円カットではなく、カット料金が6000円の花暮美容室に来てくれます。髪型が変わると町の人たちも変化に気づき始めて。髪型にデザインが入ると、本人も変わるし、店も変わる。しいては髪型を変えることで町の見た目が変わるところまで行き着けるのではないかと思っています。この商店街で働いている人、全員の髪型が派手でカッコよかったらちょっと面白いでしょう?それが僕の一つの大きな夢ですね。


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