ファッション

「ミスター・ジェントルマン」は前に進む オオスミタケシの創造性は愛と共に

 「ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)」は17日、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2021-22年秋冬コレクションを発表した。スケジュール上は映像での発表とアナウンスしていたものの、東コレ公式会場の渋谷ヒカリエには関係者約180人が招待され、リアルショーを生中継するかたちとなった。今年1月に逝去したオオスミタケシさんと、吉井雄一デザイナーの2人が手掛けた最後のコレクションだからか、会場にはどこか張り詰めた空気を感じた。

細部への徹底的なこだわり

 ショー本番まで約2時間となり、モデルたちが真っ白なランウエイを歩くリハーサルがスタートした。歩く位置やスピード、ターンの勢い、視線などに細かい指示が飛ぶ。フィナーレのシーンでは、モデルがずらりと並ぶフォーメーションから、白いバラを持つ手の角度にまで微調整が入る。さらにショー開始のライティングとBGMスタートのタイミング、光の入り方まで、籠谷友近率いるヴィジョンズ アンド パラドックス(VISIONS AND PARADOX)の演出チームが会場内を忙しく駆け回ってベストな状態に仕上げていった。これはきっとオオスミさんの最後のコレクションだからではなく、いつも通りの「ミスター・ジェントルマン」なのだろう。思えば、ここのショーはいつだって完璧に作り込まれていた。セットやBGMなどを含め、見た人をワクワクさせてくれるハッピーなエンターテインメントだった。そんな慌ただしい現場の隅で、吉井デザイナーは静かに見守っていた。オオスミさんの写真を横に置いて。

服に込めた愛と平和への願い

 そしていよいよ本番。ブラックのドレスコードをまとった真っ黒の来場者によって、真っ白のランウエイがいっそう際立った。座席には白いバラが一輪置かれており、開演を待つ間はそれぞれがバラを手に取りながらオオスミさんへの思いを馳せていたのだろう。ショー会場によくある賑やかな談笑ムードは少なく、無言でランウエイを見つめる来場者も多かった。いよいよショーが始まり、40人のモデルたちが続々と登場する。今シーズンのコレクションには、危機や不安に直面している人類に対する愛や平和への願いが込められている。服にのせたのは、“FREE YOUR MIND(心の解放)”“PRACTICE NONVIOLENCE(非暴力の実践)”“LOVE IS LOVE(愛はどんな形であれ愛)”というストレートなメッセージ。複数の編み地にフリンジやポンポンを付けたファンシーなニットや超ロング丈のプリーツシャツ、前後反転したエコファージャケットなど、ベーシックアイテムに違和感のあるディテールを加える手法はいつも以上に強い。それらにレッグカバーやアームカバーなどのパーツウエアを組み合わせてキャッチーさを加えたり、シルエットに強弱を付けたり、パテントとウールの素材感を対比させたりする巧みなバランスのレイヤードでスタイルを構築していく。「ヨシコ クリエーション(YOSHIKO CREATION)」とのアクセサリーや「サキアス(SAKIAS)」とのシューズなど、人気のコラボレーションも継続。そして、サプライズのアイテムも登場した。オオスミデザイナーが「フェノメノン(PHENOMENON)」で使っていた“レモンツリーカモ”と“ブルータイガーカモ”がタイツに差し込まれていたのだ。

 モデルが一斉に登場する圧巻のフィナーレを終え、吉井デザイナーが姿を見せた。感極まった表情で横にいる“大きな天使”を称えると、涙が溢れてきた。いつも通りショーの高揚感でワクワクしていたものの、1人足りないのだと最後の最後で実感したからだ。ただ、決してこれで終わりではない。正直、今夜は“最後のコレクション”として取材するつもりだった。しかし今日の現場の一体感は“最後”という表現よりも、“新しい一歩”という言葉がぴったりだった。もちろん、別れはとても悲しいし、無理やり前向きになろうとしているわけではない。でもオオスミさんが残した創造性や世界への愛は、間違いなくチームに受け継がれていると確信した。吉井デザイナーをはじめとする作り手によって形となり、メディアやファンら受け取り手がそれぞれに思いを馳せることで、前へ前へと進んでいく。今夜のショーは、そんな僕たちの希望を証明してくれた。

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