ファッション

オオスミタケシを悼む 大きな男がくれた小さな勇気

 「フェノメノン(PHENOMENON)」や「ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)」を手掛けてきたオオスミタケシさんが1月24日に敗血症で死去した。47歳だった。3月の「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で発表予定の「ミスター・ジェントルマン」の2021-22年秋冬コレクションは、亡くなる直前まで病室で制作していた同氏によるラストコレクションとなる。ブランドの今後については現在未定。東京ストリートをけん引してきたデザイナーの突然の訃報に、関係者やファンの間では驚きと悲しみが広がっている。(この記事はWWDジャパン2021年2月8日号からの抜粋です)

 オオスミさんはヒップホップユニット「シャカゾンビ(SHAKKAZOMBIE)」のBig-Oとして活動し、ストリートブランド「スワッガー(SWAGGER)」の立ち上げを経て2004年に「フェノメノン」を始動させた。ストリートウエアに音楽やカルチャーなどを大胆に融合し、オオスミさん自身を体現するような服が若者を中心に徐々に人気を博す。10年には東京ファッション・ウイークに参加し、鎧のようなMA-1やジャケット、デフォルメしたフォームや強いマテリアルなど、ジェンダーを超越する振り切ったミックス感でストリートの既成概念を思い切り突き破り、鮮烈なデビューを飾った。ショーは海外でも評価され、当時モード一辺倒だった自分自身も衝撃を受けた。エディ・スリマン(Hedi Slimane)や「プラダ(PRADA)」のシャープなスタイルに夢中になっていたころだったが「フェノメノン」の異質な強さはとてもまぶしく、今思えば全く似合わないアイテムでも物欲を強烈に刺激されてつい購入してしまった。

 東コレデビューの2年後には、ショーをきっかけに出会った吉井雄一氏と「ミスター・ジェントルマン」を立ち上げる。吉井氏がオーナーを務めているセレクトショップ、ザ・コンテンポラリー・フィックスのオリジナルブランドとして、ベーシックなトラッドにストリートの要素を加えた“みんなから愛される服”を作り続けた。13-14年秋冬シーズンに東コレデビューを果たすと、16年春夏シーズンをもって「フェノメノン」のデザイナーを退任してからはクリエイションの強さは徐々に加速し、大胆なハイブリッドや、ベーシックの中に違和感をにじませた提案型のスタイルへと進化していった。16-17年秋冬シーズンに同ブランドのショーを初めて目の当たりにしたときは、普遍性と強さの巧みなバランス感に鳥肌がたち、「東コレはこの2人がいれば大丈夫」と希望を抱いたのを鮮明に覚えている。フィナーレでチャーミングにあいさつする2人も大好きだった。

 同ブランドのクリエイションは服だけにとどまらず、2人の強みである音楽から食、アート、カルチャーまでライフスタイル全てを融合して多面的に世界観を拡張し、いつしかショップオリジナルのブランドから独立したファッションブランドへと存在感を強めていった。17年にマッシュホールディングスの傘下に入ってからその側面はさらに色濃くなり、他業種との積極的なコラボレーションで商品の幅を広げている。最近ではアンダーウエアや、同グループの「ジェラート ピケ(GELATO PIQUE)」とのルームウエア、「ウカ(UKA)」と協業したスカルプブラシなど生活を意識したアイテムを拡充。ここでも“つい買ってしまう衝動”でひと通りそろえ、外着にしかお金をかけてこなかった生活にささやかな豊かさを与えてくれた。

 オオスミさんは「フェノメノン」で新たなスタイルに挑戦する勇気をくれ、「ミスター・ジェントルマン」で生活の新たな価値に気づかせてくれた。ファッションを通じて踏み出した小さな一歩が、たくさんの人やカルチャーとの出合いへとつながり、人生を大きく変えることだってある。それを教えてくれた1人がオオスミさんだった。世間から「ファッションは不要不急」と言われようが、彼が残した服や音楽はこれからも生き続けて多くの人の人生を変えていくだろう。ラストコレクションとなる3月の東コレをしっかりと見届け、そこで得た力をファッション業界の未来のために少しでも役立てていきたい。

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