ビジネス

独高級ファッションEC「マイテレサ」が新規上場 365億円を調達

 ドイツの高級ファッションEC「マイテレサ(MYTHERESA)」を擁するMYTネザーランド(MYT NETHERLANDS以下、マイテレサ)は1月21日、ニューヨーク証券取引所に株式を新規上場(IPO)した。

 公開価格は1株16〜18ドル(約1648〜1854円)の見込みだったが、公開前日に26ドル(約2678円)に決定された。取引直後から旺盛な買いが入り、初値は35.85ドル(約3692円)と公開価格を大幅に上回ったほか、終値が31ドル(約3193円)となるなど好調な滑り出しだった。今回の上場で同社は3億5480万ドル(約365億円)を調達したと見られており、時価総額はおよそ27億ドル(約2781億円)となった。

 「マイテレサ」はミュンヘンにある小さな高級セレクトショップからスタートし、2006年にECを立ち上げた。14年に米百貨店ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)やバーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)を運営するニーマン マーカス グループ(NEIMAN MARCUS GROUP以下、NMG)に買収されたが、同社は20年5月に経営破綻し、日本の民事再生法に当たる米連邦破産法第11条の適用を申請した。

 しかしこの時、マイテレサは破産手続きから除外されている。NMGは13年に投資会社アレス・マネジメント(ARES MANAGEMENT)と、カナダの公的年金運用機関カナダ・ペンション・プラン・インベストメント・ボード(CANADA PENSION PLAN INVESTMENT BOARD)によって60億ドル(約6180億円)で買収されており、18年にマイテレサの権利をアレス・マネジメントなどの関連会社に移しているためだ。これは当時すでに経営状態が悪化していたNMGが債権者から資産を隠すために行ったのではないかという疑いから訴訟問題になっていたが、後に債権団と和解。今回、晴れて上場するに至った。

 マイテレサは、調達した資金のうち2億ドル(約206億円)以上をアレス・マネジメントへのローン返済に充てるという。なお今回の上場に当たり、アレス・マネジメントは5200万ドル(約53億円)相当の持ち分を手放している。

 残りの資金は市場シェアの拡大や顧客の買い物体験の向上に使用する。「マイテレサ」は、「カルティエ(CARTIER)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)が運営するラグジュアリーEC最大手のユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP)や、やはり大手のファーフェッチ(FARFETCH)、そして中国最大手EC企業のアリババ(ALIBABA)などに比べると小規模だが、得意とする富裕層のさらなる開拓と囲い込みで成長を目指す。

 マイケル・クリガー(Michael Kliger)=マイテレサ最高経営責任者(CEO)は、「EC市場は将来的に3倍程度になると予想されている。当社は拠点である欧州に加えて、米国やアジア市場を含む世界中で好調な業績を上げているが、ローカライズや買い物体験を向上させるために必要な現地でのリソースが不足している。今回の調達資金をそうした部分に充てて、グローバルな顧客ベースを築きたい」と語った。

 ECはここ数年の消費動向の変化やコロナ禍の影響によって売り上げを伸ばしているが、IT技術やカスタマーサービスなどにかなりの費用がかかるため、赤字が続くことも珍しくない。大手のファーフェッチも、20年1〜3月期の売上高は前年同期比90.4%増の3億3143万ドル(約341億円)だったが、調整後EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は2231万ドル(約22億円)の赤字、純損失は7917万ドル(約81億円)の赤字となっている。

 一方、マイテレサの20年6月通期の売上高は前期比18.6%増の4億4900万ユーロ(約561億円)、調整後利益は同22.2%増の1930万ユーロ(約24億円)と、小規模ながらも黒字となっている。

 クリガーCEOは、「重要なのは規模ではなくポジショニングだ。ファーフェッチは素晴らしい企業だが、当社とは顧客層が異なる。『マイテレサ』の顧客は富裕層が多く、値下げやセールには興味がない。また膨大な量の商品の中から欲しい物を探すのではなく、自分のセンスにあった商品をある程度セレクトしておいてほしいと考えている。当社はそうした顧客を満足させることで事業を成長させてきた」と述べた。

 「マイテレサ」では、顧客の3%が売り上げの30%を占めている。そうした得意客はワードローブ全体をハイブランドでそろえており、ワンシーズンで数回は「マイテレサ」で買い物をする。「余暇にスキーに行くという顧客が多かったので、さまざまなラグジュアリーブランドのスキーウエアを取り扱ったところ好評だった」と、クリガーCEO。また顧客の好みに沿った仕入れをするため、ブランド側と信頼関係を築くことも重視しているという。

 同氏は、「コロナ以前から、ラグジュアリーブランドの顧客層はECでより多く買い物をするようになっていた。事態が収束した直後には、街で買い物をしたいという欲求のため実店舗の客足も伸びると思うが、長期的にはECが今後も成長していくことに変わりはないだろう」と分析した。

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