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アメカジ目線の中国攻略法 「ファインクリークレザーズ」の場合

 “近くて遠い”“知ってるつもり”とは中国を形容するのに最適な言葉だろう。多くのファッション企業が挑戦し、夢破れている。一方で規模は小さくとも大きな成果を上げるブランドもある。馬革のみを使って東京で自社縫製するレザージャケット専業ブランド「ファインクリークレザーズ(FINE CREEK LEATHERS)」もその一つだ。武骨なモノ作りが中国のコアなファンに受け入れられ、現在は9都市11店舗で販売している。半期の一度、それらの都市に足を運び「現地を体感する」という山﨑佳克代表兼デザイナーに、アメカジ目線の中国攻略法について聞いた。

WWD:中国展開はブランドデビュー当初からだと聞いた。きっかけは?

山﨑佳克「ファインクリークレザーズ」代表兼デザイナー(以下、山﨑):独立前に携わっていたブランド「ハイラージレザーズ(HIGH LARGE LEATHERS)」のレザージャケットを、中国人俳優がある受賞式で着用したことを機に中国展開したことがあり、それが下地になった。僕が独立することを聞いた現地のショップから問い合わせがあった。

WWD:初めての訪中はいつ?

山崎:ブランドを立ち上げた2017年だ。

WWD:協力者は?

山崎:台湾人ディストリビューターから打診があり、彼から現在のパートナーである日本人を紹介してもらった。

WWD:パートナーと最初に行ったことは?

山崎:一緒に上海や北京などの主要卸先を周った。コロナで渡航を制限されるまで半期に一度繰り返し、オーナーに直接会って「どんな商品が欲しいのか?」などリアルな声を聞いた。「ファインクリークレザーズ」はこだわりが強く、日産はわずか3枚。多くのリクエストをいただくが生産が追い付いていない状態で、そのため馬以外の革も扱う「ファインクリーク&コー(FINE CREEK & CO)」をプロモーションするために中国を訪れた。オーナーたちと話をするうちに、「ファインクリーク&コー」の商品が彼らの要望を満たすことが分かり取り引きが成立。結果として、売り上げが前年比7倍となった。

WWD:売り上げにおける海外シェアは?

山崎:構成比は日本4、アメリカ3、中国3で、どこかの国・地域が突出しないようバランスを取っている。

WWD:コロナによる影響は?

山崎:われわれが作るレザージャケットなどは不要不急の極みだと思うが、数字は落としていない。完全なネット社会である中国では“まったく影響を受けなかった”。卸先、エンドユーザーともにネットを通じて売れ続けた。さらに現地のロックダウン解除後は、押さえ付けられた消費欲を発散させる意味合いもあるのか、中庸なものよりレザージャケットのような特化型商品を求める声が高まっていると感じる。

WWD:中国人ショップオーナーの印象について教えてほしい。

山崎:まず圧倒的に若い。平均年齢は32歳前後だろうが、学生時代や20代前半でショップを立ち上げており、すでに10年以上のキャリアを持つ。自己顕示欲が高く、敬われたいという願望も強い。日本人が誤解しがちな点だと思うが、中国人は日本人以上にスタイルが良く、服のこともきちんと理解して着こなしている印象だ。その筆頭で、インフルエンサー的なポジションも務めるのがショップオーナーたちだ。新作も、入荷したらまずはオーナーが着てSNSにアップする。ウェイボー(Weibo)やウィーチャット(WeChat)のグループ内でリーダー的存在となり、そこで情報発信することでフォロワーを店に集める図式だ。

WWD:「ファインクリークレザーズ」の中国におけるSNS戦略は?

山崎:ウェイボーのアカウントを持っていて、日本から発信している。ネット検索すれば、アカウントの作り方はすぐに分かるからトライしてほしい。一方で、現在主流となっているウィーチャットもアカウント開設は簡単だが、問い合わせが多くあるのでそれに対応しなくてはならない。かつてのミクシィ(mixi)のような雰囲気で、“勝手に応援団”的なブランド紹介記事も掲載され、“偏差値が高い”空間でのやり取りになるからディスカッションできる程度の語学力、もしくはそれに長けた協力者が必要だ。

WWD:中国はEC優位だと思うが、実店舗の意味合いは?

山崎:実店舗オーナーの多くも、まずはECからスタートする。そこで資金を得て、実店舗を作る流れだ。面白いのはECと実店舗で名前を変えていること。理由を聞いたのだが、実店舗は隠れ家サロンのような位置付けであり、“知る人ぞ知る”でいいということだと思う。そして金儲けの場ではないから、良質なコミュニティーが形成される。実店舗はステータスであり、だから店作りには惜しみなく投資する。客が来店した際に“恭しく2階から下りてくるオーナー”を演出したいという理由だけで、わざわざ2階を作るなんて例もある。もちろん雇うスタッフもルックスや語学力を重視する。

WWD:実店舗作りにおいて、彼らがほかに注意している点は?

山崎:前述の通り中国はネット社会なので、店をどのエリアに作るかは問題視していない。実際、上海の店にウイグル在住の客から注文が入ることも日常的だ。コロナの影響で、日本でもEC化が急速に進んだ。アパレルの場合“表参道なのか?”“それとも銀座か?”と出店地を気にするが、オンライン上では杞憂だ。このあたりは先行する中国に学ぶべき点も多いはず。また中国のショップからは、「うちにしかないものを作ってほしい」とリクエストを受ける。スマホ一つで無数の情報にアクセスできる中、独自性が重要になっている。

WWD:中国人は直接的にビジネスをしたがると聞いた。

山崎:確かにそういうショップオーナーもいる。自分の店だけで専売して、さらに進んで代理店化したいというタイプもいるから、直接取引をしたくないのであれば、こちらから「距離感を持って取引したい」と制すること大事。交渉次第だと思う。一方で「代理店を通したい」という店もあり、これらも現地で直接彼らと話してみるまでは分からなかったことだ。

WWD:代理店を通したい理由は?

山崎:はっきりとは答えなかったが、金額面で代理店を通す方にメリットがあるのだろう。

WWD:これから中国でビジネスしようという企業・ブランドにアドバイスがあれば聞きたい。

山崎:大前提として、現地を自分の目で確かめること。次に、自分のビジネスの規模を理解し、それをどのレベルにまで成長させたいのか目標を明確にすること。

WWD:「ファインクリークレザーズ」が実践したことを踏まえ、もう少し具体的に教えてほしい。

山崎:中国で買ってくれた客に「どこでブランドを知ったのか?」、ECの場合「どこから流入してきたのか?」と尋ねることから始めた。シンプルな質問であれば、ほとんどの人が答えてくれる。言葉が分からなければグーグル(GOOGLE)の翻訳機能を使えばいいし、一歩踏み出すことが重要だ。「直接買いたい」とアクセスしてきてくれた個人客には「ほかにどんな店で買い物するのか?」と質問し、教えてもらったショップのホームページをチェックする。取り扱いブランドや年商を調べ、次回の営業活動に役立てている。こういった地道なフィールドワークも大事だが、情報を多数持つディストリビューターと契約することも一つの手。支払い面などでも、間に入ってもらった方がスムーズになるケースも多い。ただし、ディストリビューターに任せきりにしないこと。少しきつい言い方になるが、ブランドの価値を下げられて消耗品のように扱われることもあるから、あくまでブランド側でコントロールしなくてはいけない。

WWD:コロナ収束後に訪れてみたい都市は?

山崎:広州や深圳。また20年末に重慶に1つ卸先ができたので訪れてみたい。

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