ファッション

入社のきっかけは就活スーツ購入時に受けた接客 逆風下で挑む“傾聴接客” AOKI高橋哲平

 「クールビズ」からスタートした夏の通勤着改革の勢いは年々増しており、「ノーネクタイデー」「カジュアルフライデー」など新たな通勤スタイルの提案も相次ぐ。多くの企業でも服装規定が緩まり、スーツ需要は減少している。今年は追い打ちをかけるように、コロナ禍をきっかけに在宅ワークが広まり、ますますスーツ需要の減少に拍車をかけた。スーツ大手のAOKIの店頭販売員は、そうした現実にどう立ち向かっているのか。平和台店の高橋哲平店長に話を聞いた。

―今年の4~5月にかけて首都圏の大型商業施設は休業しました。路面店はどうしていました?

高橋哲平さん(以下、高橋):路面店は感染防止対策を行った上で、時短営業をしておりました。確かにコロナ禍でテレワークになった方は増えましたが、それでも一部の方は出社していましたし、急用でビジネスウェアやフォーマルウェアをお買い求めになるお客さまから、「開いてて良かった!」という声もいただきました。そうした時は営業していて良かったな、と思いましたし、自社の強みや存在意義を改めて感じることができました。

―とはいえ、近年「ノーネクタイデー」「カジュアルフライデー」と脱スーツの傾向が高まっています。どう感じている?

高橋:それは、自社だけでなく、紳士服業界全体の課題だと感じています。当社でも、これからはかっちりとしたスーツだけを提案するのではなく、いろんなコーディネートに対してのアプローチをしていこうと動いていて、ビジネスシーンにもカジュアルにも着られる商品が店頭には並んいます。
 
ただ、AOKIに対するお客さまのイメージはまだ「ビジネススーツ専門店」だと思います。そんなこともあって販売員スナップツール「スタッフスタート」を導入し、SNSや自社ECサイトで自分のコーディネートを発信して、多様な服装対応のできる「ビジネスウェア」のAOKIというイメージに変えていきたいと考えています。

―AOKIでもスタッフスタートを導入したのですね。

高橋:2019年夏からスタートしたのですが、スーツ業界では初の試みでした。その初期メンバーとしてコーディネートを発信しています。今は30名程度のスタッフが発信をしており、11月からはメンバーがさらに増える予定です。

―導入前からインスタとかSNSは積極的に発信していたんですか?

高橋:私個人は以前からSNSを情報収集ツールとして、かなり使っていました。元々、洋服が好きで、最近は特に雑誌よりもインスタでコーディネートをチェックすることが多いですね。自分が発信するようになってからは、写真の撮り方を気にして見ています。

―投稿するときに心がけていることは?

高橋:現実味のあるスタイル、親しみやすいスタイルを追求しています。私は身長186cmと大柄のため、写真に納まった時のサイズ感やコーディネートが現実的に見えるように心がけています。あと、写真と一緒に投稿するコメントは接客に置き換わる部分になるので、とても重視しており、時間も非常に掛けています。商品の詳細など必要最低限のことも書きますが、写真では伝わらない商品の良いところ、このコーディネートであればこういうシーンに使える、こんなシーンに着れば仕事とマッチする!など対面接客のシーンでも伝えるであろう言葉を書くようにしています。

―元々、洋服がお好きだそうですか、なぜAOKIに?

高橋:就活のためにスーツを買いに行ったのがきっかけです。大学は経営学部だったので、学生時代からスーツを着ることが度々あったのですが、実はそれまでAOKIでスーツを買ったことがありませんでした。学生のころは「ナノ・ユニバース」さんなど、セレクトショップで買ってましたね。AOKIは敷居が高いイメージがあったので、就活スーツを買いに行くときは緊張しました。でも大学近くのAOKIに行ったら、その接客に感動しました。スーツの相談に加え、自然と社会人の先輩としての体験談まで話してくれて、就活の不安も少し解消できました。本当に気持ちよく買い物ができたんです。

―そうなんですね!ちなみにどんな相談をしたんですか?

高橋:当時はどの業界がいいのか、どの企業がいいのかすら定まっておらず、まずは就活そのものに慣れようと色んな企業を受けようとしていたところだったんです。良い接客を受けた縁もあったのでAOKIも受けたのですが、その面接の対応も印象が良く、ここで働きたいと思いました。

―就活スーツを買いに行ったことがターニングポイントになったのですね。社員として、販売員として働き始めて以降は、どうでしたか?

高橋:元々、人と話すことが好きだったので、そのまま仕事に生かすことができていると思います。いろんなお客さまが来店されるのですが、商品のことはもちろん、それ以外のことも話をします。その結果、お客さまから「次もお願いしたい」と思っていただけることに、やりがいを感じています。

―経営学部出身で人と話をすることが好きなら、ほかの業界は考えなかった?

高橋:実は旅行も好きで、旅行会社も視野に入れていましたが、旅行は趣味として楽しむことにしました(笑)。それにしても旅行好きの人間としては、コロナ禍の広がったこの数カ月間はとてもしんどかったですね(苦笑)。自分の目標は全都道府県制覇で、大学時代からコツコツと旅行してきたのです。全国制覇まであと5~6県で、今年中に達成できると思っていたんですよ!

―それは残念でしたね……。

高橋:でも、この趣味の良いところは、お客さまと共通点が持てることです。ほとんどの都道府県に行っているので、お客さまの出身地の話で盛り上がったりしています。

―確かに!自分と同郷だったり、出身地を知っている人と話すと盛り上がりますね(笑)

高橋:印象的な会話ができるとお客さまも私のことを覚えてくださいますし、私もお客さまのことをより深く覚えることができるのです。しっかりお話しすることが、他の店舗との差別化につながるのではないかと考えています。

―取材をしていると、お客さまとの会話が苦手という販売員さんが意外と多いのですが、お客さまとの会話で気を付けていることは?

高橋:接客は会話が重要な要素ですが、もっとも大切なのは「聞き上手になること」だと思います。話をするのが好きと言いましたが、以前は話を聞くより自分の話を一方的にしているだけでした(苦笑)。本来、会話は言葉のキャッチボールなので、相手の話をしっかり聞いた上でのこちらの発信がすごく大切なのですが…。

―たまに接客を受けると、商品説明ばかりで一方通行な販売員さんに出会います。会話の訓練はどうされてきたのですか?

高橋:例えば、相手の話したことをもう一回自分の言葉に置き換えて伝えるということから始めました。それをお客さまとの会話だけでなく、友人や同僚、スタッフなど仕事以外の会話でも心がけました。最近、その「傾聴」が店長としてのマネジメントにも役立っていることを実感しています。もちろん、商品知識を身につけることなども大切なのですが、まずは「傾聴」と「会話力」を高めることに注力してみるのは良いかもしれません。

―接客業にとって、“傾聴力”は大事ですよね。それを日頃の会話から気を付けているんですね。特にAOKIの場合、夫の服を奥さんが買いに来るというパターンが多いと以前に伺いました。

高橋:確かに、その場にいない方の洋服を提案するためにはたくさんの質問が必要になります。この仕事を始めた頃は質問することが失礼にならないかと心配しましたが、今は色んな質問をさせていただきます。特にサイズ感や体形によって、お勧めする色・柄も変わるので……。

―体型によってお勧めする柄も違うんですか?

高橋:ファッションの良い点は、コンプレックスを解消できることです。例えば、体が小さいことが悩みでしたら、体を大きく見せる明るめの膨張色、ライトグレーやベージュをお勧めしますし、柄もストライプを着るよりもチェックを着たり、身につける色や柄によってコンプレックスを緩和することができます。こういったことを店頭での接客だけでなく、スタッフスタートでも発信しています。

―とても勉強になりました!それでは最後に今後の目標は?

高橋:インターネットで見たと言って来店される方を増やしていきたいです。今までのように気軽に来店していただければいいのですが、テレワークが増え、スーツも需要が減り、店や接客の概念が大きく変化してきています。つい最近、私が投稿したナノ・ユニバースさんプロデュースの商品が見たいといって、来店されたお客さまがいらっしゃいました。自分も好きなブランドなので、お客さまと意気投合して、当初は試着だけだったところを、最終的にはお買い上げしていただきました。とてもうれしかったのと同時に、お客さまに足を運んでいただけるきっかけになる可能性を秘めているのだと感じました。時代の変化に対応するために、どんどん新しいことにチャレンジして、その中で身をもって体験したことを周囲に共有して、やりがいをもって働けるスタッフを増やしていければいいなと思います。

苫米地香織:服が作れて、グラフィックデザインができて、写真が撮れるファッションビジネスライター。高校でインテリア、専門学校で服飾を学び、販売員として働き始める。その後、アパレル企画会社へ転職し、商品企画、デザイン、マーケティング、業界誌への執筆などに携わる。自他ともに認める“日本で一番アパレル販売員を取材しているライター”

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