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進化する幸せ産業(3)デザートビュッフェ編 さらなる華やぎと安全をもたらす抗コロナ対策

 コロナ禍で私が一番、恋しかったのはバーのカクテル、そしてビュッフェ形式の食事だった。なかでも趣向を凝らしたスイーツをあれこれ選ぶ、華やいだビュッフェは、今後難しくなるのだろう。あぁ、甘いものを前にはしゃぎたい。辛党・酒呑みを自認しているが、デザートは別腹。心は永遠に乙女なのだ。そんなとき届いたのが、「マリー・アントワネット スイーツ・オートクチュール」からの招待状。18世紀のヴェルサイユ宮殿でファッションリーダーとして君臨したフランス王妃マリー・アントワネットは、美食家でもあった。フランスの薔薇と呼ばれたアントワネット王妃にインスピレーションを得た「ヒルトン東京」がこの夏展開するロマンチックなデザートフェアの発表会だった。

 約30種類のスイーツを好きなだけいただけるほか、さらにはシェフが目の前で要望に合わせてデザートをカスタマイズしてくれる。今まで以上に高揚感があり、フォトジェニックなデザートビュッフェを、より安全に楽しむための新提案だという。そこで「ヒルトン東京」での「マリー・アントワネット スイーツ・オートクチュール」を実際に体験してきた。

フォトジェニックな鳥かごが別世界へ誘う

 1階の「マーブルラウンジ」に設置したのはロマンチックな鳥かごゲート。初夏のヴェルサイユ宮殿の庭園風の門をくぐるとそこは別世界だ。迎えるスタッフが手に振りかけてくれる消毒液も、豪奢な香水ボトルからだ。まず目に入るのがゴールドとパステルカラーのフォトスポット。レースのコルセットやハイヒール、香水瓶が並んだマリー・アントワネットのドレスルームのような空間に、提供されるケーキがディスプレーとして飾られている。マリー王妃よろしくガーリーなファッションでセルフィ―に挑むインフルエンサーや、ブライス人形を手にレンズをのぞく姿も見受けられ、撮影目的で訪れる人も多いだろう。スタッフのコスチュームとランチョンマットのアートワークは、ロリータファッションで定評がある「アトリエピエロ」が担当。ロマンチックで甘美な世界観を彩った。

 席に着くとテーブルには鳥かごアフタヌーンティスタンドが置かれており、中にはマカロンやタルト・オ・フリュイなどの色鮮やかなスイーツが並ぶ。紅茶は10種から選ぶポットサービス。ケーキビュッフェにありがちな、「まず並ばなくては」という焦りはなく、アミューズとしてのスイーツをつまみながら、カウンターに行くタイミングを計れる。またQRコードからドリンクやデザートメニューをチェックできるので、並ぶ前に席で何を選ぶか考える余裕も生まれる。通常よりも着席時間を増やすことで、他者との接触は減るだろう。配席も今までは208席だったところを160席にし、アングルも考えて距離を保っていた。

魅せ、交流しつつもリスクを減らすプレゼンテーションに

デザートはこの鳥かごスタンドに続き、以下の3つのスタイルで提供される。
1カウンター
2デザートワゴン
3シェフが目の前で仕上げる「ライブステーション」

 ではそのまま手に取れるシャンパン風ゼリー、小さなグラスなど、個別な容器で提供される。パスタやスープなど口直しのセイヴォリーは基本的にスタッフが盛り付ける。取り分け用のトングなど、ゲストがシルバーを共有することを避けた。

 のデザートワゴンは大まかなルートが決っており、あらかじめ何時くらいに回ってくるかを知らされる。前にくると飲茶のように好きなデザートを好きなだけ選べる仕組みだ。エリア内を優雅なワゴンが周回し、うやうやしくサーブされ、宮廷貴族気分を味わえる。

 はラグジュアリー系ホテルならではの高揚を感じる瞬間だろう。ミルフィーユや表面を焼きキャラメリゼにするピュイダムールなど、目の前で自分好みにカスタマイズできる。また薔薇の小さなケーキは花びらをあしらう最後の仕上げを目の前で見せる演出も。パティシエとの交流も楽しめ、非日常を味わえる。このライブステーションは着席時に大まかな利用時間を指定し、混雑が起きることを回避している。もちろん、列が少ない場合は指定以外の時間でも問題ないという。

 華やかなフランス宮廷の世界をスイーツで表現したのは、エグゼクティブペストリーシェフの播田修(はりたおさむ)氏。パリの5ツ星ホテルでミシュラン3ツ星シェフのもとでデザートを担当し、今回は「マリー・アントワネット スイーツ・オートクチュール」フェアでは王妃の帽子やバッグを模した目にも贅沢なケーキも発表した。「例えば王妃の帽子をイメージした『シャポーローズ』はブラッドオレンジの果肉をザクロのソースで煮詰めたジュレがビターオレンジのムースに隠されています。表面にはサクサクとした食感のメレンゲで飾りました。色、香り、テクスチャーを五感で比べて、記憶に残る時間にしていただけたら」と語る。

 「マーブルラウンジ」で14時30分から17時30分まで開催されるこのデザートビュッフェは、いわばスイーツのオートクチュール コレクションのようなもの。この2時間で得られるのは満腹感だけではなく、ライブを共有し、クリエーターの感性に酔う、心の贅沢だ。

 デザートビュッフェは1人3980円(土・日・祝は4300円)で9月30日まで毎日開催される。ディナーは同じく「マーブルラウンジ」でビーフ・ウェリトンやチーズワゴンもふるまわれる「マリー・アントワネットの晩餐会」として一人5500円(金・土・祝は6500円)で展開。ランチは「美しき妃たちの午餐会」となり2階中国料理「王朝」で楊貴妃に着想を得た華やかな料理で魅了する。点心とマリー・アントワネットのデザートはワゴンでサーブされ、同じく接触、混雑を避けたビュッフェスタイルだ。1人3500円(土・日・祝は3900円)。

 飛行機に搭乗せずとも、ヴェルサイユ宮殿に招かれたような、時空を超えた旅を体感できる。

 ショーのような演出など、工夫次第で、感染リスクを抑えながらも、今まで以上に高揚感のあるサービスを提供することは可能なのだ。正解が見えない今、私たちが別業界から学べる施策はまだあると気づかされた。

間庭典子(まにわ・のりこ)/フリーライター:婦人画報社(現ハースト婦人画報社)を退社後、ニューヨークへ渡る。現在は東京を拠点に各メディアに旅、グルメ、インテリア、ウエルネスなど幅広いテーマで執筆。著書に「ホントに美味しいNY10ドルグルメ」「走れば人生見えてくる」(共に講談社)など