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進化する幸せ産業(1)観光業界編 安全と健やかさを追求する生活圏内でのコンパクトな旅

 新型コロナで世の中は一変した。自分自身のフリーライターとしての生活も、だ。私がメディアに発信するのは旅やグルメ、ウエルネスなどのいわゆる“幸せ産業“がテーマ。世の中が平穏だからこそ成り立つビジネスだ。命をつなぎ、生活を維持するエッセンシャルワーカーと違い、幸福感をもたらす消費を促す情報は不要不急といえるだろう。

 緊急事態宣言発令前にすでに全ての撮影は延期、各出版物は大幅な内容変更やキャンセルとなり、打ち合わせもインタビューも全てオンラインに。今までとは違うネットワークを活用した情報発信となった。
そんな中、各業界のリーディングカンパニーが想像力と瞬発力で難局を乗り越えようとしている。そこでライターとしての体験や、各業界の現場の声なども含め、進化する幸せ産業について短期連載でリポートしたいと思う。今回は観光について。

移動のロスを省き、生活圏内の魅力を再発見するマイクロツーリズム

 まず、幸せ産業の代表といえるのが観光業界だろう。なにしろ海外渡航がままならず、感染防止の観点から、都市部から山間部への移動がはばかられる状況だ。

 3月早々から、リモートワークを応援する長期滞在プランや接触を回避したサービスなどを提案してきた星野リゾートが、ポストコロナに掲げたのが「マイクロツーリズム」という概念。自宅から1時間以内でアクセスできる近隣の施設で、移動による感染リスクを避けた小さな旅だ。2020年3月に同社が山口県長門市に開業した「界 長門」には中国地方からの集客を強化するなど、地元を再発見するご当地プランを全国各地の施設で提案している。

 また、星野リゾートは品川や横浜などの都市部とのアクセスもいい川崎に作った街を楽しむカジュアルホテル「OMO03川崎」や、輪泊など自転車を楽しめる駅構内のホステル「BEB5土浦」など、若い世代に向けたリーズナブルな宿も次々と開業。より身近な旅を選ぶニーズに応えている。

東京湾を見渡す都心のラグジュアリーリゾートが竹芝桟橋にオープン

 東京オリンピック・パラリンピックに向け、インバウンドの富裕層を想定した都市中心部のホテルもオープンラッシュだ。東京・港区海岸に4月27日にオープンした「メズム東京、オートグラフ コレクション」は部屋の中でのチェックイン、ディナーも部屋での食事が可能など、3密の不安がない巣ごもりプラン「メズム東京“ザ・プライベート”」が話題だ。まだ開業前の春に内覧したのだが、ルーフバルコニーからは東京湾や桂離宮が見渡せて、都心にいるとは思えない解放感が得られた。また、7月からは宿泊客のみならず、一般も乗船できる送迎プランも開始される。いつも働いているエリアで滞在しながら、ラグジュアリーな非日常を感じられるだろう。このホテルがある竹芝は、劇団四季のシアターなどある「ウォーターズ竹芝」もオープンした開発中のエリア。ホテルに隣接する竹芝桟橋は大島や小笠原諸島などへの玄関口であり、伊豆諸島の島魚を漬け込んだ島鮨専門店などもある。通過地点にせず、滞在することでまだ見ぬ東京を肌で感じることができる。

2組限定の鎌倉の古民家オーベルジュで「食・寝・浴」を極める

 都心から1時間程度の鎌倉も首都圏からアクセスのいいデスティネーションだ。歴史と文化を感じる街並みは観光地としても見どころが多いが、あえて巣ごもり滞在を選びたい。

 鎌倉宮からほど近い、築160年以上の古民家をリノベーションした「鎌倉古今」は1晩2組限定のオーベルジュ。敷地内には山形発のオーガニックレストラン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフがプロデュースした「レストラン ココン(RESTAURANT COCON)」があり、鎌倉野菜をふんだんに使ったイタリアンを堪能できる。オープンキッチンを囲むカウンター席のみで、プライベートダイニングのような交流が楽しい。ワインだけでなく、日本酒や宇治茶(きわめて高級な!)とのペアリングにもはっとする。古民家や蔵をそのまま生かしたメゾネットタイプの2部屋で、エアウィーヴ社の寝具、ケヤキ材と伊豆石に囲まれた露天感覚のマイクロバブルバスなど、「食・寝・浴」の3方向からのアプローチにより、心身を解き放つ。

心身の健やかさと洗練を両立させたウェルビーイングなホテル

 ユニークなのはこの6月、東京・立川市にオープンしたばかりの「ソラノ ホテル(SORANO HOTEL)」だ。心身ともに健康で満たされた状態を指す“ウェルビーイング”をコンセプトとし、温泉水を使用したインフィニティープールやSPA、パーソナルトレーニングを受けられるジムを併設するなど、健康を維持するための滞在を実現する。昭和記念公園に隣接し、全室パークビュー。一番小さな部屋でも52平方メートル以上で、7平方メートル以上のバルコニーがあり、なかには20平方メートル以上のバルコニーを備えたドッグフレンドリーな3部屋も。都心から少し離れたエリアだけに、ゆったりと過ごせる間取りが特徴だ。

 また、1部屋3人で滞在し、3Dボディースキャナ計測により姿勢や体組成をチェック後、パーソナルトレーナーが3人でのセミプライベートセッションで指導し、体を整えるプランも。ヘルシーな食事をとりながら、これからのウエルネス計画について語る合宿のような滞在になるだろう。「ソラノホテル」が位置するのは屋内外をつなぐホールやオフィス、ショッピングセンターなどがある複合施設「グリーンスプリングス」内。空と大地をつなぐウェルビーイングタウンで過ごし、心と体の健康を目指したい。

今後、注目されるのはWhereよりもHowを重視するコンパクトな旅

 ポストコロナの観光は「どこへ向かうか」よりも「どう過ごす」が重視されそうだ。「鎌倉古今」に滞在し、日帰り圏内だった古都の魅力を再発見した。早朝の鎌倉宮境内を歩き、市場で旬の野菜を買い込む。なんといっても自宅から快速で片道1000円程度。移動にかかる時間や費用を宿泊費に回せば、今までよりもグレードアップした旅が望めるのだ。前出の星野リゾートの星野佳路社長は「今だからこそ、観光が果たせる役割がある」と語る。「フードロス問題に取り組む“牧場を救うミルクジャム”の生産や、観光業と農業の人材交流など地域産業との連携もそのひとつです」。

 マイクロツーリズムは、都市間の感染拡大を防止しつつ、地域との交流を深め、地域経済活性化に貢献することにもつながる。今年はコンパクトな旅で質を上げ、心身共に健やかに過ごせるウェルビーイングな滞在で英気を養おう。それが地域を元気にすることにもなるのだ。

間庭典子(まにわ・のりこ)/フリーライター:婦人画報社(現ハースト婦人画報社)を退社後、ニューヨークへ渡る。現在は東京を拠点に各メディアに旅、グルメ、インテリア、ウエルネスなど幅広いテーマで執筆。著書に「ホントに美味しいNY10ドルグルメ」「走れば人生見えてくる」(共に講談社)など

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