今季30周年を迎えたサンパウロ・ファッション・ウイークは、ブラジルの多様性とサステナブル精神を鮮やかに提示し、未来へ向けた新たなビジョンを強く印象づけた。そして2025年は日本とブラジルの国交樹立130周年という節目でもある。位置地球の反対側にありながらサンパウロには今も約27万人の日系人が暮らし、世界最大のコミュニティーを形成している。さらにイタリア、ドイツ、スペイン、アフリカ系をはじめとする多様なルーツが共存するこの都市は、その多文化性を背景に、ファッションやアートの領域で独自の創造性と色彩感覚を育んできた。世界屈指の超富裕層も多く住まう南米随一のメガシティとして、いまやグローバルサウスの躍動を象徴する存在でもあるサンパウロは、未来のクリエイションを生み出す実験場、といってもいいかもしれない。本稿では、そんなサンパウロの“いま”を体感するための最新シティガイドをお届けする。
ピンガ(Pinga)
アップカミングなブラジルデザイナーを探すながらまずはこのセレクトショップへ。アパレルからシューズ、バッグ、アイウエアなどのファッション雑貨、ジュエリー、そして陶器やクッションなどインテリア雑貨まで150以上のブランドがそろう。オーナーのカタリーナ・ヨハンピーターが友人たちとオープンしたブラジルブランドに特化したストアで、店内にはカフェ(もちろん美味しいブラジリアン・コーヒーがいただける)スペースも。
そもそもは「チェーン展開などしていない小規模なブランドのアイテムをおしゃれな友人たちに紹介したい」というカタリーナの思いからスタートしたビジネスで、アイテム数が増え、ショップ自体も少しずつ近隣のビルなどを吸収して拡張、現在の路面店ができたとか。この11月にはカタリーナの故郷でもあるリオ・デ・ジャネイロのモール「ショッピングレブロン」内にも2号店がオープンした。ちなみに「ピンガ」とは砂糖きびから作られる蒸留酒カシャーサのこと。
R. da Consolação, 3378 - Cerqueira César, São Paulo - SP, 01416-000 Brazil
ラピーマ(Lapima)
ジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)やレディー・ガガ(Lady Gaga)、エマ・ストーン(Emma Stone)、ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett )ら、ハリウッドセレブも愛用しているサンパウロベースのアイウエアブランド。一見大胆に見える彫刻的なシェイプが特徴的だが、着用してみると機能美も備えていることが分かる。軽やかなかけ心地はフレームに施された微細な削りにあり、自社工場でハンドメード仕上げされている。デザイナーはグスタフォ&ジゼラ・アシス夫妻で、グスタフォは「オスクレン(OSKLEN)」でもキャリアを積んだ経歴を持つ。
ブラックやブラウンなどダークトーンが主流のアイウエア業界だが、グリーンやパープル、ホワイトなどブラジルらしいトーンのカラーパレットも目をひく。ショップはサンパウロのラグジュアリーショッピングモール「Shops Jardim」内にある。
Rua Haddock Lobo, 1626 - Jardins, São Paulo - SP, 01414-002 Brazil
ラネ・マリーニョ(Lane Marinho)
ブラジル東北部バイーア出身の靴デザイナー。かつては大手シューメーカーで働いていたが、大量生産のシステムに疑問を感じ、子どもの頃から好きだったかぎ針編みのビーズのネックレスなどを思い出し、それをサンダルのディティールとして取り入れながらハンドメードで靴作りを始めたことがブランド創設のきっかけとなった。小さな貝殻や石、ガラスの欠片のようなビーズがついたサンダルはまるで履くジュエリーのよう。1足を作るにも最低7時間はかかるそうで、サンパウロにあるアポイントメント制のアトリエで1足ずつ、フィッティングをしながら販売している。
Rua Dep. José Armando Afonseca,01239-060 São Paulo, Brazil
ヘルコビッチ・アレキサンドレ (Herchcovitch Alexandre)
今年30周年を迎えたサンパウロ・ファッション・ウイークの創成期からブラジル発信のモードを牽引してきたデザイナー。約10年ぶりにこの11月にサンパウロの高級ショッピング街であるジャルジン地区にフラッグシップショップをオープンした。白を基調としたアートギャラリーのようなミニマルな設えのショップには、大きな鏡やピンクの絨毯がアクセントとして取り入れられている。ショップでは最新コレクションを販売するほか、市内にあるアトリエと提携し、“メード・トゥ・メジャー”のサービスとして顧客の嗜好に合わせ1点もののオーダーも受け付ける。オーダーした製品は1〜3カ月ほどで完成するとか。
Rua da Consolação, 3391, São Paulo – SP, Brazil
ローズウッド・サンパウロ(Rosewood São Paulo)
現在開発が進むサンパウロ市内のベラビスタ地区にあるホテルで、フランスを代表する建築家ジャン・ヌーベル(Jean Nouvel)による新築棟とブラジルの歴史的建造物に指定されている元産院のリノベーション棟を合わせ、全141室を有する。エレガントで洗練された設えのインテリアコーディネートだが、壁にはブラジル音楽の巨匠ジルベルト・ジウ(Gilberto Gil)が使ったギターが飾られていたり、ブラジルのアートブックや民芸品、陶芸などがさりげなく置かれていたり、旅情を掻き立てる工夫がそこかしこに見られる。
館内には450を超えるアート作品が展示されており、中でも敷地内にあるチャペルのステンドグラスはブラジルを代表する現代美術家ヴィック・ムニース(Vik Muniz)が手掛けた。レストランやバーなどにもブラジル人アーティストが制作したタイルやカーペット、壁画などが設置されており、現代アートもこのホテルのひとつの大きな見どころとなっている。
スパ施設はゲランと提携したメニューをそろえ、ブラジルで採掘されたクリスタルを全面に使ったメディテーションルーム、大理石をふんだんに使ったサウナルームやジャグジーなどインテリアでブラジルらしさを感じさせる。ビーチのないサンパウロだが、中庭や屋上には宿泊者のみが使用できるプールもあり、全館を通じて洗練されたブラジルらしいホスピタリティーを感じることができるシティホテルである。
Rua Itapeva 435, Bela Vista, São Paulo, SP 01332-000 Brazil
ホテル・ユニーク(Hotel Unique)
半円形の外観がまさに“ユニーク”なデザインホテル。設計はブラジルを代表する建築家、オスカー・ニーマイヤー(Oscar Niemeyer)の弟子でもある日系ブラジル人建築家、ルイ・オオタケによる。円形の窓がずらりと並び、さながら大きな客船のようでもある(ちなみに端の部屋は壁がカーブしている)。
客室のインテリアもまた斬新なもので、バスルームとベッドルームの間に仕切りがなく、実に開放的かつセンシュアルとも言えるブラジルらしい空間づくりである。最上階にはプールのあるバーがあり、サンパウロの夜景が楽しめる。1階ロビーにはブラジルのインダストリアルデザイナー、カンパーナ兄弟などによる家具も配置されている。
Av. Brigadeiro Luís Antônio, 4700 - Jardim Paulista, São Paulo - SP, 01402-002, Brazil
サンパウロ・ビエンナーレ(São Paulo Biennial)
1951年から2年に1度開催されている国際的にも非常に権威のある現代美術展。今回キュレーションをリードしたのはカメルーン出身のボナベンチュラ・ソー・べジェン・ンディクン(Bonaventure Soh Bejeng Ndikung) で、日本人作家としては石川真央、イケムラレイコ、吉増剛造、ケンジシオカワが選出された。テーマは「Not All Travellers Walk Roads Of Humanity as Practice(すべての旅人は道を辿るわけではない 人類の実践について)」。会場となったのはブラジルの巨匠建築家オスカー・ニーマイヤーによる傑作とも言われるビエンナーレ用に作られたビル(1954年竣工)で、各階をスロープで結ぶおおらかで有機的なデザインが特徴となっている。
今回選出された150人を超えるアーティストたちの作品は、大きく3部構成で展示されており、私たちを取り巻く環境や社会、そして世界への視点が重層的に、また多彩な手法で提示されている。キャプションにはアーティストの生年や出身地などの基本的な情報がほぼ記されておらず、何の偏見もなしに作品に対峙するよう促される。アートとの出会いやクリエーションを巡る体験自体が、まるで“旅”であるかのような展示構成だった。