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「リチャードソン」にまつわる5つのこと

 アンドリュー・リチャードソン(Andrew Richardson)が1998年に創刊したニューヨーク発インディペンデントマガジン「リチャードソン(Richardson)」が、旗艦店「リチャードソン トウキョウ(Richardson Tokyo)」を東京・原宿にオープンした。当初は3月28日のオープンを予定していたが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響から店内の一部什器が間に合わず、25日夜には東京都が週末(28・29日)の外出自粛要請を発表したことで急きょオープン日を30日に変更するなど、想定外の対応に追われる中での船出となった。

 「リチャードソン」は不定期刊行で、一時期休刊もあったため、創刊からこれまでに発行したのはわずか9号と極めて少ない。しかし、セックスというレンズを通してアートやカルチャーを表現し社会を切り取るその独自の世界観から、多くのカルト的ファンを生み出してきた。そして、雑誌名を冠したオリジナルアパレルも感度の高い人々を中心に支持を集め、もはやいちマガジンとして以上の地位を築いている。だが、日本では過激な描写ゆえに「リチャードソン」を単なるポルノ雑誌やストリートブランドの1つとして認識している人も少なくない。今回は、そんな「リチャードソン」の知見を深める5つのことをご紹介したい。

1.創刊のきっかけはマドンナと1人の日本人

 “Queen of Pop”ことマドンナ(Madonna)が1992年に発表し、その挑発的なビジュアルから論争を呼んだ写真集「SEX」。この写真集をフォトグラファーのスティーブン・マイゼル(Steven Meisel)と共にスタイリストとして手掛けたのがアンドリューだ。当時はグランジの誕生期だったこともあり、2人は「SEX」にグランジのマインドとセックスの要素を足すことを思いつきプロジェクトをスタート。しかし、その頃のスティーブンは「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」の広告で多忙を極めていたため、4〜6カ月近いプロジェクトの大半の作業をアンドリューが担ったという。その後アンドリューは、「SEX」には収録されなかった写真をはじめセックスに関する写真や文章、グラフィックを集めたスクラップブックを密かに制作していた。それを見たファッション誌「デューン(DUNE)」の林文浩編集長が雑誌の創刊を提案。それから紆余曲折を経て、カルチャー誌「デイズド&コンフューズド(Dazed & Confused)」のサポートを受けて1998年に「リチャードソン」が誕生した。

2.「シュプリーム」の創業者、ジェームス・ジェビアは大親友

 「シュプリーム(SUPREME)」の創業者、ジェームス・ジェビア(James Jebbia)とは30年来の大親友だ。ジェームスが1994年に「シュプリーム」を設立する前に、セレクトショップ「ユニオンNYC(Union NYC)」でオーナーを務めていた頃からの仲で、スタイリストだったアンドリューが頻繁に洋服を借りていたことから親しくなったそうだ。その後、「シュプリーム」は「リチャードソン」創刊号に広告を出し、アンドリューが「シュプリーム」のカレンダーをディレクションするなど緊密な関係は続き、2003年には「シュプリーム」から「リチャードソン」の第3号「A3」の表紙をプリントしたTシャツが発売された。このコラボを機に、誌面の写真を洋服にプリントしたブランド化を思いつくも、このときから「リチャードソン」は7年間の休止期間に入ってしまい、アイデアはお蔵入りに。なお、日本で初めて「リチャードソン」を取り扱ったのは「シュプリーム」だ。

3.日本はブランドスタートの決定因子

 2010年に7年ぶりとなる「A4」をリリースするにあたり、東京・代官山の「ボンジュール レコード(BONJOUR RECORDS)」にポップアップをオープンし、先述のアイデアを具体化。このポップアップでアンドリューは、日本のフォトグラファーやアーティスト、美容師らが大勢訪れて「リチャードソン」のカルチャーを深く理解し購入する姿を目の当たりにし、「これはブランド化を真剣に考えるべきだ」と気付いたそうだ。それから「リチャードソン」に注力するべく、すでに軌道に乗っていたスタイリストとしての仕事を全てやめたという。また、ブランドを立ち上げるにあたり参考にしたのは、1990年代の「ヒステリックグラマー(HYSTERIC GLAMOUR)」や「ダブルタップス(WTAPS)」に代表される“裏原スタイル”で、同じように高品質なアイテムを生産するべく“Made in America”にこだわっている。

4.ジュンとの関係について

 今回の「リチャードソン トウキョウ」のオープンは、ジュンとのパートナーシップによって実現した。何を隠そうジュンは「ボンジュール レコード」の運営元であり、日本で古くから「リチャードソン」の成長を支えてきた存在だ。2018年に「リチャードソン」が「ボンジュール レコード」にポップアップをオープンしたタイミングでアンドリューとジュンの佐々木進社長がミーティングを行ったところ、「リチャードソン」のオンラインストアでの売り上げがアメリカに次いで日本が高かったことから東京に店舗をオープンしたかったアンドリューと、ブランドのさらなる飛躍を信じていた佐々木社長との間でトントン拍子に話が進み、東京に店を構えることが決まった。ちなみに「リチャードソン トウキョウ」は世界3店舗目となる旗艦店で、1店舗目はニューヨークに、2店舗目はロサンゼルスにある。

5.紙を通して表現する意味

 世界的に雑誌不況といわれる中、「リチャードソン」は紙を通しての表現にこだわっている。その理由について「『リチャードソン』は定期発行誌でも、情報誌でも、カタログ誌でもない。カルチャーを表現するための、アートプロジェクトのようなもの。社会のその瞬間や時代を反映して意見を表現するためには、雑誌という形態がどうしても必要で、オンラインではできないんだ。その価値を理解してくれる人たちに向けて作っているから、『リチャードソン』はなくならない。他の雑誌は商業として情報を伝えるものだから、役割が全く違うんだ」と話す。近く最新号「A10」の発行を控えているとのことなので、新型コロナウイルスが終息したら「リチャードソン トウキョウ」に足を運ぶことをおすすめしたい。

■Richardson Tokyo
住所:東京都渋谷区神宮前4-27-6
営業時間:11:00〜20:00
定休日:不定休