「キディル(KIDILL)」と東京・渋谷のビンテージショップ「リールー(LEELOO)」とのカスタムコラボレーションコレクションが8月21日に発売された。「個人的に『リールー』の大ファン」だという「キディル」デザイナー、末安弘明さんと、「最初に来店された時から気づいていた」という「リールー」店主、堀内健太さんが、今回のコラボレーションとビンテージへの想いを語る。
末安弘明と堀内健太の出会い
WWD:2人はもともと知り合いの期間が長かったのか? 末安さんはよくお店に通われていたと聞いた。
末安弘明「キディル」デザイナー(以下、末安):おそらく一番最初に来たのは2~3年くらい前ですね。この店のラインナップがすごく好きで、プライベートで普通に買い物に来ていました。自分が「キディル」のデザイナーであるということは言わず、ビンテージのバンドTシャツなどが好きだったので、普通のお客さんとしてただ買い物をしに来ていました。
WWD:堀内さんは、いつ末安さんだと気づいた?
堀内健太「リールー」店主(以下、堀内):実は最初から気づいていました(笑)。ただ、プライベートの貴重なお休みを使って買い物に来ていただいているのに、こちらから仕事の話を振ってしまうと迷惑かなと思い、それには触れませんでした。でも、以前のブランド「ヒロ(HIRO)」の時からずっと好きで見させていただいていたので、心の中では「『キディル』のデザイナーさんが来てくれてる!」とめちゃくちゃ嬉しくて。何回目かのご来店の時に勇気を出して話しかけました。
WWD:末安さんはなぜ「リールー」を気に入った?
末安:インスタグラムで見たのがきっかけで来ました。「マリリン・マンソン」や「スリップノット」のような分かりやすいビンテージバンドTに加えて、90年代のデッドストックやサイバーテクノっぽいアイテム、「ダニエル・プール(DANIEL POOLE)」のような入手困難なロンドンのデザイナーズブランドが平然と並んでいる。原宿をはじめとする東京の代表的な古着屋とも全くセレクトの切り口が違っていて、すごく刺さりました。今日着ている服もここで買ったものです。
WWD:堀内さんは、どのようにしてそうした稀少なアイテムを仕入れている?
堀内:ロンドンなど現地に行って、当時ショップを運営していた方やDJ、カルチャーの渦中にいた人たちを探して、数珠つなぎで人を紹介してもらい買い取らせてもらうことが多いです。普通のフリーマーケットやビンテージショップではなかなか見つからないので、草の根でコネクションを作って仕入れています。大量のベール(古着の塊)からピックする形ではなく、カルチャーに繋がっている人たちから1点ずつハンドピックで買い付けることが多いですね。
末安:自分の好きなゾーンにドンピシャでハマる店に初めて出会った感覚でした。他のお店と比べても絶妙にニュアンスが違うんです。人気のブラックメタルやスラッシュメタル Tシャツに加えて、誰かが個人的にカスタムしたような一点物のジャケットやパンツなど、レギュラー古着のセレクトも厚い。細かいディテールまで手が込んでいてセンスが素晴らしいんですよね。
2人を繋ぐルーツとファッション
WWD:2人のファッションやカルチャーの原点は?
堀内:僕は現在32歳なのですが、中高生の頃は「チョキチョキ」や「チューン」などの雑誌やスナップを読み込んでいました。当時の原宿のカリスマ美容師やキングの方々が紹介するお店をメモして回っていたのが原点です。古着にハマったのは、高校2年生の時。原宿で初めて買った古着が、後から知ったら40年代のすごく良いジャケットで、それが菊花絵けです。カルチャー面では、映画も好きですが、一番影響を受けているのは自分が生まれる前の音楽やアーティスト。友人から教えてもらった「ニルヴァーナ」や「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン」の演奏やファッションに大きな衝撃を受けました。
末安:僕も中学3年生の頃に音楽からファッションに入りました。当時は「ビースティ・ボーイズ」や「セックス・ピストルズ」が好きでした。地元・福岡はストリートカルチャーが強かったのですが、「ビースティ・ボーイズ」のアナログ盤のジャケ写でメンバーが着ていたTシャツや、履いていた「アディダス(ADIDAS)」のスニーカー、“フォーラム”か“コンコルド”だったと思うんだけど、それを必死で探して同じものを買いに行きました。好きなアーティストと同じ格好がしたいというのが原体験です。ジョニー・ロットンやシド・ヴィシャスが着ていた服を調べるうちに「セディショナリーズ(SEDITIONARIES)」を知り、ヴィヴィアン・ウエストウッドとマルコム・マクラーレンという背景を知り、福岡にあった「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」の路面店で復刻版の「セディショナリーズ」を買ったりしていました。
WWD:ビンテージの原点は何で、どう捉えている?
末安:世代的に周りが「リーバイス(LEVI'S)」の501の“大戦モデル”とかにハマっていた世代で、そういう知識も嫌いじゃないんですけど、服を作る側がそこを追求しても仕方ないのかな、と思っています。それより90、80年代の、あんまり誰も知らないスケートブランドやテクノブランド、パンクブランドのビンテージが好きですね。価値が高いと言われる王道より「当時でもあんまり知られてなかったんだろうな」というようなものを置いてあるお店が好きです。
WWD:制作する服の発想の源になる?
末安:めちゃめちゃなります。当時の色使いやファスナーの使い方なんかもすごく勉強になりますし、雑に作ってあるものがすごくカッコよく見えたりして。そういうのをわざと自分のブランドでやったりもします。
堀内:僕は、いかに見たことのないものを見つけるか、という感覚ですね。「こんなモデルがあったんだ」という新しい発見をした時が一番嬉しいので、追求し続けて新しいものを見つけていくのが楽しいです。
WWD:カルチャーを現代のファッションとして提案する際、どのような意識を持って服を作っている、またはセレクトしているのか。
末安:僕はファッションデザイナーなので、過去のパンクやブラックメタルが好きだからといってそのまま作ったら、ただの「懐古主義」や「焼き直し」になってしまいます。当時のニュアンスを表現しつつも、過去と同じものを作らずに「更新」していかないとデザイナーが存在する意味がありません。
堀内:お店としては、2パターンの提案があります。1つは「カート・コバーンのようなグランジスタイルがしたい」というお客さんに対して、当時のリアルな古着や着こなしをそのまま提案すること。もう1つは、「グランジのニュアンスを残しつつ、ボトムスをダボダボのデニムではなく細身にして、エディ・スリマンっぽいシルエットに崩してみませんか?」のように提案することです。「モノとしての歴史」を追求する古着コレクター層には前者を、「着た時のバランス」を楽しむファッション層には後者を提案します。どちらにも楽しんでもらえる提案を心がけています。
コラボレーションのきっかけ
WWD:今回のコラボレーションは、どちらから提案したのか。
堀内:僕から最初にご相談させていただきました。ずっとお伝えしたかったのですが、「うちのような小さな古着屋が急に言ったら失礼かな」と悩んでいて。でも末安さんがよく通ってくださるので、ある日勇気を出してお話ししました。ただ古着を仕入れて売るだけでなく、ファッションとして新しい提案をしたかったんです。「古着しか買わない人」に新品の魅力を知ってもらい、「新品しか買わない人」に古着の楽しさを知ってもらうきっかけを作りたくて、それを「キディル」と出来たら最高だな、と思いお声がけしました。
WWD:末安さんは、その提案を聞いてどう感じた?
末安:コラボするかの基準はできるものが「面白いか、面白くないか」。そこが全てですね。「キディル」はこれまでも「アンブロ(UMBRO)」やアルファ・インダストリーズ(ALPHA INDUSTRIES)」「ジューシー クチュール(JUICY COUTURE)」などとコラボしましたが、どれも面白そうだと思ったから。ですが、ビンテージを扱う古着屋さんとデザイナーがコラボして服を作るというのはあまり前例がなく、「東京で一番好きな古着屋と、今まで誰もやったことがない新しい試みができるならやってみよう」と即決しました。売れるかどうかやビジネス的な話は一旦置いておいて(笑)。
WWD:今回のコラボレーションアイテムは、どのように制作が進められた?
末安:ある時、堀内くんが80年代の「ブラック・フラッグ」のライブフライヤー(レイモンド・ペティボンによるアートワーク)のビンテージを大量に持ってきたんです。話を聞くと「ブラック・フラッグ」のメンバーが立ち上げた、SSTレコーズ周辺のレジェンド・ミュージシャン(ハスカー・ドゥのメンバーなど)から直接譲り受けたという凄まじい代物で。「これを素材に使えないか?」という話からスタートしました。実際の紙のフライヤーを服に貼り付け、洗濯しても落ちないように透明な樹脂でコーティングするテストを重ねたりしました。さらに堀内くんが買い付けで集めてきた当時のバンドパッチや、「リールー」でストックしていたプリズナー(囚人服)のセットアップ、ビンテージジャケットなどの古着を支給してもらい、僕がDIYでハードコア・パンクのリメイクを施して行きました。なので必然的にすべて一点物のカスタムコレクションになりました。
堀内:最初に末安さんから仕上がったジャケットの写真が送られてきた時、言葉を失うほど感動しました。単なるパンクリメイクではなく、末安さんの圧倒的なセンスやバランス感覚が加わっていて。安全ピンの曲げ方や、曲げたピンにピンを通してチェーンをつなぐ細かい手法など、やりすぎず少なすぎない完璧な配置に圧倒されました。
WWD:確かに、カスタムなのに一目で「キディル」とわかるデザイン。他のイチオシアイテムは?
末安:僕は一番最初に着手したジャケットも思い入れがありますが、実はこの「リールー」のオリジナルロゴTシャツをカスタムした一着がすごく気に入っています。堀内くんがお店用に作ったオリジナルTシャツを僕にプレゼントしてくれたのですが、「せっかくもらったからカスタムしてみよう」と思って(笑)。穴あき加工やパッチを施したらすごく可愛く仕上がりました。
堀内:僕はやっぱり最初に作っていただいたビンテージジャケットですね。あの写真を見た時の感動は忘れられません。
「初期衝動」と「デザイナーとしての葛藤」
そして「脱構築(DECONSTRUCTION)」
WWD:カスタムコラボを通じて、普段の「キディル」の服作りとは違う感情や気づきはあったか?
末安:普段の「キディル」は生地からオリジナルで作り、工場さんに縫製をお願いしています。でも今回のコラボは、すべての工程を自分の手とミシンで仕上げました。それはまさに、僕がまだ何者でもなく、工場も見つかっていなかったブランド1年目の頃、自分の手だけで服を作っていた感覚そのものでした。技術も何もないけれど、情熱と行動力だけで作った「初期衝動」の服って、何にも勝るかっこよさがあるんです。デザイナーとして20年近く経験を積み、技術も高まって巧みに服を作れるようになってしまったからこそ、「あの1年目の初期衝動で作られた荒削りなカッコよさを超えられない」という葛藤と常に戦っています。だからこそ、自分の手でミシンを踏んだ今回の制作はすごく楽しかったですね。
堀内:僕もお店を始めた当初は一人で、自分が好きでカッコいいと思うものだけを売って一人分の給料が出ればいいという感覚でした。でも今は店舗も増え、従業員も抱えるようになり、経営者としての視点やバランスを考える場面が増えました。ビジネスやお金のことを考えず純粋な好きだけで走っていた昔の熱量を思い出すと、末安さんの「初期衝動との戦い」というお話にはすごく共感します。
WWD:今回のコレクションのタイトルと、そこに込めた思いは何か。
堀内:今回のコレクションタイトルは「DECONSTRUCTION(脱構築)」と名付けました。単なる「リメイク」や「再構築」ではなく、古着やカルチャーの歴史を理解した上で、固定観念にとらわれず新しくカッコいいものとして生み出していくという意味を込めています。近年、ビンテージ市場の価格が高騰し、投機目的や「高価だから買う」という風潮も一部で強まっています。しかし、ビンテージの本当の良さは、洗練されていない当時の適当さや、そこから生まれる圧倒的な格好よさ、そしてカルチャーそのものにあります。「古着しか買わない人」も「新品しか買わない人」が新しいファッションの楽しさに気づくきっかけになってくれたら、これ以上に嬉しいことはありません。