PROFILE: 松原賢一郎/吉田取締役開発本部長

吉田カバンの4代目として2020年に現職に就任した吉田幸裕社長は、11年から吉田で働き始める前から、職人たちとモノ作りを続ける家族の姿を見てきた。およそ40年吉田を見続けた幸裕社長にとって、吉田は何を守りながら、どう進化しているように見えてきたのか?また何を守り、どう変革を促すことで100周年に向かっていくのか?新しい時代の社長として、そして4代目としての思いを聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2025年12月22日&29日合併号からの抜粋です)
WWD:4代目として吉田の新社長に就任したのは2020年、コロナ禍に突入した非常に厳しいタイミングだった。
吉田幸裕・吉田社長(以下、吉田):人も動けず旅行にも行けない、非常に厳しいときだった。当時は、「1個作ったらいくら」の世界で仕事を発注している協力工場の職人さんに申し訳ない気持ちでいっぱい。ただ毎年恒例の職人さんへの年末のあいさつ回りの最中、私に駆け寄り、「縫い方を変えたら、“タンカー”の前ポケットがこんなにキレイに縫えた。時間があるから試行錯誤できる。カバンは、もっと良くなる」と興奮気味に話してくれた職人さんに出会い、本当にうれしかった。プロは、再開に向けて準備を進めている。だからこそ私たちが受け身ではダメ。ポジティブに「もっといいカバンを作る」を考え直す大きな契機になった。それまでは良くも悪くも順調だったので、良いカバンを作るという“らしさ”は発揮できていたが、さらに技術を上げつつ、買いたくなるストーリーなどを客観的に考えるきっかけになったと思う。
カバンの枠は超えないけれど、
カバンの枠は広げてきた
WWD:吉田の“らしさ”とは?
吉田:モノ作りに対して誠実な中で、粋な、遊び心を持っている点。奇をてらうデザインではないが、世の中にありそうでないものを業界の常識に縛られず考えられる力。長い歴史を経ているからこその引き出しがあって、真面目だからこそ茶目っ気や江戸の粋が光る点ではないか?作る人間も、売る人間もカバンが大好きで、企業やブランドをどうしたら継承できるか?を考えている。非効率でも現場に行ったり、今年の90周年の展覧会などもあまり他人に任せずに一緒になって取り組んだりすることも特徴だろう。先代から「投資は、職人が携わる箇所が最初」と学んだので、自分たちでやる部分が多く、結果“血が通っている”のも吉田“らしさ”。自分たちが携わっているものを可能な限り最後まで見届ける姿勢は、昔から変わっていない。企業という形になりつつあるが、商店の良い部分を大事にしている。「カバンを床に置いたり、またいだりしない」など、細かな日常にもいろんなストーリーがあって大事にしている。
WWD:モノ作りに対して誠実なのは、浅草橋に拠点を構えてきた同業他社のバッグメーカーも同様だった。とはいえ吉田とは対照的に、勢いを失った企業も多い。
吉田:カバンの枠は超えないけれど、モノ作りはもちろん、売り方や発信の仕方などにおいて、カバンの枠を広げていけたのは大きかったと思う。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。
