新デザイナーによる新しいコレクションが目白押しの2026年春夏パリ・ファッション・ウイークで、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の「ディオール(DIOR)」が先陣を切った。メゾン史上初めてメンズとウィメンズの双方を手掛けることにジョナサンは米「WWD」に向けたプレビューの中で、「メンズとウィメンズの服を自由に組み合わせられるようにしたい。大切なのは、服を楽しむこと」と話したという。
ジョナサン・アンダーソンの「ディオール」早くもお披露目 自身のキャリアとメゾンの歴史が出合い、交わる序章
その言葉通り、ウィメンズ・コレクションには6月に発表したメンズとの共通点がいくつも。1つのスタイル、1つのビジョンで「ディオール」は新たな道を進む。
「ディオール」において最も大事なバージャケットは、無論メンズとウィメンズの共通点だ。クリスチャン・ディオール(Christian Dior)が1947年に発表したニュールックの根幹を成す、砂時計のシルエットをしたジャケットは再び、ツイードの身頃とサテンのピークドラペルで形作ったが、ウィメンズではほんのりとゴールドに輝くスパンコールをのせている。またメンズではディオールが48-49年秋冬のオートクチュールコレクションで発表したドレス“デルフト”のドレープにインスピレーションを得たカーゴパンツを合わせたが、ウィメンズでは同素材のプリーツのミニスカート。とはいえ、その“デルフト”カーゴパンツもランウエイに現れた。構築的な“シガール”のシルエットはレースで。ジョナサンの「ロエベ(LOEWE)」時代のクリエイションも思い起こさせる。ブラウスのリボンはウィメンズでは小さくしたりカスケード状に重ねたり、ポロシャツやデニムはパステルカラーに、マントには甘く編んだニットで作るショート丈のケープタイプも加えたりと、メンズ・コレクションで発表したアイテムの派生系やアニメーション(拡張)は、これまでの「ディオール」には存在し得なかった、大きな特徴だ。
もちろん、クリエイションに関するアプローチもメンズとウィメンズで共通だ。バージャケットにカーゴパンツやマントにデニムなど、メンズ・コレクションで色濃かった日常生活に根ざしたラグジュアリーや、ラグジュアリーに仕上げたステイプル(普遍的な定番品)という哲学は、ウィメンズ・コレクションでも貫かれている。大きなリボンをあしらったデニムシャツやカーゴタイプのミニスカート、ドレスシャツの前立てを移植したかのようなニットは代表例。圧巻は、モダールのような素材を使ったジャージーで作ったドレスの数々。極細の糸を使って編み上げた素材は艶やかな光沢を放ち、プリーツを寄せたり、リボンを作ったり、ドレープを刻んだりもできる。上述のマントはもちろん、腰の周りに大きなバッスルを入れたドレープドレスまで作れるのだから驚きだ。しかし腰回りに幾重ものプリーツを寄せた同素材のパンツは、まるでスエットのように心地よさそうでインティメイト(親密)なのに優雅にも仕上がっている。ミニ丈への傾倒も含め、リアリティや実用性を意識しながらカジュアルとイヴニングを交差させたクリエイションは、これまでの「ディオール」には珍しいアプローチであり、新時代におけるラグジュアリーの新しい定義になりそう。ジョナサンは、「若い世代は、こうした要素に興味を持つもの。(これまでの優雅なイヴニングと、新しいリアリティのあるカジュアル)どちらも共存できる」と話したという。
バッグでは、中央にレザーのミニリボンをあしらったワンハンドルのバッグをプッシュしている。また、メゾンが“カナージュ”と呼ぶステッチを強めに加えることで生地に凹凸をもたらしたチェーンハンドル、大文字と小文字を組み合わせる形に変更した「Dior」のロゴをあしらったスエードのショルダーなどが登場した。シューズは、歩きやすいキトゥンヒールが豊富。クリスチャン・ディオールが愛したというバラの花のコサージュを中央にあしらったり、反対にジョナサンのユーモアを効かせたアッパーからウサギの耳のような飾りが覗くタイプまでが揃う。
最後にショーのオープニングについて言及したい。舞台の中央に設けた逆三角形のピラミッドには、アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)の映画「めまい」の場面を挿入しながら、創業者はもちろん歴代のデザイナーの活躍をとらえたムービーを投影した。華やかなラグジュアリーの世界において、正直少しおどろおどろしい幕開けだった。そして「Do you dare enter…the House of Dior?」、「あなたは、『ディオール」というメゾンに、足を踏み入れる勇気がありますか?」というフレーズを投げかける。ジョナサンは、「誰もが意見を持っている。騒がしいけれど、このブランドに関わった人たちは皆、そうした意見の嵐に巻き込まれてきた」と話し、特に同郷のジョン・ガリアーノ(John Galliano)への敬意を寄せた。確かにコレクションでも、ガリアーノが多用した、鏡のの中に「CD」の文字を入れたモチーフなどが見て取れた。連打した帽子も“ガリアーノ風”だ。ジョナサンは、ガリアーノを含む歴代のデザイナーたちを踏まえ、「最初は驚愕するかもしれないが、やがて魅力に気づくだろう」という。ヒッチコックの映画は、「驚き」が「魅力」に変わる象徴なのかもしれない。一方で映像は、「ディオール」を再び活性化させようとする彼の思いのメタファーでもあると言う。「人生でこれほどのプレッシャーを感じたことはない。以前は『ファッションが好き』なことがファッショナブルだったが、今は『ファッションを壊す』ことがファッショナブルなんだから」とジョナサン。「あなたは、『ディオール」というメゾンに、足を踏み入れる勇気がありますか?」とは、「ディオール」を、そしてファッションの世界を、敬意を表しながらも破壊的に確信し続けるジョナサンの決意表明なのだろう。