アンドエスティHD(旧アダストリア)が社名変更するとともに持ち株会社制に移行し、9月1日に新体制がスタートした。2026年2月期上半期(25年3~8月)は、連結売上高は過去最高を記録したが、営業利益は2割近い減益となった。当初から減益計画だったとはいえ、それに対しても約7億円の未達となった。基幹ブランドの「グローバルワーク」が振るわず、在庫消化のための値引きなどによる売上総利益率の低下が主因だった。肝煎りだった米アパレル「フォーエバー21」のライセンス事業や、イトーヨーカ堂向けの「ファウンドグッド」など新規事業の撤退のニュースも重なった。
MDの早期修正に課題
福田泰己専務は減益要因について「一番大きいところは、アダストリアの単体における売上総利益率の低下。その主因は値引き率が大きくなってしまったことだ」としたうえで、「『グローバルワーク』や『ニコアンド』といった大型のブランドの夏物の苦戦を受け、値引き率がわれわれの想定以上に大きくなったこと。これが全体で1.0%ほど売上総利益率を押し下げた」と説明する。
また「なかなか値上げは難しい環境下でも、原価低減に努めることで、売上対比で0.4ポイントほどの押し上げ効果があった。(他社ブランドの取り扱いなど)オープン化よるモール収益による押し上げもあった」とポジティブな要素も指摘した。
今後は「お客さまのニーズを捉え、IPコラボも含め、単価を引き上げることに努める」とともに、為替レートについては「上期の147円のセットに対して、141円で予算が組めている。ポジティブに2%弱の粗利益率改善を図っていきたい」と語る。
中核会社であるアダストリアの北村嘉輝社長は商品の的中度を高めるために、「計画生産でリードタイムを持ってプロダクトプロモーションを行っているが、半年から10カ月前からオーダーするため、お客さまのニーズとのアンマッチが起こり、修正に時間がかかってしまう。MDによる品ぞろえのため、前年踏襲型になりがちで、お客さまからの飽きも生まれるなど、新しいものがつくりきれていないところもある。生産の仕組みを変え、計画生産だけでなく、小刻みに足りていないMDをQR(クイックレスポンス)生産する仕組みを埋め込んだ形に変えていきたい」と商品調達の構造改革に着手する。
「フォーエバー21」「ファウンドグッド」の撤退について、アンドエスティHDの木村治社長は「『フォーエバー21』は(本国である)米国の会社が倒産し、MDの提供がなくなったところが一番大きかった。われわれは国内で展開してきたが、国内のお客さまのニーズに合うような商品のマッチができなかった。もう少し修正時間があればというところはあったが、早めの撤退を決断した」という。
また「『ファウンドグッド』に関しては基本的には26年2月末までの契約終了というところもあるが、イトーヨーカ堂側の要望もあり、本来はもう少し長くやれたのかなと思うが、状況が変わったのが一番大きかった」とイトーヨーカ堂の衣料品撤退・食品強化の影響を受けたものだと説明した。
「新規事業に関してはもちろんいくつか進めているところもあるし、ブランド内での新ブランドも動いているところもある」としつつ、「ただ、われわれは結構早い判断をしていきたいと思っているので、投資の選択と集中は早めにしたい」と付け加えた。
アンドエスティの会員数2070万人に
アンドエスティHDの25年3~8月期は売上高1493億円(前年同期比3.6%増)、営業利益79億円(同19.4%減)、経常利益77億9円(同24.3%減)、純利益59億円(同13.7%減)となった。
アパレル・雑貨関連事業の売上高は1414億円(前年同期比3.0%増)、セグメント利益は77億円(同26.8%減)となった。国内売上高は4月の低気温などの影響で夏物衣料の動き出しが遅かったが、カジュアルファッション需要が底堅く推移した。マルチブランド・マルチカンパニー戦略による多様な商品展開や、テレビCM、ポイント還元などのプロモーションの結果、前年同期比2.9%の増収となった。M&Aで昨年7月からグループ入りしたトゥデイズスペシャルとジョージズの2ブランド分の売り上げ、収益がプラスオンとなっている。
収益面では、春夏物衣料の正価販売が想定を下回り、在庫消化を優先した結果、アパレル・雑貨関連事業の売上総利益率は55.2% で前年同期から0.5ポイント悪化した。円安が続く中でも「適時・適価・適量」の商品提供による在庫コントロールと値引き販売の抑制に努めた。高収益な新規事業も拡大した。
プラットフォーム戦略では、自社EC「アンドエスティ(and ST)」とリアル店舗で連動したプロモーション施策や、人気キャラクターや人気スタッフとのコラボ商品の展開、他社ブランドの出店拡大などにより、and ST会員数は前期末比100万人増の2070万人に伸長した。アクティブ会員数は760万人だった。オープン化(モール型ビジネス)による外部ブランドショップ数は37となり、流通総額は223億円(同15.5%増)となった。自社グループ販売が202億円(同6.6%増)、グループ外販売が21億円(同489.9%増)だった。
海外売上高(円換算)は、124億円(同3.9%増)となった。中国大陸では従来の旗艦店を中心としたドミナント展開から戦略を切り替え、コストを抑えた標準型店舗の出店とECとのクロスチャネル戦略が好調に推移。売上げは22億円(同期4.0%増)となった。香港と台湾ではマルチブランド戦略による新規出店とECが引き続き好調に推移し、香港は22億円(同2.6%増)、台湾は42億円(同18.0%増)に。戦略エリアと位置付ける東南アジアでは、タイに続きフィリピンに出店した。
一方、撤退する米国事業では、事業子会社(孫会社)のベルベット(Velvet,LLC)は25年7月25日に出資持分の譲渡が完了している。卸売事業は不振が継続し12.0%の減収だった。持分譲渡に伴う影響は、26年2月期第3四半期に計上する予定だ。
期中は56店舗の出店(うち、海外17店舗)、19店舗の退店(うち、海外4店舗)を行い、8月末の店舗数は1594店舗(うち、海外152店舗)となった。
その他、飲食事業は売上高79億円(前年同期比14.6%増)、セグメント利益は1300万円(前年同期はセグメント損失3億2800万円)となった。原材料価格や光熱費の上昇、人手不足など厳しい経営環境が継続しているものの、既存店の堅調と決算期変更の影響や海外を含む新店の純増で増収となった。期中は2店舗出店、3店舗退店し、75店舗となった。
主要ブランド・地域・子会社の売上高では、同社トップの基幹ブランドである「グローバルワーク」は260億円(前年同期比1.9%減)と苦戦。「ニコアンド」177億円(同1.3%増)、「スタディオクリップ」121億円(同4.4%増)、「ローリーズファーム」121億円(同4.4%増)、「レプシィム」87億円(同16.5%増)、「ラコレ」72億円(12.8%増)だった。子会社では「カレンソロジー」「カオス」などの高感度セレクトショップを手がけるエレメントルールが67億円(同11.3%増)で2ケタ増。BUZZWITは55億円(同1.2%増)だった。
2025年4月に発表した「中期経営計画2030」に基づき、アンドエスティを中心としてグループ各社がシナジーを創出し、お客様や外部パートナーを巻き込みながら輪を広げていく「Play fashion!プラットフォーマー」への進化を図る。2030年2月期に連結売上高4000億円、連結営業利益率8%、「and ST」流通総額1000億円を目指す。26年2月期の連結業績は売上高3050億円(前期比4.1%増)、営業利益190億円(同22.5%増)を予想する。