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「サーデイヴィス」開発責任者が“ウイスキー界のデヴィッド・ボウイ”と呼ばれたワケ

PROFILE: ビル・ラムズデン/「グレンモーレンジィ」「アードベッグ」最高蒸留・製造責任者

ビル・ラムズデン/「グレンモーレンジィ」「アードベッグ」最高蒸留・製造責任者
PROFILE: 1995年、蒸留所のマネージャーとしてMHD モエ ヘネシー ディアジオに入社。98年から現職。モルト・アドヴォケート・アワードの「インダストリー・リーダー・オブ・ザ・イヤー」を3回受賞した唯一のウイスキー・クリエイター

“稀代のイノベーター”や“樽の魔術師”――ウイスキー・クリエイターとして異名をほしいままにするビル・ラムズデン(Bill Lumsden)博士が来日した。「グレンモーレンジィ(GLENMORANGIE)」「アードベッグ(ARDBEG)」「サーデイヴィス(SIRDAVIS)」の開発責任者として業界をリードする氏は、どのような人物なのか。1周年を迎えた「サーデイヴィス」の開発秘話と共に話を聞いた。

ウイスキー業界に入るまで

WWD:スコットランドの西部に生まれたと聞いた。どのような地域だったのか。

ビル・ラムズデン「グレンモーレンジィ」「アードベッグ」最高蒸留・製造責任者(以下、ラムズデン):スコットランド西部のグリーノックに生まれた。造船業で栄えた街だ。そんな歴史もあってか、私の周りもブルーカラーの仕事に就く人が多かった。その多くが16歳で学校を中退している。

そんな中、私は大学へ進学した。(辿れる限り)うちの家系で初めてだった。ウイスキーと出合ったのもこの頃。これを話すと「ご冗談を」と言われるが、人生で初めて飲んだウイスキーは「グレンモーレンジィ」だった。それから40年。今でもウイスキー業界にいて、ウイスキーを作り続けている。

WWD:スコットランドはウイスキーの世界三大産地だ。

ラムズデン:スコットランド人の中には毎日飲んでいる人もいるだろう。私の家族も例に漏れず、みんなウイスキーを嗜んでいた。

特に、私の世代より若い世代の方がウイスキーに親しみがあると感じている。これはメディア露出の増加によるものだろう。この状況、つまりウイスキーを作っている人がメディアと話すなんてかつては考えられなかった。

WWD:大学卒業後、すぐにウイスキー業界に足を踏み入れたのか。

ラムズデン:博士号取得のため、スコットランドの首都エジンバラにあるヘリオット・ワット大学に進学した。醸造学と蒸留学で知られる大学で、私もそれらを学んだ。ある日、私のことを気に入ってくれた教授が、スコッチウイスキー界のベテランを紹介してくれた。このような縁があり、業界に足を踏み入れた。

WWD:もし別の道を選んでいたなら。

ラムズデン:ファブリックの世界も興味深い。私が「ミッソーニ(MISSONI)」が好きなのも、ファブリックの美しさから。タータンに代表されるように、スコットランドには織物の文化が根付いているからかな。

私は裕福な家系の出ではない。そのため、自立してからは買い物依存症のようにショッピングを楽しんだよ(笑)。7歳下の妹も同じ症状だった。

ウイスキーの開発者として

WWD:ウイスキーの開発者はどのような毎日を過ごしているのか。

ラムズデン:社内外のメールに返信をしたり、会議をしたり、試飲をしたりは毎日のルーティーンだが、“通常の1日”はない。スコットランドの蒸留所で現場仕事をする日もあれば、東京や大阪で人前に立つ日もある。「サーデイヴィス」の開発のため、(ビヨンセ・ノウルズ・)カーター氏と打ち合わせすることも。違う毎日を送れることは本当に楽しい。

WWD:開発者の仕事は多岐に渡る。必要な素質はあるか?

ラムズデン:当たり前だが、第一にウイスキーが好きであること。意外に思うかもしれないが、面接時に「ウイスキーはお好きですか?」と聞くと言葉を濁す人もいる。

私のような開発者になろうと思ったら、化学の知識は一通りあった方が良い。さらにトップまで上り詰めようと思ったら、クリエイティビティーとオープンマインドを備えることも。また、今や開発者はPRの仕事も担う。ユーモアを交えながら人前で話せなければならない。

WWD:ウイスキーを作る際の“クリエイティビティー”とは何を指すのか。

ラムズデン:例えば、東京での体験に着想した“グレンモーレンジィ トーキョー(GLENMORANGIE TOKYO)”や、コーヒー豆を焙煎した“グレンモーレンジィ シグネット(GLENMORANGIE SIGNET)”。これらが体現しているように、さまざまな場所を訪れ、さまざまな物を口にし、目にした色でさえインスピレーション源にする。(開発時は)必ずしもロジカルに考えなくて良い。熟成年や用いた樽だけでなく、クリエイティビティーもウイスキーの魅力になる。

私はコントラリアン(Contrarian)だと思う。みんなが履いているからという理由で、同じスニーカーを履きたくない。「ミッソーニ」が好きなもう1つの理由も、トレンドとして消費されるブランドではないから。

WWD:毎日が新作開発の糧になっている。職業病はあるか。

ラムズデン:プライベートでも細部にこだわりを持つ。ネクタイは、色ごとにそろえて収納していないと落ち着かない。庭から家へ戻るときは、行きと同じルートを通らないと気がすまない。こんな感じだから、我が家は生活感がまるでない(笑)。また、分かりやすいところだと、ウイスキーを飲んだ時は「私だったらこうする」と考えてしまうことかな。

WWD:“稀代のイノベーター”や“樽の魔術師”など、さまざまな呼ばれ方をしていることについては。

ラムズデン:大変光栄だ。中でもうれしかったのは、スコッチウイスキーを支えてきた人たちで成る団体「ザ・キーパーズ・オブ・ザ・クエイヒ(THE KEEPERS OF THE QUAICH)」から言われた“ウイスキー界のデヴィッド・ボウイ”。デヴィッド・ボウイは、音楽スタイル、ヘアスタイルやファッションまで“変わる”ことに長けた人。私自身が目指す姿と重なり、とても光栄だった。

WWD:ご自身でニックネームを付けるなら。

ラムズデン:“楽しい(Joyful)人”として記憶されたい。「ビル・ラムズデンは何を成し遂げたのか」という問いに、「人々を笑顔にした」と答えてもらえるような。

ビヨンセと協業した「サーデイヴィス」が1周年

WWD:「サーデイヴィス」の開発を振り返って。

ラムズデン:キャリアの中でもトップレベルの難易度だった。1つ目の理由は、スコッチウイスキーから離れたアメリカンウイスキーであったから。そして、世界的な大スターである(ビヨンセ・ノウルズ・)カーター氏との協業だったから。初めてお会いしたとき、彼女はチャーミングでエレガント、そして親切だったことを覚えている。おかげで私の緊張もほぐれた。

この会合の前に、少し下調べをした。彼女がウイスキー愛好家で、中でもサントリーの“山崎”がお気に入りであることを知った。つまり、彼女はスムースな味わいのウイスキーが好みだった。一方、カーター氏は米国出身なので、アメリカンウイスキーを作りたかった。でも、アメリカンウイスキーはパワフルな味わいが特徴だ。カーター氏好みのスムースさを出すには、全く新しいウイスキーを作る必要があった。

「サーデイヴィス」は、マッシュビル(穀物の配合レシピ)が珍しい。ライ麦を51%、大麦を49%配合している。ライ麦でアメリカンウイスキーらしいパワフルさを、大麦でカーター氏が好むスムースさを出した。これらを提案したのは私だが、選んだのはカーター氏。まさに“ビヨンセのウイスキー”だと言えるだろう。

WWD:おすすめの飲み方を教えてほしい。

ラムズデン:一番はオンザロックスタイル。特に日本の丸氷がぴったり。

WWD:「サーデイヴィス」の反響を教えてほしい。

ラムズデン:市場からの反響はとても良く、絶えず供給するのが大変なくらい。そして、カーター氏にも非常に満足していただけている。

「サーデイヴィス」はカテゴリーとしてはアメリカンウイスキーだが、その配合レシピゆえ、アメリカンウイスキーの愛好家は「これはライウイスキーなのか」と疑問を抱くことだろう。しかし、カーター氏自身のように、「サーデイヴィス」は特別なウイスキー。“通常のアメリカンウイスキー”でないことを今後はしっかりと伝えていきたい。

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