世界的デザイナーのジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)が4日死去した。同氏は、ライセンシーであるロレアル(L’OREAL)と共に、フレグランスとメイクアップ、スキンケアから成るダイナミックなコスメティックブランドを築き上げた。洗練とシンプルさを融合した独自のスタイルは、ビューティ業界に消えることのない足跡を刻んだ。
1980年代から続くロレアルとの協業
「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」は、1988年からロレアルとライセンス契約を結んでいる。アルマーニは91歳でミラノにて逝去するまでブランドを育て続けた。このライセンス契約は、アルマーニ グループのポートフォリオにおける初期の契約の1つであり、2018年には50年まで延長することを発表している。
ロレアルのジャン・ポール・アゴン(Jean-Paul Agon)会長とニコラ・イエロニムス(Nicolas Hieronimus)最高経営責任者(CEO)は共同声明で、「ジョルジオ・アルマーニは間違いなく過去100年で最も偉大なクリエイターの1人だった。彼は唯一無二でタイムレスなファッションを生み出しただけでなく、今日知られる世界有数のクチュールおよびラグジュアリーメゾンを築いた卓越した起業家でもあった。ひらめきと知性にあふれ、先見の明があると同時に、魅力的でユーモアに富んだ人でもあった。私たちは共に世界で最も魅力的で憧れられるビューティブランドの1つを築き上げた。アルマーニ氏の遺産を守り、その精神を継承していくことを約束する」と述べた。
メンズ香水が一躍ヒットし地位を確立
「ジョルジオ アルマーニ」がビューティ分野に初めて参入したのは、1982年にウィメンズフレグランス“アルマーニ”を発売した時で、それに続いて84年にメンズフレグランスを発売した。アルマーニ自身がデザインした角張った形状の香水瓶は、彼の幾何学的なデザインへの嗜好を反映していた。96年に発売したメンズフレグランス“アクア ディ ジオ”は世界的なヒットを記録し、長年にわたりメンズフレグランスの世界市場でトップ3の座を維持している。 同製品はマリンノートの香りが新たなトレンドを作り、ラリー・スコット(Larry Scott)を起用したキャンペーンビジュアルは象徴的なものとなった。2000年代はメンズフレグランス“アルマーニ コード”やハイエンドコレクション“アルマーニ プリヴェ”を発売。いずれもその後、ラインアップを拡大している。
待望のメイクアップ発売とスキンケアへの拡大
01年秋には、待望のメイクアップラインを発表した。洋服と同様、洗練されたミニマルなデザインが特徴だった。アルマーニは当時、米「WWD」の記事で「洗練さとラグジュアリーを兼ね備えた特別なメイクアップラインを創りたかった。それは私のファッションの延長であり、補完でもある。コスメラインは『ジョルジオ アルマーニ』のライフスタイルと完全に調和する」と語っている。メイクアップラインはメイクアップアーティストのパット・マクグラス(Pat McGrath)との共同開発により誕生し、139SKUのアイテムをそろえた。中でもパウダーとリキッドの両方を展開した“ルミナス シルク”ファンデーションは、ブランドの代名詞となった。メイクアップラインの発売は、フレグランス主体だったビューティ事業を次の段階へ押し上げる転機となった。「アルマーニ ビューティ」のメイクアップのカラーバリエーションは、フレッシュなヌードカラーから洗練された色合いまで幅広いのが特徴だ。特にファンデーションは、透明感のあるフォーミュラと軽やかで柔らかな使用感で知られる。
07年にはスキンケアシリーズ“クレマ ネラ”を発売。スキンケア分野に参入した。同シリーズは、シチリアのパンテレリア島産の黒色火山岩に含まれるミネラル複合成分を配合した革新的な処方が注目を集めた。パンテレリア島はアルマーニ自身が泥風呂の肌に与える効果を目の当たりにした地だ。その後、“スキン ミネラルズ フォー メン”を発表。男性向けスキンケア市場にも進出した。同シリーズはその後も拡大を続けている。
「アルマーニ ビューティ」の進化
「アルマーニ ビューティ」は時代を超越しながらも、常に時代の潮流と調和している。近年は、ウィメンズフレグランスの“シィ”や“マエストロ ファンデーション”などのヒット製品を生み出し、俳優のケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)やニュージーンズ(NewJeans)改めNJZのハニ(Hanni)など世界的に著名なブランドアンバサダーを迎え、成長し続けるグローバルブランドへと変貌を遂げた。そして現在はロレアルの“ビリオネアブランド”の一角を占めるまでに成長した。ケイト・ブランシェットは次のように追悼している。「アルマーニ氏は、ファッション、アート、映画、演劇、建築、デザインの世界にとどまらず、彼に影響を受けた何百万もの人々の心にも埋めることのできない空白を残した。彼は巨人であり、王であると同時に、思慮深く、自らが手を動かす実直な職人でもあった」と述べた。
24年1月まで「アルマーニ ビューティ」のグローバル プレジデントを務めたヴェロニク・ゴルティエ(Veronique Gaultier)は、「13年間アルマーニ氏と共に働けたことは、特権という言葉では言い足りないほどだ。香りと美容を真に理解する人であり、先見の明に満ちたアプローチを持っていた。トレンドになるはるか前から、彼はシンプルさ、内面の美しさ、静かな自信を提唱し、象徴的な製品を形作る独自のビジョンを創り出した。エレガンスとは目立つことではなく記憶に残ることという彼の言葉は強力な指針になる。彼は自身のブランドを超えて、ビューティ業界全体の基準を高め、計り知れない遺産を残した」と述べた。
映画界とのパートナーシップ
「アルマーニ ビューティ」は長年にわたり映画界とのパートナーシップを続けており、昨年はヴェネツィア国際映画祭に参加する若手俳優たちの舞台裏を捉えたショートドキュメンタリー“A Few Days in Venice”を制作し公開した。8年連続で公式ビューティスポンサーを務める同映画祭では今年、メゾンの創立50周年の記念事業としてヴェネツィア ホテルを借り切り、俳優やクリエイターが集うためのイベントスペース「ジョルジオ アルマーニ シネマ クラブ」を設置した。「アルマーニ ビューティ」はさまざまなプロジェクトを通じて映画界との絆を強化している。同映画祭では、新たな才能に焦点を当てたコンペティション部門「スポットライト」において、観客が最優秀作品を選ぶオーディエンス・アワードを支援している。 また、ルーマニアのトランシルバニア国際映画祭とも提携し、ビューティの表現を拡張し続けている。