ファッション

「ERL」が初のショーで描く2176年の不良たち 若きロマンチストが見せた意外な素顔

ロサンゼルス発のメンズウエアブランド「ERL」が、イタリア・フィレンツェで 2024年春夏コレクションを6月15日(現地時間)に発表した。メンズ見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」にゲストデザイナーとして参加し、同会場のインスタレーションを手掛けると共に、ブランド初となるランウエイショーを開催した。今、最も注目を集めている若手デザイナーの一人である32歳のイーライ・ラッセル・リネッツ(Eli Russell Linnetz)は、初の大舞台を「映画製作のアイデアが出発点。衣装や小道具を作って本当に映画を製作しているみたいだったよ」と振り返る。

不良少年たちの見る夢

「ERL」が描く物語の舞台は、2176年のフィレンツェだ。小道具の新聞紙には、海面の上昇で水没した街に、カリフォルニアのサーファーが波を求めて集まったという記事が掲載されている。ある晩、彼らは大使館で開かれる舞踏会に忍びこむため、大使の自宅で洋服やジュエリーを漁り、裕福な子供に扮装する計画を立てた。コレクションは、そんな借り物の衣装をまとう、フィレンツェで波乗りを楽しむヤンチャな未来のアメリカ人サーファーたちをイメージしている。

序盤は、ウエットスーツのようにタイトなトップスや、アルミニウムのテープを編み込んだニットウエア、ミラーボールのように輝くワイドボトムスを身に着けた、小麦肌にブロンドの若者が蛍光グリーンのランウエイを意気揚々と歩く。シルクタフタの襟の高いシャツや、ジャガードのタキシード、着物風ルックは「大使の自宅には、ローマや日本の遺産もあるんだ」というイメージのようだ。

ゴーグルのようなフォームの未来的なサングラスと、1990年代風のシュータンが分厚いスケートスニーカーは、初めてオリジナルで制作したアクセサリーだ。借り物ゆえにブカブカのスーツに、ギラギラときらめくキッチュな生地が、大人を気取った若者たちの未完成な魅力を表現していた。

“見せかけ”への皮肉を込めて

一見すると遊び心に満ち溢れたコレクションだが、リネッツは「かなりシリアスになって、制作に没頭したんだ」と明かす。イタリアで最も古いオペラ座の一つであるペルゴラ劇場の衣装製作チームの協力を得て、手作業でビーズや刺しゅうの装飾を施し、彼らが持つアーカイブからも多くのインスピレーションを得たという。大使の宝飾品を無作為に重ね付けしたようなクリスタルのジュエリーは、ヴェネツィアを拠点にするジュエラーのトム・ビンズ(Tom Binns)とのコラボレーションだ。ハリウッド映画で小道具を製作する職人とともに手作りしたというシルクハットやヘッドホン、バッグといった小道具も、時間軸を曖昧にしたSF映画風の物語の中で重要な役割を果たしていた。

ランウエイで大勢の目を引いたのは、自由の女神像に扮したルックだろう。「僕は皮肉っぽいものが大好きだから」と笑うリネッツ。さらに「自由の女神像は、アメリカを象徴するランドマークなのに、実はフランスから寄贈されたもの。アメリカのシンボルでさえ自国で作ったものじゃないっていうのが、皮肉的で面白いと思ったのさ」と続けた。

テーマである“Make Believe(見せかける)”は、大人を装った若者という物語の主人公と、自国に対してシニカルな視線を向けるアメリカのユースカルチャーを投影しているのだろうか。また、人間と猿が支配権をめぐって衝突する映画「猿の惑星」にも着想を得たという。そのイメージは、ピッティ会場に設置した自由の女神像のインスタレーションともリンクする。「現在は、何が現実かを見分けるのが難しい。だから、現実と衣装の境界線を曖昧にしたコレクションにしたかったんだ。非現実的な物語に込めたのは、ディストピア(反理想郷)な未来。僕は、混沌とした外の世界に何かを求めるのではなく、バブルの中で一人、自分だけを信じているのさ」。

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