※この記事は2023年04月07日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
しまむらが2年連続の賃上げを発表しました。正社員の賃上げ幅は6.5%(昨年は5.6%)、パート社員は5.2%(同4.6%)。新入社員の初任給も上げており、2023年4月入社の大卒正社員の月給は昨年から1万7600円高い27万3000円となったそうです。
「ユニクロ」「ジーユー」を運営するファーストリテイリングが1月に発表した大幅な賃上げも話題になりました。あらゆる産業が人手不足に直面する中、アパレルや小売業が従来通りの賃金水準のままであれば、優秀な人材は獲得できません。ファーストリテイリングやしまむらのような大手企業が率先して賃金水準を引き上げ、競合他社にも波及していくのが健全な姿でしょう。仕事の生産性を高めて、働く人に還元できるような企業にならなければ、ファッション業界自体に先がなくなります。
一方、「安い日本」との訣別が一筋縄ではいかない現実もあります。
4月2日に放送されたNHKスペシャル「ジャパン・リバイバル “安い30年”脱却への道」は、世界の中での日本の凋落を見せつけられるドキュメンタリー番組でした。
日本の商社マンが小売価格800円のTシャツを作るため、バングラデシュの縫製工場と商談する現場にカメラが密着します。工場側は「1ドル80セント」の金額を提示しますが、商社マンは「1ドル65セント以下」を主張して譲りません。工場側は、欧米に比べて圧倒的に厳しい日本の品質検査を懸念します。作業にかかる手間暇を考えると、日本向けは割に合わないのです。それでも粘る商社マンに彼らはしぶしぶ加工賃を削り、「1ドル70セント」を再提示します。「加工賃は労働者の賃金に直結する」といったナレーションが入ります。
これで決まるのかと思いきや、日本の商社マンは「値下げの余地はもうないのでしょうか」と問い直すのです。結局、商談はまとまりませんでした。別の工場の担当者が「日本はどこよりも安く欲しがる」と嘆くシーンが差し込まれます。
バングラデシュはアジアで最も人件費が安い国です。その国からも「日本の異常な安さ」を指摘される現実は重い。この番組ではアパレルだけでなく、家電、ゲーム、不動産など、多くの産業が30年ものデフレスパイラルのツケに苦悩する様子が紹介されました。ファッション業界というよりも日本全体の問題であり、一朝一夕にどうにかなる話ではありません。ただ、安い人件費と安い商品を前提とした従来のビジネスモデルと訣別しないと先がないことだけは確かです。
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