1. 高島屋・村田新社長 経営者への道を開いたエクセル作成

高島屋・村田新社長 経営者への道を開いたエクセル作成

企業動向 商業施設 キャリア インタビュー

2019/3/19 (TUE) 13:00

 高島屋の新社長に3月1日付で村田善郎氏が就任した。直近では経営戦略部長や企画本部長などの要職を担い、次期社長の本命といわれていた村田氏だが、百貨店マンとして王道のキャリアを歩んできたわけではない。入社後は食品を振り出しに紳士服、リビング、ドイツ事務所、新宿出店準備室、柏店長。その間には労働組合の専従を何度か行き来し、委員長としても活動した。国内17店舗・海外4店舗、営業収益9495億円の百貨店グループを率いることになった村田氏はどんなリーダーなのか。

村田善郎・高島屋社長:1961年10月26日、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後の1985年4月、高島屋に入社。2011年に柏店長、13年に執行役員、15年に常務取締役、17年に代表取締役常務。この数年は経営戦略部長や企画本部長などの立場で、木本茂前社長を支えてきた。19年3月1日から現職 PHOTO:RYOICHI INOUE

WWD:幅広い業務を経験されたようですが、転機になった仕事は何ですか?

村田善郎社長(以下、村田):一つの場所にずっといたくない性分で、若い頃からいろいろな部署を志願してきました。中でも高島店新宿店(1996年開業)に出店準備室のメンバーとして携われたことは、ゼロから新しい店を作るという意味で貴重な体験でした。その20年後に企画・開発の担当役員として、タイ・バンコクのサイアム高島屋(2018年11月開業)や、日本橋の再開発(2019年3月に日本橋高島屋S.C.として全面開業)の大型プロジェクトを進める上で大いに役立つことになります。

WWD:当時は30代半ばですね。どんな仕事をしていましたか?

村田:リビング担当として新宿の商圏を徹底的に調べ上げていました。伊勢丹さんや小田急さんの売り場に何度も足を運び、価格帯やSKU(最小在庫管理単位)を分析し、新参の高島屋が目指すべきMDを考える。高島屋にとって新宿進出は長年の悲願でした。会社は全国から婦人服や特選、食品など各分野のエース級バイヤーを出店準備室に集めました。その中に、何を間違えたか私が呼ばれたわけです(笑)。ペアを組んだバイヤーは他店の売り場の棚を見ただけで、ここの茶碗の単価は何円くらいなので、週にいくら、月にいくら販売し、年間の売り上げはこれだけになると正確に言い当てることができました。優秀な同僚や先輩と一緒に仕事し、得るものは多くありました。営業のイロハは新宿店で学んだと思っています。オープン後はリビング売り場の初代マネージャーに就きました。

WWD:新宿店に携わる前、30歳前後はドイツ駐在ですね。

村田:これも私にとっては転機でした。当時、高島屋はパリに店舗があるのに、(欧州の最大消費地である)ドイツには事務所すらない。私は趣味がクラシック音楽で、ドイツに関心がありました。怖いもの知らずの入社まもない頃、人事部長にドイツ行きを直訴しました。高島屋に入ったからには海外での仕事を経験したいとの思いが強かったのです。1989年にベルリンの壁が崩壊し、東欧が有望な市場として浮上したのを機に、高島屋もドイツ事業所開設が決定。私に声がかかり、90年に赴任しました。今思えばバブルの末期でした。

WWD:ドイツでは何を?

村田:店舗を開いたわけではありません。主な仕事は建装事業。ホテル建設などに伴い、高島屋が内装工事をしたり、調度品を収めたりする仕事です。ドイツや東欧の国々のホテル建設ラッシュを商機にしようと頑張りました。加えて陶磁器の「マイセン(MEISSEN)」や食品の「ダルマイヤー(DALLMAYR)」など、ドイツ製品の仕入れも担当しました。事務所は上司である所長と私、あとは現地採用スタッフの3人。だから何でもやる。しかし奮闘むなしく、日本のバブル崩壊の余波で94年に撤退しました。

労働組合の専従時代に身につけた
経営分析

WWD:若い頃から労働組合の専従も何度か務められて、2011年に高島屋柏店の店長に就任する直前まで委員長でしたね。組合専従や委員長として頭角を現した鈴木弘治会長とも重なります。

村田:そうですね。昨年お亡くなりになった(1987年に創業家以外から初めて社長に就いた)日高啓・元社長も組合の委員長をされていました。高島屋の組合は労使交渉などで経営側と是々非々で意見を戦わせる気風があります。そのために会社の投資能力や従業員への支払い能力を徹底的に分析する。組合専従はある意味、(会社の事業戦略を立てる)経営企画の仕事と共通します。私自身、会社経営の本質を学ぶ訓練になりました。

WWD:組合活動で印象に残る出来事はありますか。

村田:高島屋の組合を離れて、上部組織の商業労連で産業政策局長に就いたことも、転機といえるかもしれません。1998年から2001年にかけて、地方の百貨店が次々に倒れていた頃です。当時は今ほどキャッシュフロー計算書の重要性が浸透していません。経営者がここを理解せずに、黒字倒産したり、資金がショートしたりするケースもありました。ならばキャッシュフロー計算書の見方を地方の百貨店の経営者に教えてあげようーーそんな思い上がったことを考えたのです。

エクセルにPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)の数値を入力すれば、経営状態が一目で分かるようにプログラミングして、地方の百貨店企業に説明に回りました。実際にやってみせて、生意気にも経営者に助言して歩きました。この経験は私にとって大きな財産になりました。それまで社内・社外の組合活動を通じて、店舗が閉鎖される際の従業員の痛みを何度も見てきました。どうにかしたいという思いが強かったのです。

WWD:自分をどんなタイプのリーダーだと分析していますか。

村田:一番得意なのは、エクセルのさまざまな技を駆使しながらキャッシュフロー計算書をプログラミングするような仕事です。一晩中やっていても飽きないし、本当に楽しい(笑)。私は皆をぐいぐい引っ張っていくようなカリスマ型のリーダーではないし、なろうとも思いません。組合の委員長の仕事って、調整役なんですよ。合意形成しながら周囲のモチベーションを高める。もちろん社長として全身全霊で挑みますが、自然体でありたい。

21店舗21通りの「まちづくり戦略」

WWD:新社長として最大のミッションは?

村田:次の時代に向けて道筋をつけることです。百貨店の道筋というよりも高島屋グループとしての道筋でよいと思っています。

WWD:道筋とは、ショッピングセンター(SC)や専門店などの周辺開発で、百貨店を中心にした街の魅力を高める「まちづくり戦略」のことですか?

村田:引き続きまちづくり戦略の旗を振りますが、従来の延長では限界があります。百貨店と専門店の融合と簡単にいうけれど、融合の形は時代で変わります。まちづくり戦略は50年前の1969年に開業した玉川高島屋S・Cが、初めて百貨店と専門店を組み合わせたことから始まりました。延長ではなく、進化させなければいけません。

昨年11月に新館がオープンした日本橋高島屋S.C.の場合、オフィス街だった日本橋に休日でも若いお客さまがたくさん訪れるようなりました。朝7時から営業するカフェやベーカリーは近隣のオフィスワーカーのお客さまでにぎわい、緑豊かな屋上庭園は憩いの場になっています。まちづくりは画一的に考えてはいません。国内17店舗・海外4店舗、計21店舗には21通りのまちづくり戦略がある。さらに今後は専門店だけでなく、ECや金融など、高島屋グループの経営資源を融合させていくことが必要になるでしょう。

WWD:ECにはどう取り組みますか?

村田:現状、利用するお客さまの立場に立ったマーケットインの形になっていません。まずは商品選びから決済に至るまで、お客さまにとってストレスフリーな環境をつくることが先決です。3月1日付で戦略・スキーム構築と施策推進を行うEC事業部を新設して、自社EC「高島屋オンラインストア」を強化する体制を作りました。長期的には子会社セレクトスクエアによるEC「タカシマヤファッションスクエア」と統合する形にもっていきたい。EC売上高は18年3〜11月期で113億円。前年同期に比べて2割ほど増えています。当面は細かい施策よりも、百貨店で扱っている全ての商品をECで取り扱うことを目指します。すでにギフトや食品は相当なレベルになっていますが、問題は消化仕入れのファッションです。百貨店が扱うファッションの50%をECにのせられるようにしたい。EC事業部もセレクトスクエアも30代の若い責任者を抜擢し、固定観念にとらわれず大胆に変えていきます。

WWD:EC強化のためにIT企業のM&Aも視野に入れていますか?

村田:すぐにどうこうはありませんが、ECを組み立てる上で必要性があれば検討します。

WWD:本業の百貨店事業、特にファッション分野が課題ですね。

村田:全体感として高島屋のファッションは弱いと認識しています。なぜ売れなくなったかの分析が甘いのが問題です。社内でも再三話していますが、過去の平米効率や売れ筋データに頼りすぎている。だから改装しても効果が薄い。婦人服や紳士服では私たちの提案とお客さまの間のミスマッチが広がっている。データにとらわれすぎて、販売の現場がお客さまの内なる声に耳を傾け、それをマネジメントが組み立てる仕組みが機能していなかった。

一方で高島屋新宿店の「ウェルビーフィールド」(スポーツをテーマにした自主編集フロア)のように、商品カテゴリーの垣根を取り払ってお客さまの支持を得た成功事例もあります。今のお客さまは服を着こなす応用力をお持ちなので、ブランドによるハコ型の売り場ではなく、新しいスタイルの平場を提案できれば面白い。若いお客さまが増えている日本橋店の本館でも実験的な自主編集売り場に取り組んでいます。

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