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サステナビリティって何? 専門家が答えます。 連載Vol.14 コンサルが語るESG投資台頭の背景とESG経営の重要性

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回はPwCサステナビリティの磯貝友紀パートナーに、ESG(Environment・環境、Social・社会、Governance・ガバナンス)投資の盛り上がりとESG経営がますます重要性を帯びる理由を聞いた。

「短期的な利益だけを追い求める
会社は短期に死に絶えていくと
考える人が増えた」

―企業経営や事業のサステナビリティ(持続可能性)を評価して投資をする「ESG投資」に注目が集まっている。その背景とは?

磯貝友紀パートナー(以下、磯貝):ESG投資はサステナビリティ投資、責任投資などいろいろな呼び方があるが、「社会や環境に配慮した事業が長期的には勝つ」ことを信じる投資家が増え、短期的な利益だけを追い求めていく会社は短期に死に絶えていくと考える人が増えているからだ。ESG投資は環境や社会に配慮した企業にお金を流していく動きで、世界的に大きく動いている。2016年にJBIC(ジェイビック=国際協力銀行)とグローバルのサステナビリティ・ファイナンスに関する調査を実施したが、最初にサステナビリティ投資に動いたのは巨大な富裕層で、次に巨大な年金基金や学校の基金、たとえばハーバード大学(Harvard University)の基金など。その後に一般の投資家や個人という広がり方だった。なぜ最初に動いたのが超富裕層だったのか。1つは、自分たちのお金を子孫が代々継いでいくので長期的な運用という目線が非常に強いためだ。もう1つは自分たちが豊かになり社会に対する意識が高まった、という2つの側面がある。日本は15年のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のPRI(国連責任投資原則)署名をきっかけに、ESG投資に大きく動き出した。

―なぜこれほどまでにESG経営、ESG投資の重要性が高まっているのか?

磯貝:危機が本当に迫っているからだ。いろいろなビジネス業界を巡り、「GPIFが署名したからアセットマネジャーが動き始めた」などといった小さなドライバーは個別にたくさんあるが、長期的に見たときに一番根底にある大きなトレンドに対する危機感が強まっているからだ。人口の急増も大きな要因だ。2050年に向けて100億人になるといわれているが、「今のままでは全然資源が足りない」「ビジネス・アズ・ユージュアル(従来通りのやり方)では持たない」という考えが強まり、とくに欧州の経営層を中心に本当に危機感が高まっている。

―サステナビリティやESGに対して、海外のラグジュアリー企業やアパレル・小売業のほうが進んでいるが、日本企業の現状をどうとらえている?

磯貝:多くの日本の小売企業・ファッション企業が、「ヨーロッパほどサステナブルを意識したレスポンシブル・コンシューマーはいないのではないか」「だから日本ではそこまで対応する必要がないのではないか」「お客さまに響かないんじゃないか」と思っているようだが、それは間違いだ。ただ、サステナビリティに対するコンシューマーの意識、とくにミレニアル世代以降の若い人たちの意識を日本単体できちんと調査したリポートがまだない状態だ。そこで当社は、コンシューマーの意識調査をお客さま企業何社かと一緒に行う計画をしている。世界に比べたら割合は低いかもしれないが、若い世代ほど意識は高まっているはず。今後、経年でどう変化していくのかにも注目したい。12月に着手し、来年の3月までには公開する予定なので、ぜひ皆さんのお役に立てていただければと思う。

―ファッション・アパレル系企業のESG経営や取り組みについて思うことは?

磯貝:個人的な見解だが、今は暮らし方が大きく変わっていく転換期だ。これまでのファッションは、次々と新しい流行を生み出し、まだ着られるものがあっても、「かっこいいから次のものを買う」というような、どんどん入れ替えてどんどん買わせることがビジネスの中心にあったと思う。けれどもこれからはそういう価値観を持たない層が出てくる可能性がある。「よりいいもの」、つまり、「環境にも社会にもよくてとても質のいいものを数点所有し、それを長く使うのがいい」という層が出てくると思う。その層にどう応えていくのか。逆に、どんどん売り続けていくならば、「どう環境負荷を減らしたものを提供し、環境負荷をゼロに近づけるか」を真剣に考えるべき。「長く着られる質のいいものを少なく提供する」か、「環境負荷を減らしたものを提供していく」のか――流れは2つありそうだ。

「“リーダーシップ”と
“一貫性”が重要」

―ESG経営がうまくいっている企業の傾向や特筆ポイントは?

磯貝:共通項として強く感じるのは、“リーダーシップ”と“一貫性”だ。ポイントでいい取り組みをやっている企業はあるし、むしろいい取り組みをしていない会社はない。でもポイントだけではダメ。リーダーが「本気でやらないといけない」と理解して、全社の取り組みを全てその方向にもっていくことが重要だ。経営の意思決定時に相反するものから答えを出さなければならないことは往々にしてある。環境問題と売り上げやコストなどいろいろあるが、そこで目先の利益を選んでしまったらせっかくのよいメッセージも空虚なものになり、スタッフは「あれはあれ、これはこれ。通常のビジネス判断はコスト優先でやっていくんだな」と受け取ってしまう。ESG経営では、環境配慮とコストなど相反するものを両立させるためにはどうすべきか考え、そのためのイノベーションを起こすことが重要だ。トップの意識が変わり、会社の隅々にまで浸透するには3~5年はかかるし、時間がかかるが、そこに経営者がどれだけ本質的に、そして本気でコミットしているのかが大事だと思う。

「社会構造の変化は
消費者の変化。それを
経営者がどれだけ理解するか」

―上場企業はもちろんだが、非上場企業も取り組んでいくべき?

磯貝:非上場企業は外圧が少ないだろうが、非上場だからこそ長期的に考えて、自分たちの課題は何なのか、そこにどう投資していくのか――など、もっとやれることがたくさんあると思う。社会構造の変化は、イコール、消費者の変化。それを経営者がどれだけ理解し、どういう時間軸で、どう応えていくのか、どういうブランドをつくっていくのか。それを考える必要があるのは、上場企業も非上場企業も変わらないと思う。

―ESGは情報開示も重要な事項だ。報告書やリポート、「EP&L(環境損益計算)」など、どこから手をつけていいのかわからないという企業も多い。

磯貝:負担も大きいので、まず本当に答えるべき格付け会社かどうかを見極め、自分たちの投資家がどの格付けを見ているのかを考えなければいけない。格付け会社よりも、実は長期的な投資家に対して個別に関わっていくほうがよっぽど効率的かもしれない。彼らが何を考えているのか、何を求めているのかをきちんと経営に取り入れ、定期的にコミュニケーションをとっていけばよいのではないかと思う。サステナビリティの分散している情報を整理・開示するプロセスやその工程表などについては、われわれのようなコンサルタントに依頼していただくのが一番早くて、むしろ安上がりだと思う。本質的に何が重要か、機関投資家側にも事業側にもサービスを提供し、両者にどういうミスコミュニケーション(食い違い)があるのか分かっているのも強みだ。ぜひ相談に来てほしい。

―理解を深めるために参考になるセミナーや書籍などがあれば教えてほしい。

磯貝:サステナビリティについて書かれたものを読むよりも、むしろ社会学や哲学などを学んだほうがいいかも。示唆に富んでいたのはマルケス・ガブリエルだ(1980年生まれのドイツの哲学者。代表著書は「なぜ世界は存在しないのか」。新実在論を提唱)。最近の若い人たちの社会主義化が進んでいるのはなぜなのか、といったことを理解するほうが大事だと思う。また、手前みそだが、私たちが主催している会員制のフォーラム「ストラテジック・サステナビリティ&イノベーション・フォーラム」はおすすめだ。5年前に開始したが、海外から毎回スピーカーを呼んで、会員の日本の経営者の人たちが本質的な問題に向き合う場を、サステナビリティやESGといった意識がなかったころから先進的に提供してきた。CEOの会を立ち上げる予定もある。サステナビリティはCEOが旗振りをしてトップのリーダーシップで変えていかないと進めない分野。ヨーロッパと日本との大きな違いは、経営者の理解と納得の度合いだ。また、サステナビリティは1社でやることと、業界でやること、業界や産業を超えて取り組むべきことなどがある。ファッション業界でもグループができて、産業全体で取り組めるとよいと思う。

松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)