ファッション

2020年春夏「ヨウジヤマモト」を徹底解説 山本耀司が背中で語った“NO FUTURE”の意味から本人の曲を含むBGMまで

 「WWDジャパン」10月21日号は、2020年春夏パリ・ファッション・ウイークの特集第2弾を掲載している。世代が異なる3人が見たパリの新潮流とそこから得られるビジネスのヒントを9つのトピックにわたって紹介し、「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」はそのうちの1つのトピックス、「コミュニティー」の形成が上手いブランドとして取り上げた。9月27日にパリで開催されたショーはファンがうなる仕掛けが盛りだくさん。ここでは、そんな20年春夏コレクションを展示会で取材した追加情報も加え、5つのポイントで解説する。

ブランドタブーへの挑戦

 今季「ヨウジヤマモト」は、無駄を削ぎ落とした美を追求する同ブランドだからこそタブーとしてきた2つのことに挑戦した。1つめはビーズとレースなどをふんだんに使った装飾、2つめはフラワーモチーフだ。これらをどうしたら「ヨウジヤマモト」らしく取り入れることができるかに挑戦したという。まず装飾部分は、手描きのペイントと手作業で施された刺しゅう、そしてビーズの3重構造という手の込んだクチュールワークとなっている。ただし、レースなどをギザギザにカットすることでブランドらしい不規則性を見せる。またこれだけ手が込んだ装飾を前面に見せるのではなく、シャツドレスの内側に施して歩くたびに見え隠れするようにしたのもブランドらしい。

 フラワーモチーフは、アーティストの朝倉優佳とのコラボレーションの中で表現した。朝倉は16年の「画と機」の展覧会以来、同ブランドとコラボレーションを続けているが、今回彼女が頼まれたのは“beautiful but crazy(美しくも狂気的)”な挑戦的で毒気のある花を描くことだったという。「コレクションで見せたドレスは毒々しい花々を全面に描いていましたが、最初は花と花の間にすき間がある絵を描いていました。ですが、より毒気や花のエネルギーを出すために隙間を埋めるように花を足していきました。実在する花もあれば、想像上の花も描いています」と朝倉は制作の裏側を語る。かわいらしさや可憐さを表現するために使われることが多いフラワーモチーフだが、毒々しい花でブランドらしさを表現することで「耀司さんは服飾史の中の“花”(という概念)に挑戦したのだと思う」という。

マグネットの招待状の意味

 「ヨウジヤマモト」の今季の招待状はマグネットで、その一つ一つにブランドのロゴや会場の住所がプリントされていた。「なぜマグネット?」と疑問に思ったが、展示会でその理由が明らかになった。ワンピースの布地につけられていた円のモチーフは、実は強力なマグネットで、布地に留め合わせてボタンのように見せたり、布地を手繰り寄せて美しいドレープを生みだしていた。ちなみにマグネットにのせられた絵の具は、山本耀司の直筆だという。

シューズは台湾ブランドとのコラボ

 ショーではクリノリンを用いたエレガントなドレスやクチュールワークが美しいドレスに、キャンバススニーカーを合わせてストリート感を取り入れていた。このスニーカーは実は台湾のアイドルグループF4のメンバー、ヴァネス・ウー(Vanness Wu)が立ち上げたファッションブランド「Xヴェセル(XVESSEL)」とのコラボだ。同ブランドのアイテムの中でも特に脱構築したソールデザインで人気を集めるスニーカー“G.O.P.”をピックアップし、ソール部分は「Xヴェセル」のデザインを生かしつつ、アッパー部分にレザーを取り入れるなどして「ヨウジヤマモト」流に仕上げた。ローカットはホワイトとブラックの2色、ハイカットはホワイト、ブラック、レッドの3色を用意する。

“NO FUTURE”の意味

 フィナーレに登場した山本耀司デザイナーが着用していたコートの背中には、“NO FUTURE”の文字があった。日本語で「未来はない」の意味だが、いったいそのこころとは?誰の「未来」がなぜ「ない」というのか。展示会会場に山本耀司の姿はなく直接聞くことはできなかったが、その真意とは、深刻化する地球環境に警鐘を鳴らし、このままでは「未来はない」という意味だったという。コレクションも、温暖化で気温上昇が著しい夏でも快適に過ごせるようにと、今季は麻やリネンなどの素材を多用した。また服の一部を円や三角形の形にカットアウトし、素肌を見せるディテールも通気性を配慮してのことだという。20年春夏はパリだけでなく、各都市のコレクションでサステイナビリティーが一大潮流となっており、ショーで使用した機材の再利用やアップサイクリングを打ち出すブランドが多かったが、「ヨウジヤマモト」の場合、山本耀司本人の言葉が一番人々の心に響きそうだ。

BGMは本人の歌声!歌詞も公開

 コレクションの制作からスタイリング、キャスティング、出番表、ヘアメイクまで、ショーの過程を全て監督しているという山本耀司だが、ショーのBGMまで自身で制作してしまうのは衝撃だった。曲を作るのはショーの直前、コレクションなど全てが整った後に、イメージを形にして即興レコーディングするのだという。今回のショーでは「NOTEBOOK」と名付けられた曲を披露した。その歌詞を全文紹介する。他にもショーではかぐや姫の「神田川」などが流れた。是非動画でショーのBGMとともに「ヨウジヤマモト」の世界に浸ってほしい。

<歌詞>
くそ暑い真夏の朝に、季節外れのどしゃ降りの嵐が落ちて
俺たちのやりきれない思い出が、思い出が、摘み取られたのを取り戻そうと
燃える想いに喉を枯らして
走り明かした、真っ白い夜明けを
あれから何年過ぎたのか、もう何年過ぎたのか
旅の姿で帰ってきても、落ち着く部屋など待ってはいない
手当たり次第の仮面を被って、思いつく限りの幸せなふりして
戯れながら暮らしてきたはずだが、夢見る柄じゃないことぐらい
生まれたときから知ってはいたし、目を閉じて酒を煽れば
あれから三年過ぎたのか、あれから八年過ぎたのか
もしも心が疼いてこなけりゃ、君を探しに行けるかもしれない
From now on, from now on

息が詰まりそうな寂しさを抱いて
眠れない街で俺たちは眠り、真っ白い花が散るように、散るように
優しく、優しく、君は狂い
夜風に、夜風に、流れ出す
酔いしれ明かしたささやかな夜よ
もう十年が過ぎたのか、もう千年が過ぎたのか
調子外れの歌を歌って、いつまで夜明けを抱いているのか

From now on, from now on
On my fortune stress baby belong to you

From now on, from now on
I'm gonna surrender on my pain for you
From now on, from now on, from now on

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