フォーカス

「マディソンブルー」が支持され続ける理由 初のプレゼンに込めた意図は?

 2014年春夏の立ち上げ以来、瞬く間にロンハーマン(RON HERMAN)などの有力ショップに広がり、人気ブランドとなった「マディソンブルー(MADISONBLUE)」。19-20年秋冬は、表参道の路面店で初めてプレゼンテーションを行った。デザイナー兼ディレクターの中山まりこは、1980年代からスタイリストとして活動。立ち上げ当初は“スタイリストのブランド”として紹介されることも多かったが、設立から5年が経った今は「スタイリストをやっていたのは服を作るためだったんじゃないか」と語るほどモノ作りにのめり込んでいる。売り上げは一時の驚くような急伸からはやや落ち着いたものの、常に右肩上がりできているという。ブランドが支持され続ける理由を、中山の言葉から探った。

WWD:今回、初のプレゼンテーションを行った理由は?

中山まりこ(以下、中山):シャツ6型でブランドをスタートして、少しずつアイテムを増やしてきました。ただ、最近はブランドの世界観が広がって、商品数がすごく多くなっていた。すてきなパタンナーさんやいい生地屋さんに出会うと、どんどん「作りたい!」という気持ちになるんです。以前は展示会に来場したバイヤーさんとも1人1人お話ができていましたが、卸先も約50社に広がって、それも難しくなっていました。営業担当者やPRに対応を任せるというのが普通なんでしょうけど、そういう形にしたらなんだかモヤモヤ、悶々としてきちゃって。この2年くらい、「何か違うな」と感じていたんです。改めてブランドのことを伝える機会がほしいとずっと思っていて、それが形になったのが今回でした。

WWD:モヤモヤとした状態から抜け出したのは、何かきっかけがあったんですか?

中山:実は3月にパリでポップアップストアを行っていたんです。その時にプレゼンテーションをしようと強く思いました。プレゼンをすれば、卸先にも編集者にも改めてブランドの世界観が伝えられるし、販売員を通してお客さま一人一人にも伝わるだろうって。パリのポップアップストアは、あえてファッション・ウイークから少し遅らせて行いましたが、何社かパリに残っていたバイヤーさんが来てくださいました。来られなかった方にも写真をお見せしたら、「展示会と全然違って見える」と言われたんです。バイヤーさんは通常、「何をどう買うか」という視点で展示会を見ている。それって、ブランドがどんな世界を見せたいかというのとは違うんですね。買い付けのための展示会ではなく、イメージを見せる場としての展示会ってすごく効果的。そう実感して、ブランドとしてこれまでとは違う扉を開いていくために、プレゼンを行うことを決めました。

外部と組んで、ブランドを一歩先へ

 

WWD:これまではデザインもディレクションも全て中山さんが担当していました。今回のプレゼンテーションは、ディレクターとスタイリストを起用していたのが新鮮でした。

中山:今までは文字通り何から何まで自分で行っていました。でも、それを続けていると考えが詰まってくる。広がりがなくなってくるんです。今回ディレクター、スタイリストと組んだのは、外から見て「『マディソンブルー』はこうなっていくべき」といった意見がほしかったから。(服がそれだけで完成しているようなブランドではなく)人が着た時にその人らしさが出る服を作りたいと思ってブランドをやってきたから、見せ方や伝え方の部分でも一度外部の人に委ねてみたいなと思った。それによって、ブランドをもう一歩先へ進めたいと考えたんです。全部自分でやっていると、初期のフレッシュな感じではなくなってくる。当初はスタイリストとしての自分も残っていて、その中でモノ作りをしていたんだけど、だんだん作り手になってきて、今は服を作るためにスタイリストをしていたんじゃないかと思うほど感覚が変わっちゃいました。

WWD:中山さんと、ディレクター、スタイリストとで、意見がかち合ってしまうようなことはなかったんですか?

中山:2人をリスペクトしているから、そういうことはないです。ディレクターを務めたのは、最初の展示会からうちのブランドを見てくれている男性編集者。私は考え方とか服の買い方が男っぽくて、好きになると色違いでほしいとか、サイズ違いで着こなしたいとか思うタイプ。だから男の人の意見の方がしっくりくることが多いんです。その中でも、彼の意見は「私はこういうことが言いたかったんだ」っていうものと一番マッチすると思っていました。ウィメンズのスタイリングをお願いしたスタイリストは、大先輩であり大好きな人。彼女はウィメンズの雑誌を作る人の目線、ディレクターはちょっと先を見る目線と、みんな視点が違うので打ち合わせをすると一致しない部分はもちろんありました。でも、それはまるで自分の右脳と左脳が意見を闘わせているような感じ。決定するのは私です。2人共大人だから、そういう風にさせてくれた。自分一人でやっている時は強い信念があって、もちろん信念がなければ5年間ブランドを続けてくることはできませんでしたが、二人が入ることで信念を曲げるのではなく、器を広くして、おおらかになることがブランドにとって重要だと気付きました。信念を持つことと、凝り固まることは違います。悪い意味でのこだわりみたいなものを取っ払っていくことが、ブランドがステップアップしていくことだと感じました。

WWD:こだわりを取り払うというのは、具体的にどんなことですか?

中山:例えばモデルについて。ドメスティック(国内)のブランドって、よく海外モデルに服を着せてルックを撮るでしょう?それについて、スタイリスト時代から強い違和感を抱いていました。「パターンは日本人向けなのに、海外のモデルに着せるのはなぜ?」って。まあ、イメージの問題なんでしょうけれど。でも今の消費者って、そういうイメージだけではもう動きません。そういった考えから、「マディソンブルー」ではデビュー時から、あえてモデルではなく友人などを起用してルックを撮ってきました。でも、今回のプレゼンでは海外のモデルも起用していて、それは私にとって挑戦でした。ディレクターが「今までの手法だと着用した人のイメージが前に出てしまう。『マディソンブルー』は服が強いから、ショーモデルに着て歩かせた方がより広がりが出る」と提案してくれたんです。

WWD:コンサバにならず、そんな風にどんどん新しいことに挑戦ができているブランドって、実はそんなに多くない気がします。

中山:ルーティーンで物事をやる、ということが私は本当にダメなんです。一昨年、昨年と、パリやらモロッコやらかなりいろんな場所を旅したんですが、今思えばそれもブランドの次の形を考えていたからこそだったんだと思います。去年はパリだけで4回行きました。どこかへ行くと手ぶらでは帰れないし、何かやらなきゃ気が済まないので、パリで素人のモデルに声を掛けて撮影をしたり、先ほど話したように3月にはサンジェルマン・デ・プレのアパートでポップアップストアを開いたり。カフェですてきなマダムをナンパして、「今そこでポップアップしてるから、是非来て。あなたには絶対似合うから」って呼び込んだりもしました。

針路は見えたから、あとは走るだけ

WWD:そのように試行錯誤した2年間を経て、ブランドの次の形として今何が見えていますか?

中山:2年間悶々と考えていたことで、今後の5年の進むべき針路は大方見えています。だからあとは走るだけ。今回プレゼンを行ったのももちろんその一環です。ブランドのスタンスとして、これまでは「買いたい人だけ買いに来てくれればいい」という受け身の姿勢でやっていました。今の時代は有名人がSNSに投稿したブランドが売れるなど、(ブランドやデザイナーが)消費されてしまいがち。消費されることに抵抗があって、そういった売り方、伝え方といかに差別化していくかをずっと考えてきました。たくさんの人に着てもらうより、ブランドを気に入ってくれるお客さま一人一人とコミュニケーションを取りたいと思ったから、直営店を出す際も最初はあえて目黒の駅からやや離れた立地を選びました。でもこの2年を経て、ブランドとしてだんだん発信がしたいと考えるようになってきた。やはり能動的に発信しないと伝わらないことがある。そう気付いたのがちょうど5年目の今というタイミングでした。ブランドを伝えるために、プレゼンは今後も続けます。少なくとも5年は続ける。それぐらい経つと、ブランドにとって大事だと思うことがまた変わるかもしれません。

WWD:今回はプレゼンテーションでしたが、さらに規模を大きくして、ランウエイショーを行う可能性もありますか?

中山:それは本当に分からない。今回も、1月に仲の良いモデル事務所の社長と話した時点では、「モデルを起用した発表をするつもりはない」って私言ってましたから。ただ、これは自分が顧客としてパリのブランドの現地でのショーに呼んでもらった際に感じたことですが、ショーは売り上げと連動していないとやる意味がないし、やってもつまらないですよね。顧客として見たそのショーは、見た後に気分が盛り上がって、思わずモンテーニュ通りの大型店に行きました。そこには他の顧客も詰めかけていて、担当の販売員とショーの感想を話し合いながら買い物をしていた。そういう形でショーとビジネスとが連動していないと、意味がないように私は感じる。東京のファッション・ウイークには、卸しかしていなくて直営店がない規模のブランドも参加してランウエイショーを行っています。それもそれでいいですが、うちのブランドのやり方ではない。今回のプレゼンには表参道店の顧客も招待しましたが、「プレゼンをします」とアナウンスしただけで、顧客の方は1カ月前から「何を着ていこうか」と販売員と盛り上がっていました。そういうやり取りを通して、販売員と顧客とのつながりはより深まります。うちのブランドはセールをしないからこそ、プレゼンで先を見せたり、つながりを生みだしたりといったことで顧客サービスをしていく必要がある。今後はお客さまを集めた食事会なども行っていきたいと思っています。お客さまの人生に関わりたいと言ったら大げさですが、「マディソンブルー」をきっかけにして、お客さま同士やお客さまと販売員との輪ができていけばいいなと思っています。