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“捨てる服はもういらない” 女性に支持されるオーダーブランド「ミカコ ナカムラ」の古くて新しいビジネスの形

 管理職や士業の女性を中心に支持を広げているウィメンズのオーダーブランド「ミカコ ナカムラ(MIKAKO NAKAMURA)」は、6月13日から19日まで、「ミカコ ナカムラ美のミュージアム」展を銀座・和光本館6階のホールで行っている。ブランド設立15周年を記念したもので、立ち上げからこれまでに製作してきた900体のうちの80体を出展。9つのカテゴリー別に、さまざまなシーズンの商品をミックスして展示している。同ブランドは2004年の立ち上げ以来、“捨てる服はもういらない”というメッセージを打ち出してきた。オーダーメードを採用し、常にお直しも受け入れてきたのもそうした考えからだ。サステイナブル意識が一般化しつつある今となってはなじみのある考え方だが、ブランドを立ち上げた2004年といえば、ファストファッションが徐々に盛り上がりつつあった時期。ファッション業界内でもやや異色の存在だった。中村に15年間を振り返ってもらった。

WWD:15年前に“捨てる服はもういらない”と打ち出したのは先進的だった。

中村三加子(以下、中村):立ち上げ当時はモノを大切にするという考え方より、どんどん新しさを追求してこそファッションという姿勢が主流でした。ファストなファッションブランドが台頭し始め、目にするようになってきた時期でもあります。デザイナーは服を作るのが仕事ですが、私は服を通して、メッセージを伝えていくことが自分の仕事だと思っています。今シーズンはこれがきれい、これがすてきといったことよりも、ポリシーを伝えていくべきだと思ってやってきた。こうした考え方に、時代がシンクロしてきているという感覚はあります。

WWD:今でこそパーソナルオーダーなどが盛り上がっているが、15年前は「オーダー=いいものだけど古い」という印象が強かったように思う。

中村:業界内の知り合いには、「なんで今更オーダーなんてやるの?絶対すぐつぶれるわよ」なんて当時言われました。確かに時代錯誤だったと思います。でも、そんな風に言われれば言われるほど、違う方向を向きたくなる性分なんですね。“捨てる服はもういらない”と掲げてきましたが、(大量生産をしている)作り手側の問題は大きい。1対1でお客さまに向き合えるブランド作りがしたかったんです。昔は街の仕立て屋さんで服を作るという文化がありましたし、私自身もそれを味わってきている。それで自分もオーダーでやってみようと思ったんですが、男性のスーツと違って女性の服はデザインもさまざま。気軽に色んな方にオーダーを楽しんでもらいたいので、仮縫いありのフルオーダーやデザイン自体を一から起こすオートクチュールだけでなく、着丈や袖の長さなどを調整するパターンオーダーを行っています。

WWD:ファーストシーズンで発表した12型が、“マスターピースコレクション”として今も売れ続けている。なかでもノーカラーコートの“ルナ”は、ブランドで最も売れる品番となった。

中村:マスターピースとは“銘品”という意味ですから、自分たちでそう呼ぶのはおこがましくもあります。変わらないものを作り続けていきたいという思いから、当初は“パーマネントコレクション”と呼んでスタートしましたが、“ルナ”だけでなく、どれもお客さまに愛される中でマスターピースとして育ってきました。

WWD:15年間続けてきて、手応えを感じた場面は。

中村:立ち上げた時は、「おしゃれなオーダー服を求めるような客はいない」と業界内で言われました。「オーダー客はすごくコンサバだから、ファッション性はそこまで求めていない」って。でも、15年間続けて、「こういう方に着てほしい」というお客さまをたくさん見付けました。うちのブランドの顧客はどなたもすてきな方ばかりという点は本当に自慢です。日本人女性としてすごく尊敬できる、文化的なお客さまが私の考え方に賛同してくださっている。そういう方たちが、自らの個性で服をとてもきれいに着こなしてくださっています。(オーダーブランドを15年続けたことに対して)「根気強いね」「頑固だね」などと言われることもありますが、変わらないということで信頼感を得てきた部分はあると思います。

ファッションが超えられないのは
自然物のみ

WWD:もともとはテキスタイルデザイナーだった。

中村:父親が京友禅の画家で、(実家は)代をたどれば呉服屋となります。布文化に触れて育ってきたので布が好き。一方でライフスタイルデザインも追求したくて、テキスタイルデザイナーになりました。でも、私が学校を出た頃はテキスタイルデザイナーとしての採用は少なくて、自分のデザインをテキスタイルとして表現したいならデザイナーになる方がスムーズだった。それでデザイナーに転身しました。テキスタイルデザイナー時代に身に着けた機屋さんとのつながりや生地の知識は、今も生きていると思います。デザイナーとしてアパレルメーカーに勤めていた時代もありましたが、自分の思うものを作っていくために、ゆくゆくは自分の会社を立ち上げようと当時から考えていました。

WWD:2019-20年秋冬のテーマは、晴れ渡った空と海とが一続きになっているさまを表す「水天一碧」。鮮やかなブルーや波のような柄が印象的だった。19-20年秋冬に限らず、常に自然が着想源になっている。

中村:自然物がとても好きなんです。インスピレーション源を社内でも聞かれることはよくありますが、いつも普通の花や空。華美なことではなくて、過去に経験した自然の出来事です。映画や観劇で心を動かされることはありますが、それをデザインに落とし込むということはない。ファッションが絶対に超えられないものは、自然物だと思っているんです。人が作ったものなら、私のブランドではたとえ無理だとしてもファッションが超えることはできる。

WWD:銀座・和光でこのタイミングで展覧会を企画した意図は。

中村:15周年記念という面もありますが、それだけでなく、やはりここにもメッセージを込めました。“捨てる服はもういらない”と掲げている以上、私たちもサンプルを一つ一つ大切にしてきました。お客さまにお譲りした一部以外、作ってきたものは全て取ってあります。それを15年間続けてこられたことに感謝して、展覧会開催を決めました。自分としては、今後も変わらないことの強さを出していきたい。日本もいま混沌としていますが、ファッションとして、日本の美しい部分を伝えていきたい。モノを大切にするという日本や日本人の美しさは、全ての文化に通じる部分があります。元来、日本のものではなかった大量消費の考え方に迎合する必要はない。人にとっては、歩くスピードや手で何かを作るスピード、鼓動の速さが自然だと思います。高速を追求しては、いつかひずみがくる。かといって、私もパソコンやスマートフォンは使います。バランスが大切です。

■「ミカコ ナカムラ美のミュージアム」展
日程:6月13~19日
場所:銀座・和光6階ホール
住所:東京都中央区銀座4-5-11