ファッション

「捨てる服はもういらない」を貫く「ミカコ ナカムラ」22-23年秋冬 南青山のオーダーサロンが10周年

 欧米の勢いにはまだ追いつきませんが、日本でも日に日にアフターコロナのムードが強まっています。ファッションビジネスも長かった冬眠から目を覚まし、活力を取り戻していく時期。この2年間、展示会の規模を縮小していたり、イベントを取りやめたりしていたブランドや企業がそれらを再開する動きが強まっており、われわれも外出し取材する機会が増えています。

 中村三加子さんが手掛けるオーダー中心のウィメンズブランド「ミカコ ナカムラ(MIKAKO NAKAMURA)」の展示会にも、先日久々にお邪魔しました。同ブランドは今からちょうど3年前、コロナ禍前の2019年6月に東京・銀座の和光本館でブランド立ち上げ15周年の記念展覧会を行っていました。その際、中村さんにインタビューしたのですが、「“捨てる服はもういらない”をコンセプトとして、15年間やってきた」といったお話をされていたのが印象的です。

 その言葉通り、同ブランドは色や素材の提案を少しずつ変えながらシーズンを超えて作り続けている“銘品”的なアイテムが豊富。シーズン毎にガラッと変わるような提案ではありません。こういった考え方や服の作り方は、ブランドがスタートした04年当時はかなり異色だったと思います。異色というか、かなりコンサバ(保守的)に見られたのでは。ブランド立ち上げから4年後の08年以降の数年間は、日本にもファストファッションブームが吹き荒れましたから。トレンドをお手軽価格で取り入れて使い捨てするというファストファッションブームは、「ミカコ ナカムラ」とは真逆の発想だったものです。

 それから10数年が経ち、さらにコロナ禍も経て、ファッション業界や生活者一人一人の服との向き合い方は、かつてとは大きく変わりました。どんぶり勘定で大量に作って、売れなければ値引きしながら売り減らしていく、スピードに追われながら年に4、5回新作を発表し、自分たちで作ったものを“流行遅れ”として自分たちで否定するといったようなビジネスの組み立て方は健康的とは言えません。「そうした世の中の考え方と、中村が目指してきたものがマッチしてきた」と、「ミカコ ナカムラ」の広報担当者も展示会で話していました。実際、コロナによる自粛期間中も商売は比較的好調だったとか。「南青山のオーダーサロンを訪れるお客さまの数はもちろん減ったけれど、来店できない地方のお客さまからは電話で注文も入った」といいます。今春は広島の有力個店「ザ ステージ(THE STAGE)」や福岡の岩田屋本店でオーダーイベントを行い、好評だったそうです。

 さて、「ミカコ ナカムラ」の南青山のオーダーサロンは、この度オープン10周年を迎えました。22-23年秋冬の展示会では、過去10年間で作ってきたアイテムも展示していました。ずっと作り続けているダブルフェースのカシミヤケープコート(セミオーダーで税込37万4000円〜)は、シーズン毎に提案してきたさまざまな色を重ねて展示。実際にこのコートを買った客がこれを見たら、「安くはなかったけれど、買ってよかった」と改めて感じるんじゃないでしょうか。ブランド側に聞くと、昨今増えている30〜40代の“新世代富裕層”客も多いようなので、実際のところは「安くはなかったけれど」とは思わないのかもしれませんが。客の中心は士業や管理職、キャスターなどの自立した女性だそうです。

 コロナの自粛ムードから一歩踏み出していく今の気分にぴったりだったのが、ミラノリブやウールポンチ、デニムなど、「ミカコ ナカムラ」にしてはカジュアルな印象の素材を使ったアイテム群です。といっても、ドレープが流れるドレスやロングジレとスカートのセットアップなどに仕立てており、タイムレスなエレガンスであることは変わりません。これらは、外出もままならなかった状況を越えて再び動き出した女性たちへの中村デザイナーからのエールなんだと思います。ルック画像のモデルに、アテネ五輪のアーティスティックスイミング銀メダリスト、藤丸真世さんを起用していたのも非常にブランドの雰囲気にマッチしていて印象的でした。

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