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元「シュプリーム」デザイナーのフットボールクラブ「ノーウェアFC」 「ストリートとフットボールはどんどん接近している」

 「シュプリーム(SUPREME)」や「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」で長年デザイナーを務めた人物が立ち上げたニューヨーク発ストリート・フットボールクラブをご存知だろうか。

 クラブの名は、「ノーウェアFC(NOWHERE FC)」。フットボールの世界において100年以上の歴史を持つクラブは数あれど、「ノーウェアFC」は2010年に創設されたばかりの新米クラブだ。しかし、在籍するプレーヤーは卓越した技術に加えてセンスが光るユニホームの着こなしを見せる個性派ぞろい。イタリアの名門クラブ「FCインテル・ミラノ(FC INTERNAZIONALE MILANO)」やメンズブランド「ストーン・アイランド(STONE ISLAND)」とコラボレーションするなど、スポーツ界のみならずファッション界をもにぎわせている。またフットボールクラブでありながら、彼らが作るユニホームをはじめとしたプロダクトはストリートを中心に人気を博し、さらには飲食店を経営するなど、1つのクラブとしての域を超えた活躍を見せている。

 先日、クラブを立ち上げたディエゴ・モスコーソ(Diego Moscoso)が来日。クラブの基本情報から、ファッション業界におけるストリートの潮流、パーソナルな質問までインタビューに応じてくれた。

WWD:まずはじめにあなた自身についてのパーソナルな質問からさせてください。出身と年齢は?

ディエゴ:年齢はノーコメント。出身はどこでもない、“ノーウェア(Nowhere)”さ。

WWD:なるほど(笑)。「シュプリーム」や「マーク ジェイコブス」でデザイナーを務めることになったきっかけは?

ディエゴ:「ノーウェアFC」を立ち上げる前は、フェイムシティ(Fame City、カウズも在籍していた有名グラフィティチーム)の一員で、グラフィティ・アーティストだったんだ。高校も卒業していない僕だけど、グラフィティ・アーティストだったから「シュプリーム」や「マーク ジェイコブス」と仕事をすることができたんだ。もう前世と言っていいほど昔の話だけどね(笑)。

WWD:ディエゴのインスタグラムをヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がフォローしていますが、仲がいいんでしょうか?

ディエゴ:そうなんだ!彼がフォローしてくれているなんて知らなかったよ(笑)。

WWD:それでは「ノーウェアFC」の名前の由来を教えてください。

ディエゴ:拠点とするニューヨークが移民の街で、世界中のあらゆる場所から人々が訪れ、常に変化し続ける都市というのが関係している。僕らも常に進化し、移民や他の文化など世界中の人々と関わっていくことでアイデンティティーを形成している。だから包括する言葉として“Nowhere”と名付けたんだ。

WWD:活動はいつから?

ディエゴ:結成したのは8年前の2010年。それから年々クラブは大きくなって、今じゃニューヨークとミラノを拠点に3チームを持っている。所属メンバーはプレーヤーだけでなく、マネジメントやデザイナーも含めると約80人。ただプレーヤーが属しているだけではない、フィールドをも超えたクラブなんだ。

WWD:アメリカの4大スポーツ(アメリカンフットボール、ベースボール、バスケットボール、アイスホッケー)ではなく、なぜフットボールクラブを作ろうと思ったのでしょうか?

ディエゴ:僕は4歳の時から父の影響でフットボールをしていたんだ。父はフットボールの経験があまりなかったけど、とにかくフットボールがもっとも国際的なスポーツだと思っていたみたいで、僕に習わせてた。もしくは、休日に一緒に遊びたかっただけかもしれない(笑)。とにかく最初に始めたスポーツがフットボールだったんだ。ただ僕が子どもの頃にいたシアトルは、フットボールのコミュニティーが非常に強かったように思うよ。

WWD:拠点であるニューヨークのストリートと密接な関係にあるスポーツは、フットボールよりもスケートボードの印象が強いですが。

ディエゴ:全然そんなことないさ。ニューヨークは北米で一番フットボールが盛んな地域だから、いろいろな人が集まる場所で、あらゆるレベルや種類のコミュニティーがあるよ。

WWD:3本脚のチームロゴの意味は?ちなみにサッカー日本代表のチームロゴは、3本足の八咫烏(やたがらす)です。

ディエゴ:そうなんだ!僕らの3本脚は、アイデンティティーでもある“止まらずに、いつもどこかに向かって進む”という動きを表現している。デザインは、古代の伝統的文様の1つのトリスケル(三脚巴)からヒントを得た。トリスケルはギリシャ神話に登場したり、シチリア島のシンボルなどに使われていたり、いろいろな種類があるんだけど、その中でもイギリスとアイルランドの間に位置する小さな島のマン島のトリスケルを参考にした。マン島は僕にとっては行ったこともないはるか彼方の場所ーーまさに“middle of nowhere(人里離れた場所)”だった。だからマン島のトリスケルのデザインを参考にしたんだ。

WWD:「ノーウェアFC」は「ラグ&ボーン(RAG&BONE)」と深いつながりがあるとお聞きしました。

ディエゴ:2018年から「ラグ&ボーン」は「ノーウェアFC」のオフィシャル・スーツスポンサーなんだ。例えばドイツ代表は「ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)」、「FCバルセロナ(FC BARCELONA)」は「トム ブラウン(THOM BROWNE)」、過去には「ランバン(LANVIN)」が「アーセナルFC(ARSENAL FC)」のスポンサーをしていたように、フットボール選手は移動時間をスーツ姿で過ごすんだ。特に「ノーウェアFC」はフィールド外での活動も活発だから、スーツが必要なんだ。「ナイキ(NIKE)」や「アディダス(ADIDAS)」は宣伝になるからって僕らにユニホームを着せたがるけど、僕らはどのスポーツブランドの広告にもなる気はないさ。

WWD:なぜユニホームの多くは手染めのタイダイなんでしょうか?

ディエゴ:みんなが「アディダス」か「ナイキ」のユニホームを着ているように、ユニホームの選択肢はとても少ないんだ。でもフットボールで一番大切なことは、アイデンティティーを持つこと。そこで新しいユニホームを作るお金がなかった僕たちにとって、すでにあるユニホームを染めることが一番簡単にアイデンティティーを示す方法だった。見ればすぐに「ノーウェアFC」ってわかるだろ?

WWD:ユニホームを日常的に着こなすスタイルが増えてきていますが、本来はバスケットシューズであった“エア ジョーダン 1(AIR JORDAN 1)”のようにファッションの一部として落とし込むことは可能でしょうか?

ディエゴ:日本は遅れてるかもしれないけど、ニューヨークをはじめとした世界のいろいろな都市ではフットボール的要素のあるストリートウエアが、ストリートファッションの中で一番大きいムーブメントになってきている。たしかにアメリカンカルチャーやストリートカルチャーにおいてフットボールウエアは最近登場したばかりだし、フットウエアという点ではスパイクだから日常ではきこなすのは難しい。ただ、ジャージーやユニホームを着て街中に出るカルチャーは世界のどこでも見られるし、フットボールの人気と相まって爆発的に広がっている。市場もここ4〜5年間で非常に大きくなってきていて、「ノーウェアFC」はそのムーブメントをリードしてきた存在の一つだと思っているよ。

インスタグラムを通じて友達になった日本人たちにはフットボール好きが多いし、このムーブメントは必ず日本にも来るはずだ。彼らは「ナイキ」「アディダス」「ア ベイシング エイプ(R)(A BATHING APE(R))」「アンディフィーテッド(UNDEFEATED)」などで働いているから、フットボールとストリートはどんどん接近している。

WWD:やはりファッション業界にストリートの潮流は感じますか?

ディエゴ:ファッション業界とストリートはいつだってつながっている。ただ、ストリートの人は常に野心的で、ベストを尽くそうと必死だ。そこにファッション業界のトップにいるような人たちが、アイデアが枯渇した時に寄ってくるように感じるね。

WWD:最後に個人的な質問をさせてください。活動拠点のアメリカとイタリアは残念ながらロシアW杯に出場できませんでしたが、優勝国はどこだと予想していましたか?それから、あなたの(フットボールにおいての)ヒーローを教えてください。

ディエゴ:ブラジルのスタイルが好きだったから、ブラジルだと思ったね。僕の永遠のヒーローは、元ブラジル代表のソクラテス(Socrates、ノールックヒールパスが十八番の名手だったが2011年に57歳で死去)さ。彼の試合中のアイデアは素晴らしかった。ソクラテスは僕が本当に心の底からこの目でプレーを見たいと思っていた選手だよ。