ファッション

森永邦彦やJAXAも参加、シタテルの招待制コミュニティーで考えた企業発メディアの起爆力

 縫製工場とデザイナーをつなぐマッチングサイト運営のシタテル(sitateru)が25日、自社メディアを中心とするコミュニティー・プラットフォーム「ウィア(Weare)」を始動した。“衣服の可能性”をテーマにしたコンテンツをメディアに掲載する一方で、定期的に招待制のイベントを開催するなど、新しい形のオムニチャネル・メディア構築を目指す。シタテルは河野秀和・社長が14年3月に熊本で創業した企業で、小規模デザイナーが小ロットの生産を依頼できる工場を探すためのサイトとしてスタートしたが、現在はデザイナーズブランドや大手アパレルなど、中堅から大手企業の利用も拡大している。

 プラットフォームのローンチにあわせて、4月には初となるイベントを開催。河野秀和・社長がモデレーターとなり、“宇宙テクノロジーと衣服”をテーマに肥後尚之JAXA広報部 報道・メディア課主任と森永邦彦「アンリアレイジ(ANREALAGE)」デザイナーのトークショーを開催した。

きっかけは「一風堂」のユニホーム

 このメンバーが集まったのは、2017年に共同で「一風堂」のユニホームを作ったからだ。ラーメン屋の固定観念を払拭すべく、「ここで働きたい」と思えるワークウエアを作ろうとプロジェクトを発起し、JAXAが東レと共同開発した素材を用いて「アンリアレイジ」がデザインし、「シタテル」を通じて製造を行った。河野社長は「スタートアップ企業として急に数千人規模の洋服を作るのはすごく不安だった。この1年間で本が1冊書けるくらい(笑)。ローンチ後にSNSなどで反響があった際にはすごくうれしくて安心した」と振り返る。

テクノロジーが洋服作りを変えた

 森永デザイナーといえば、以前からレーザーカットを用いたり、力を光に変える技術を取り入れるなど、テクノロジーを駆使して“衣服の可能性”を追求してきたことで有名だ。会場には18-19年秋冬パリ・コレクションで発表した最新作を持参し、プリズムを応用して角度によって色が変わる様子を実演して見せた。

 そんな森永デザイナーは以前「シタテル」で2000枚のパッチワークからなる完全球体の洋服を作ったことがある。「完全に球体の洋服はきっと誰が着ても似合わない。だからこそサイズなんかを超越した“誰でも着られる洋服”につながるものがあると思い、実際に世界中の人に着てもらおうと思った」と説明する。自身の友だちからスタートして次々と友人へ洋服を回してもらい、着た人が1カ所ずつパッチーワークに色付けをしていく。洋服にはGPSをつけており、今どこで誰が着ているのかをチェックできる仕組みになっている。こうして世界を回る“誰でも着られる”服は現在ニューヨークにあって、今後も旅行を続けるという。

 自身の洋服作りの背景について聞くと、「音楽や本はなくても生きていけるが、人の肌に一番近い洋服は毎日着なければいけない。洋服の作り方は場所も工程も基本的には決められているが、全く違う技術に出合った時に新しい洋服の作り方を生み出すことができる。それをテクノロジーが導いてくれた」と語った。

宇宙開発から生まれた洋服もある

 一方のJAXAといえば、宇宙開発をはじめ医療研究や気候観測といった最先端の研究機関という印象が強いが、実は民間企業との連携や宇宙で得た知見・特許をもとにした日用品の開発などにも積極的に取り組んでいる。もっとも代表的なものがゴールドウインと共同開発した「エムエックスピー(MXP)」だろう。「宇宙では筋力を落とさないために毎日2時間運動をしなければいけない。そうすると大量の汗をかくが、もちろんお風呂になんて入れない。だからアンダーウエアも基本的には使い捨てになるのだが、宇宙に持っていけるものは素材まで非常に制限が厳しく、基本的にアンダーウエアは“何かあっても燃え尽きるもの”ということでコットン100%が義務付けられている」と説明する。

 民間人が宇宙へ行ける時代はすぐそこまで来ている。こうした背景から生まれた抗菌・消臭効果抜群の素材を使って製品化したものが「エムエックスピー」だったという。他にもマイナス150〜200度という宇宙の温度に耐えうるために開発された体感温度を一定に保つベストなんかもあって、「最近では地上でもゆるキャラの着ぐるみを着る人に人気」なのだとか。

全員参加型のイベントから
アイデアが生まれる

 イベントの最後には“未来の日常を変えうるテクノロジー”をテーマにしたフリーディスカッションを実施。森永デザイナーは「目が見えない人でも空間認知ができる“エコー”という洋服を作っていて、超音波の跳ね返りを利用して障害物との距離が洋服に圧として感じられるようになっている。これはあくまで障がいのある方に使ってもらうものではなくて、誰もがこれまで持ちえなかった新しい見方を獲得できるはずだ」と発表し、肥後主任は「森永さんの話にもあったように、今やGPSがいろんなところで活用されている。宇宙が身近になって生活が豊かになっていくのがすごくうれしい」とコメントした。

 参加者からも「食品をプリントで生み出す技術について」「タンパク質からさまざまな用途に合わせた物質を生み出すスパイバーについて」「AIを活用して洋服は今後デバイスになっていくのか」といったさまざまな議題が登場し、会場を盛り上げた。河野社長自身も、自社で開発したセンサー付きの洋服をお披露目し、「スマホをかざすだけで情報を取得できたり、入口を通るだけで出退勤が管理できたり。いろんな可能性が秘めた洋服をマス・カスタマイゼーションで生み出していきたい」と締めくくった。

 当日会場に集まったのはアパレル業界、テクノロジー業界を代表する企業の関係者ばかりだが、参加者は20人程度と決して多くない。単なるトークショーとは違って全員参加型のミーティングのような印象で、終始ゲストと参加者がコミュニーケーションを交わす形でイベントは進行した。今後はこうした会場で生まれたアイデアを「シタテル」を通じて製品化することも検討しているといい、メディアを“コミュニーケーションから生まれたコンテンツを掲載・具現化していく場”ととらえたことは非常に画期的だと感じた。マスをターゲットにPVなどの数字目標をたてるメディアではなく、小さなコミュニティーの中で新しいアイデアを生み出す同社の取り組みに今後も注目したい。

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