ファッション

着る人の心を開放する服「ユーモレスク」 デザイナーに聞く着る人と服の“密接な関係”

PROFILE: (わたなべ・ゆか) / 「ユーモレスク」デザイナー

(わたなべ・ゆか) / 「ユーモレスク」デザイナー
PROFILE: 新潟県新発田市生まれ。文化服装学院でファッションを学ぶ。アパレル・ライフスタイル企業カフーツの洋服部門でプレス兼販売やギャラリーでの勤務を経て2012年に「ユーモレスク」を立ち上げる。趣味はインテリアコーディネート、バレエ、歌舞伎鑑賞。夫は「ミナ ペルホネン」の皆川明 PHOTO:SHUHEI SHINE

日本発「ユーモレスク(HUMORESQUE)」は、洋服を“消費されるもの”ではなく、“着る人の心を開放し、物語を紡ぐもの”として提案するブランドだ。同ブランドは、デザイナーの渡辺由夏が2012年にスタート。きっかけは、「年を重ねると何を着たらいいのかわからない」という周囲の声から。年齢を重ねる美しさや魅力といったものを理解していた彼女は、それを洋服に置き換え、着る人が自然体でいられる素材やシルエットを追求する「ユーモレスク」を立ち上げた。シンプルだが、素材の質感やディテールにこだわり抜き丁寧に作られた洋服には、「着る人と服が密接になるように」という思いが込められている。

“自分のために選ぶ”心が開放される服

渡辺の素材に対するこだわりは、相当なものだ。コレクションの制作は年2回。既存の素材を使用することもあるが、コレクションの9割がオリジナルの素材作りから始まる。毎シーズン、彼女自身が思い描くコレクションにふさわしい素材を工場と二人三脚で開発している。例えば、シルク素材は、山形・米沢の工場と制作し、織りや加工、仕上げまで数カ月をかけて完成させる。渡辺は、「素材から作らなければ、私の作品にならないという感覚がある」と話す。定番素材を作った方がスケールメリットが出るが、そのシーズンのテーマに合わせてミニマムロットで作るという。

デザイン面でこだわるのは、“美しい所作”を引き出すようなディテール。ニットであれば、肩のラインの落ち方や手首が細く長く見える袖のバランスなど細かく計算してデザインに反映する。「着る人の仕草や佇まいが美しく見えるように工夫している」と渡辺。縫製のステッチ幅やボタンの位置、最終的な素材の風合いまで納得いくまで調整するという。「『ユーモレスク』では、控えめであることがエレガント。主張する洋服ではなく、着る人の周りに静かに漂う“香り”のような存在であってほしい」。また、「ユーモレスク」は、“自分のために選び、着る服”だという。「肌に触れた時の柔らかさや動きを妨げない軽やかさを大切にしている。着る人の心まで開放するようなノイズのない着心地が理想だ」と話す。

素材から開発しているため、大量生産はできない。コレクションに関しても受注生産で、そのシーズンだけの小ロット生産を貫いている。「本当に作りたいものだけを作って、欲しい人に届けたい」という思いからだ。

手入れする喜びから生まれる服との密接な関係

ブランドのシグニチャーアイテムは、カシミヤニットだ。渡辺は、「着心地が柔らかく、例え虫食いがあっても大切にされるアイテムだから」と話す。「ユーモレスク」では、モンゴル産の上質なカシミヤ糸をイタリアから仕入れ、日本国内の工場でニットに仕上げる。ブランド創業時にカシミヤニット購入した顧客が、10年以上経った今も愛用しているという。カシミヤニットは、「長く大切に来てほしい」という渡辺の思いを象徴するアイテムだ。

「ユーモレスク」では、カシミヤの他に、シルクやコットンといった天然素材を使用することが多い。いずれもきちんと手入れすれば、長年着用できる素材だ。通常、カシミヤやシルクの手入れはドライクリーニングが一般的だが、「ユーモレスク」の服は手洗い可能だ。渡辺は、「長く着てもらうために、手洗い用の洗剤も開発した」と話す。彼女が言う“着る人と洋服の密接な関係”とは、心地よく着るだけでなく手入れするという行為も含まれる。「手入れしながら着ることが喜びにつながってくれれば」と言う。

服を介して顧客と作る共通の記憶

起業した当時は、西麻布の1軒家を借りて制作から販売まで行っていた。西麻布と言う場所柄、ふらりと店舗に立ち寄る芸能関係者や料理研究家も多く、口コミでブランドが広がり、“知る人ぞ知る”ブランドになった。全国各地のセレクトショップから問い合わせも増え、卸先も増えていった。2019年には、満を持して南青山に旗艦店を出店。スタッフに販売を任せるようになり、ビジネスは順調だったが昨年に閉店した。その理由について渡辺は、「売上高が伸びても満足感が薄かった。自分が本当にやりたいことの原点に立ち返る必要があった」と話す。

彼女の原点とは、“自分が納得する方法で丁寧に服を作り、届けること”。 昨年から運営している代々木上原でサロン形式の店舗では、渡辺が顧客とゆったり対話しながら服を提案する。「お客さまと一緒に服を選ぶ時間を大切にし、服にまつわるストーリーを作っていきたい」と渡辺。彼女にとっての接客は“服を売る”と言う行為ではなく“服”を介して生まれる会話が共通の体験になり、記憶になることだという。「ビジネス以上に、お客さまとの気持ちの交換を大切にしている」と渡辺。市場のトレンドとは関係なく、彼女自身が“本当に美しいと思うもの”を見つめて提案する。その姿勢をこれからも続けていくという。

父親がピアノの調律師、母親がピアノの先生という音楽一家に生まれた渡辺。ブランド名の「ユーモレスク」は、母親がピアノでよく弾いていた曲だ。将来の夢は、ダンサーやピアニストなどのコスチュームをデザインすることだという。「自分の中にあるエネルギーを表現する人に着てもらえたら嬉しい」。

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